お兄ちゃん絶対至上主義☆

藤宮りつか

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第六章 混戦

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 鵜飼先生が兄ちゃんとセックスしている間、遠山先生は二人と同じベッドの上にいて、何なら自分も二人のセックスに加担していた。
 だから、遠山先生が兄ちゃんとセックスする時も、鵜飼先生は兄ちゃんにちょっかいを出すものだと思っていたんだけれど――。

「お前、ほんとにこの状況をただ眺めているだけでいいの?」

 鵜飼先生は兄ちゃんを遠山先生に預けた後はベッドから下り、俺のところへやって来た。
 そして、ただ見ているだけですることがない俺の隣りに腰を下ろして、俺の話し相手になってくれていた。
 さすがに全裸で俺と話すのは格好がつかないと思ったのか、下はちゃんと服を着ているけれど、上半身は裸のままだった。
 鵜飼先生の上半身裸の姿なんて見たことがなかったけれど、体育教師なだけあって、やっぱりいい身体をしていると思う。

「いいんだよ。どうせ今更止めに入るも何もないし。俺はあんた達と一緒になって兄ちゃんをどうこうしたいだなんて思わないから。ただこの状況に耐えるしかねーもん」

 鵜飼先生と兄ちゃんのセックスが終わった後、いつまでも部屋の入り口に突っ立っているのも何だから、部屋の中に入って腰を下ろした俺の隣りに鵜飼先生が座っているというこの状況。おかしいと言えばおかしいし、滑稽と言えば滑稽だった。
 俺と鵜飼先生の視線はベッドの上で今度は遠山先生とセックスしている兄ちゃんに注がれているわけだけど、二人ともどこか他人事のように兄ちゃんと遠山先生のセックスを眺めているだけだった。

「まあ、お前からしてみりゃ、腸煮えくり返りそうなくらいムカつく光景なんだろうけど、それはお互い様ってところがあるし。真実ちゃんが誰も選ばないからしょうがないよな」
「まあ……結局はそうなるんだと思うけど……」

 俺が酔い潰れて寝てしまう前も、そんな話をしていたように思う。
 俺にとって兄ちゃんとの今の関係は物凄く幸せな反面、物凄く辛いものがある。でも、それは鵜飼先生や遠山先生も同じなんだと思った。
 だけど、兄ちゃんの気持ちは兄ちゃん本人にしか決められないから、俺達三人がどんなに兄ちゃんを想っていても、兄ちゃんが俺達の中の誰か一人を選んでくれないことにはどうしようもない。

「ほんと罪な子だよな、真実ちゃんって。今までもそうやっていろんな女泣かせてきたんじゃないの?」
「そんなことねーよ。兄ちゃんはあんた達とこうなるまでは普通に真面目な人間だったもん。恋愛に関しても至って普通で真面目だったよ」
「ほんとに?」
「……だと思う。正直、俺は兄ちゃんとあんまそういう話をしたことがないから、兄ちゃんが今までどんな恋愛をしてきたのかなんてわかんねーけど。でも、兄ちゃんの周りにいる人間から聞いた話だと、兄ちゃんは別に女遊びをするような人間じゃなかったし、複数の人間と同時に関係を持つようなこともしていなかったみたい」
「そっかぁ……。じゃあ俺達が真実ちゃんを変えちゃったわけだ。変えちゃったっていうか、真実ちゃんの本性を暴いちゃったって感じかな? だって、元々そういう素質がないと説明がつかなくない? 今の状況って」
「確かに。まあ、兄ちゃんがこうなったのはあんたのせいだって、俺は思ってるけどな」

 遠山先生とセックスしている兄ちゃんを眺めながらする話でもないと思うが、こういう状況だからこそできる話でもあるような気がする。
 口数が少なくて無口な遠山先生は、あまり俺とそういう話をするつもりがないみたいだし、してくれそうにもないけれど、鵜飼先生の方はそうじゃない。兄ちゃんのことで俺と色々話したいことがあるみたいだった。
 敵の情報を集めるためとか、そういう狙いがあるわけではなさそうだ。ただ単にお喋りが好きというか、そういう話をするのが好きなんだと思った。
 人って自分の好きなものについて話している時が一番楽しいって言うもんな。要するに、鵜飼先生は誰かと大好きな兄ちゃんの話で盛り上がりたいだけなのかも。
 でも、そんな人間は限られていて、俺か遠山先生くらいのものだ。遠山先生は職場の同僚だし、同じセフレ仲間だから、今までそういう話も沢山してきたんだろうけど、最近お近づきになったばかりの俺とはそういう話を全然していないから、いろんな話をしてみたいって思っているのかもしれない。
 案外、鵜飼先生が学校で不必要に俺を呼び出していたのも、そういうことだったのかもな。
 まあ、俺にとっては迷惑極まりないから、学校で呼び出すのはやめてくれよ、って感じなんだけど。

「え~? 俺だけのせいじゃなくない? っていうか、真実ちゃんのタガが完全に外れちゃったのって、むしろお前のせいじゃね?」
「はあ⁉ 何でだよっ!」

 兄ちゃんの喘ぎ声をBGMに会話が弾む――これは会話が弾んでいるのか?――俺と鵜飼先生だったが、兄ちゃんがこうなってしまった原因は俺にあると主張してくる鵜飼先生に、俺は思わず声を荒げて反論してしまった。
 そりゃ俺だって自分が全くの無関係だとは言わないけどさ。俺が兄ちゃんとこうなる前から、兄ちゃんの身体はもうこなっていたんだから、それについては俺のせいも何もなくない?
 こっちは原因に絡みたくても絡めなかったって感じなんだから。

「俺が兄ちゃんと兄弟の一線を越えちまう前から、兄ちゃんの身体はもう充分淫乱で、けしからんことになっていたけど?」
「いや、まあそうなんだけどさ」

 そもそも、これまで男同士の経験なんて全く無かった兄ちゃんに、いきなり二人の人間の相手をさせたことが良くなかったんじゃないかと思う。
 おそらく、兄ちゃんはそれまで複数の人間と同時にセックスする経験なんてなかっただろうし、自分が受け入れる側に回ることも初めてだった。
 さっきの鵜飼先生と兄ちゃんのセックスを見ていてもわかるように、鵜飼先生はセックスが上手いみたいだし、兄ちゃんの理性を完全に崩壊させてしまうテクニックも持っているみたいだから、今までのセックスでは絶対に晒したことがない醜態を、鵜飼先生や遠山先生の前で惜しみなく晒してしまった兄ちゃんは、さぞかし自尊心や男のプライドが傷つけられてしまったに違いない。
 と同時に、今まで感じたことのない快楽や解放感の味も知り、一時的に自我が崩壊してしまったんじゃないだろうか。
 そして、再び自我を取り戻す過程で、新しい自分が形成され、今の兄ちゃんに至ったのではないか――と。
 早い話、初めての経験で新しい世界がひらけて、新しい自分を発見したってやつだ。
 だから、俺が兄ちゃんに与えた影響と言ったら、兄弟同士という新たな禁忌を犯した罪の意識くらいのものだけど、そんなものは男同士というインモラルを受け入れてしまった後の兄ちゃんにとって、それほど大きな罪でもなかったんじゃないかと思う。
 なので、俺が鵜飼先生に兄ちゃんとの関係について責任を押し付けられるいわれは何一つないと思うんだけど

「でも、真実ちゃんにとっちゃ、俺や遠山とシちゃったことより、お前とヤっちまったことの方がよっぽど人生変えちゃったと思うわけ。何せお前は実の弟だし、真実ちゃんの宝物だったわけじゃん。そりゃ真実ちゃんの人生も大きく変わっちゃうってものだ」

 鵜飼先生の中では、俺と兄ちゃんの関係こそが、一番兄ちゃんに影響を与えるという意見だった。
 そりゃまあ、血の繋がった兄弟で――ってところには、俺も兄ちゃんの人生を大きく狂わせてしまったんじゃないかという罪悪感がないではないけれど、俺と初めてセックスした時の兄ちゃんはただ流されてしまっただけって感じだったし。その後の兄ちゃんに何か大きな変化があったようには見えなかった。
 自分はもう鵜飼先生や遠山先生とそういう仲になってしまっているから、今更セックスする相手が一人増えたところで大差ないって感じだった。
 まあ、相手が弟ってところがずっと引っ掛かっているようではあったけれど、最近はそういう意識も徐々に薄れているように見受けられる。

「お前さ、真実ちゃんがただ流されやすいだけの淫乱だと思っているわけじゃないよな? 確かに真実ちゃんは流されやすいし、エロいことも大好きだけど、ああ見えて真実ちゃん、結構色々考えてんだよ?」
「そんなこと……」

 そんなこと、わざわざ鵜飼先生に言われなくても俺だってわかってるよ。
 でも、兄ちゃんが何をどんな風に考えているのかが俺には全然わからないから、俺はいつも不安になってしまうんだ。
 俺の望みは〈兄ちゃんに愛されたい〉ってこと、ただ一つなのに。

「そんなこと、あんたに言われなくてもわかってるよ」

 何だか思いっきり子供扱いをされたような気がして、そう言い返す俺の顔は完全に拗ねていた。
 そんな俺の顔を見た鵜飼先生は

「そっか」

 と笑った。

『そこ、笑うとこじゃねーから』

 と突っ込んでやりたい気もしたけれど、それはそれで面倒臭いからやめた。

「ぁんっ! 遠山っ……ぁっ、あ……ぁんんっ……も……」
「イくのか? 真実っ……。イっていいぞ……。俺もイきそうだからっ……」

 俺と鵜飼先生が呑気にお喋りしている間にも、兄ちゃんと遠山先生は二人だけのセックスに没頭していて、もうすぐ絶頂を迎えそうになっていた。
 いつも兄ちゃんのことを〈神崎〉と呼んでいる遠山先生も、セックスする時は兄ちゃんのことを〈真実〉って呼ぶことを、俺は初めて知った。


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