お兄ちゃん絶対至上主義☆

藤宮りつか

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第六章 混戦

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「ったく……。結局日が変わるまで家に居座りやがって。こっちは明日も仕事だっつーんだから、ちょっとは遠慮して欲しいもんだ」

 何だかんだと、鵜飼先生と遠山先生が家を後にしたのは、あれから更に二時間も経った午前一時前だった。
 一体二時間も何をしていたのかというと、特に何をするでもなく、ただ普通にお喋りしているだけではあったけれど。
 あと、二人とも俺と兄ちゃんの後に風呂に入った。
 家の中はしっかりクーラーが利いているけれど、兄ちゃんとセックスした後の二人はかなり汗をかいていたし、帰る前に風呂にでも入って、酒の入った身体を少しでもスッキリさせたかったのだろう。
 本当はそのまま泊っていきたいところだったんだろうけどな。今日はもう兄ちゃんを一回怒らせているからなのか、そういう我儘は控えて、おとなしく家に帰ることにしたみたいだった。
 ようやく帰った二人に安堵の息を吐いた兄ちゃんは、溜息と一緒にちょっとした不満を零しながら、ソファーに思いっきりもたれて俺をチラッと見てきた。

「え? 何?」

 明らかに俺に何か言いたそうな視線を向けてくる兄ちゃんに、俺は内心ドキドキしてしまうんだけど、兄ちゃんが俺に何を言いたいのかがわからないから、俺の鼓動は余計に速く脈打っていくような感覚がした。

「あのさぁ、真弥ぁ……」
「うん」
「兄ちゃん今日、お前の部屋でお前と一緒に寝てもいい?」
「え」

 えぇぇぇぇ~っ⁉ 俺に一体何を言いたいのかと思ったら、まさかのそんな可愛いお願い⁉ あまりにも可愛過ぎて鼻血吹くかと思ったわ。

(何でそんな可愛いお願い?)

 まさか兄ちゃん、あの二人と立て続けにセックスしたというのに、実はまだ物足りないとか言う?
 そう言えば兄ちゃん、あの二人とヤった後、俺ともスるつもりでいたもんな。
 俺が落ち込んでいたことと、俺にキスしようとする兄ちゃんの唇を俺がさり気なくかわしたことで、結果的には何もしていないけれど、俺が兄ちゃんの唇を躱していなかったら、俺と兄ちゃんはあのままヤっていたはずだった。

(だから、兄ちゃん的には俺ともシたいってこと?)

 なんてことをちょっと考えてしまった俺は、兄ちゃんにそんな考えを見抜かれてしまったみたいで

「ちっげーよっ! 別に俺、お前のこと〈シよう〉って誘ってるわけじゃねぇからっ! ただ、兄ちゃんのベッドが今寝れるような状態じゃねぇから、お前の部屋で一緒に寝させて欲しいっつってるだけだからっ!」

 顔を真っ赤にした兄ちゃんに怒られてしまった。
 言われてみれば、確かに兄ちゃんのベッドは今、兄ちゃんが安眠できるような状態ではなかった。
 二人にそれぞれイかされて、鵜飼先生には潮吹きまでさせられてしまった兄ちゃんのベッドは、汗と精液と兄ちゃんの出した水分でぐちゃぐちゃだ。そこで寝ろって言う方が酷な話だよな。

「ああ、そういうこと。良かった」

 もし、俺が兄ちゃんに誘われているのだとしたら、たとえそれが兄ちゃんの望みだったとしても、兄ちゃんの身体に負担を掛けてしまうんじゃないかと心配した俺は、そうじゃないとわかってホッとする。
 と同時に、少し残念に思う気持ちもあった。
 鵜飼先生と遠山先生に抱かれた直後の兄ちゃんを抱く気にはなれなかったけれど、あれから二時間も経てば、さすがに俺の気持ちも浮上している。
 俺と一緒に風呂に入った兄ちゃんは、身体も綺麗になって心身共にリフレッシュしたって感じだし。

「ったく……。何考えてんだ。今日はもうゆっくりしていいっつったのはお前なのに」
「ははは……ごめん。でも、兄ちゃんが急に〈一緒に寝てもいい?〉なんて言うから、俺もちょっとびっくりするっていうか、ドキッとするっていうか……」
「そりゃまあそうなんだろうけどぉ……。でもなぁ、兄ちゃんだってそこまで盛っちゃいねぇんだよ。今日はマジで疲れたから早く寝たいしよぉ」
「だよね」

 やれやれ。急に兄ちゃんが「一緒に寝てもいい?」なんて言うから、うっかり恥ずかしい勘違いをしちゃったじゃん。
 だけど、兄ちゃんにこの後俺とセックスするつもりはないらしい。
 まあ、それもいっか。たまには健全な形で兄ちゃんと一緒に寝るのも、それはそれでちょっとしたイチャイチャ気分を味わえそうだもんな。
 兄弟の特権というか、一緒に住んでいる人間の特権ってやつだ。一緒に住んでいるからこそ、たまにはこうして一緒のベッドに潜り込み、一緒に朝を迎えることができる。

「じゃあもう寝に行こっか。明日も兄ちゃんは仕事だし」
「ん」

 もうすっかり寝る準備は整っていて、いつでも寝れる用意ができている兄ちゃんは、俺の言葉に頷くと、ソファーから腰を上げた。
 兄ちゃんが二階に向かうのを確認してから一階の電気を消し、兄ちゃんの背中を追って俺達は二階へと上がった。
 そして、俺の部屋のベッドに兄ちゃんと一緒に潜り込むと、兄ちゃんは当たり前のように俺にギュッと抱き付いてきた。
 俺の部屋のベッドが男二人で寝るには狭いから、そうせざるを得ないところもあるけれど、俺に抱き付いてくる兄ちゃんは、何だか俺に甘えているように思えて可愛い。
 兄ちゃんがベッドから落ちてしまわないように、俺も兄ちゃんの身体を優しく包み込んであげると、兄ちゃんはチラッと俺を見上げてきて

「何か……こういうのってちょっと照れ臭いな」

 今更ながらのことを言ってきた。
 俺と一緒のベッドで寝る時はいつもこうなのに。目的がただ一緒に寝るだけになると、兄ちゃんはちょっと照れ臭いらしい。

「そう? 俺は単純に嬉しいけどね。こうして兄ちゃんとただ抱き合って寝るだけっていうのも」

 そもそも、自分から俺に抱き付いてきた癖に。俺に抱き返されると恥ずかしさを感じてしまう兄ちゃんも可愛い。

「電気消すよ?」
「ん」

 兄ちゃんと一緒にベッドに潜り込むまで、部屋の電気は点けたままにしていたけれど、後はもう寝るだけになったから、枕元に置きっ放しにしているリモコンで部屋の電気を消した。
 部屋が暗くなると、急に夜が訪れたって感じがして、自然と眠くなってくるから不思議だ。

(ほんと、今日は長い一日だったなぁ……)

 思い返してみれば、今日は本当にいろんなことがあったと思う。
 その大半が俺の望んでいたことではないし、人生最悪だと思うようなこともあったけれど、最終的にこうして兄ちゃんと一緒に眠れるのであれば、悪い一日じゃなかったと思えてしまう俺がいる。

「今日は色々とごめんなぁ」

 今日はもう疲れ果てているから、部屋が真っ暗になると兄ちゃんはあっという間に寝てしまうだろうと思っていた。
 だけど、兄ちゃんは相変わらず俺に抱き付いたまま、改めて俺に謝罪してきたりなんかするから、今日のことを相当気にしているんだとわかった。
 まあ、気にせずにはいられないようなことをしちゃったもんな。俺がどんなに兄ちゃんを許してあげても、兄ちゃんはずっと気になっちゃうんだと思う。

「いいよ。俺、本当に怒ってないから」
「ほんとに?」
「うん。そりゃまあちょっとはショックを受けたけど、あれは俺にも責任があったから、兄ちゃんが悪いわけじゃないもん」

 何か兄ちゃんを慰めてあげていた時と同じような会話を再びしているって感じだけど、それで兄ちゃんの気が晴れるならいくらでも――って思う。
 今日のことを全く気にしないわけにはいかないけれど、兄ちゃんの中にある俺に対する罪悪感が消えるまで、俺は何度だって兄ちゃんを許してあげるつもりだった。

「真弥……」

 俺の口から「兄ちゃんは悪くない」って言ってもらえると兄ちゃんは安心するのか、俺に強くぎゅうぅっと抱き付いてきて

「何か……俺が知らない間に真弥がめちゃくちゃ大人になった気がするのは、兄ちゃんの気のせいかぁ?」

 なんて言ってきた。
 それは兄ちゃん的にどんな心境なんだろう。俺が大人になると、兄ちゃんはどんな風に思うんだろう。
 弟の成長を素直に喜んでくれるのだろうか。それとも、ずっと子供だと思っていた弟が、急に大人になってしまったら寂しいと思うものなのかな?
 俺はあくまで弟だから、弟を思う兄ちゃんの気持ちは結局のところよくわからないんだけど、こうして少しずつ変わっていく俺の姿が、兄ちゃんにとって誇らしいものであればいいと思う。

「どうかなぁ? 自分では今までと何かが変わったようには思わないんだけどね。でも、兄ちゃんに〈大人になった〉って言ってもらえるのは嬉しいよ」

 多分、俺は兄ちゃんが思うほど大人になったわけじゃないし、兄ちゃんも俺が思っているほど大人じゃないんだと思う。
 だけど、兄ちゃんは俺の中にちょっとした変化を感じているし、俺も兄ちゃんに頼りっぱなしの生活を送っているところは変わらない。俺は兄ちゃんがいないと生きて行けない。そんな自分はまだまだ大人には程遠い存在だと思っている。
 とはいえ、変わったところももちろんあって、俺と兄ちゃんの関係なんかは去年とは随分変わってしまった。
 基本的な生活は変わっていなくても、変化はあったわけだ。
 そういう日常の変化が、人間としての変化にも繋がっているってことなのかな。
 とりあえず、〈大好き〉だった兄ちゃんが〈好きな人〉に変わり、〈好き〉という感情が〈愛してる〉に変わったことで、俺も人としての成長があったのは間違いないんだろうな。

(そう言えば俺、まだ兄ちゃんに〈愛してる〉って言ってないかも……)

 今まで「大好き」って言葉なら沢山兄ちゃんに言ってきたと思うけれど、「愛してる」は一度も言ったことがないかも。

「……………………」

 そのことに気が付いた俺は、何だか無性にその言葉を兄ちゃんに言ってあげたい気持ちになった。

「ねぇ、兄ちゃん」
「んー?」

 果たして、俺に「愛してる」と言われた兄ちゃんはどんな反応をするのだろう。

「俺、兄ちゃんのこと、マジでめちゃくちゃ愛してる」

 たかが人生十六年と半年くらいしか生きていない人間に、「愛してる」なんて言葉は早過ぎるのかもしれないけれど、俺の中で日々大きく育っていく兄ちゃんへの想いは紛れもなく愛で、その感情を言葉にするのであれば、「愛してる」以外にない。
 もう「大好き」って言葉だけじゃ足りないんだ。俺の中にある兄ちゃんへの想いは。

「おまっ……! は⁉」

 いきなり俺に「愛してる」と言われた兄ちゃんは、目を丸くして俺を見上げてきた。
 部屋が暗くて色の判別はできないけれど、多分、兄ちゃんの顔は真っ赤になっているんだろうな。

(かわい……)

 俺に「愛してる」って言われただけでこの反応。ほんと、普段の兄ちゃんはこんなにも照れ屋で、不器用で、まるで恋愛なんかしたことがないってくらいの初々しい反応を見せることもある。

「いきなり何つーこと言いやがるっ! 恥ずかしいこと言ってんじゃねぇよっ!」
「えー……」
「こちとらお前に〈大好き〉って言われんのはガキの頃から慣れてっけど、〈愛してる〉は言われたことねぇんだからなっ!」
「だって言ったことないもん。でも、言いたくなったから言ったんだよ」
「生意気っ!」
「いっ!」

 恥ずかしさがピークに達したのか、兄ちゃんは俺の背中に回していた腕を一度解き、俺のほっぺたを両手で左右同時に抓ってきた。
 こういう暴力的なやり取りも何だか久し振りなような気がする。
 最近は兄ちゃんと一緒にいてもエッチなことばかり考えちゃってて、兄ちゃんに触れる時もエッチなことをする時だけって感じになっちゃってたから。
 普通の兄弟っぽいこういうやり取りも結構いいものだと思った。
 もっとも、会話の内容は全然兄弟っぽいものではないけれど。

「何が〈愛してる〉だ。十年はえーわ」
「うー……」

 せっかくの「愛してる」も、兄ちゃんには「十年早い」と言われてしまいがっかりだ。
 それでも、恥ずかしそうに俺から顔を背けてしまう兄ちゃんに

(全くの脈ナシってわけでもないのかな?)

 と、ちょっと期待してしまう俺だった。


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