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最終話 前進
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しおりを挟むとまあ、そこまで言ったら、その相手は誰なのかって、普通は気になっちゃうよな。
俺ももったいつけるつもりなんてないから素直に白状しちゃうけど、与一が今付き合っている相手は、俺や兄ちゃんとも縁の深い、あの鵜飼先生だったりする。
つまりどういうことなのかというと、兄ちゃんと別れた後の鵜飼先生は与一と付き合っている――ということだ。
どうしてそうなってしまったのかは、俺のせいというか、俺の軽い気持ちで言った発言が大きく影響してしまったわけだけど、それについては未だに与一から責められることもある俺なのである。
でもなぁ……俺としては〈そこを責められても……〉って感じなんだよな。俺に悪気があったわけじゃないし、鵜飼先生が俺の言葉を鵜呑みにするとは思っていなかったんだもん。
俺が余計な発言をしてしまったのは確かなんだろうけど、結局鵜飼先生をその気にさせたのは与一本人なんだろうから、そこは与一の自業自得だと思うんだよな。
俺はただ、鵜飼先生に
『お前の周りにチョロそうで手の掛かる奴っていない?』
って聞かれたから、与一の名前を出しただけだ。まさかそれが恋人候補を探している発言だとも思わなかった。
それに、兄ちゃんと別れた後の鵜飼先生は、男同士の恋愛に見切りをつけて、健全で建設的な恋愛に戻るものだと思っていたから、次の相手も自分と同じ男を選ぶとは思っていなかったんだよな。
仮に次のターゲットも男だったとして、鵜飼先生が与一を選ぶとは思わなかったし。
だって、与一だよ? 兄ちゃんと全然タイプが違うじゃん。
しいて言うなら、二人とも自分の感情に素直で、怒りっぽいところが似てるっちゃ似てるけど、それ以外で兄ちゃんと与一に共通点なんかまるでない。
見た目もそうだし、身体つきも全然違う。何より、与一には兄ちゃんみたいな色気やエロさが全くない。
それなのに、どうして鵜飼先生は与一なんかを選んだんだろう。〈なんか〉なんて言ったら与一に失礼だけど、鵜飼先生は一体与一の何が良かったわけ?
気になった俺は直接鵜飼先生に聞いてみた。
すると、鵜飼先生からは
『あいつの馬鹿で、チョロくて、手の掛かるところがいいんだよ。真実ちゃんもチョロいっちゃチョロいところがあったけど、あいつはそれ以上だから見てて面白いんだよな。まあ、身体の方はまだまだって感じだけど、未熟なだけにこれから色々開発していく楽しみがあるしな』
という返事が返ってきた。
何か与一が完全に遊ばれているような気がしなくもなかったんだけど、一応与一とは付き合うつもりでいるみたいだったから――それを聞いた時、鵜飼先生と与一はまだ付き合っていなかった――、あとの判断は与一に任せようと思った。
まさか自分の初体験が男になるなんて思っていなかった与一は、最初こそ鵜飼先生のことを「許さないっ!」だの「訴えてやるっ!」だのと騒ぎ散らしていたけれど、最終的には鵜飼先生に陥落させられてしまったのだろう。「何で俺がっ!」と言いながら、結局は鵜飼先生と付き合うことになっていた。
そことそこが付き合うとは思っていなかった俺としては信じられない気持ちでいっぱいだったし、〈何で俺の周りの人間ばっかに手ぇ出すの?〉と鵜飼先生のことを疎ましくも思ったんだけれど、鵜飼先生と与一が付き合うことに驚いたのは俺だけじゃなかった。
当然日向も驚いたし、一応鵜飼先生の元カノになってしまう兄ちゃんは、自分と別れた後の鵜飼先生が与一と付き合うことに、あからさまな嫌悪感を示していた。
といっても、その嫌悪は鵜飼先生に対する未練とかではなく、今まで散々自分のことを「いい」と言っていた鵜飼先生が、自分とは似ても似つかない与一を恋人に選んだことが甚く気に入らない様子だった。
その証拠に
『別にあいつが誰と付き合おうが知ったこっちゃねぇけどよぉ……。何であの馬鹿なんだぁ? あいつの中で俺とあの馬鹿は一緒ってことかぁ?』
と、大層腹立たしそうな顔と口振りだった。
まあ、正直誰だってそう思うよな。兄ちゃんと鵜飼先生の関係を知っている日向も
『何で与一? 真実さんとは全然違うじゃん』
って言っていたし。遠山先生も鵜飼先生の新しい恋人には驚いた様子だった。
でもまあ、そうなっちゃったもんは仕方がないし、鵜飼先生は何も兄ちゃんと与一が似ているからって理由で与一を選んだわけでもなさそうだった。
だから、今でも「何で?」とは思うものの、あの二人のことはそっと見守ることにした。今はもう兄ちゃんも気にしていないみたいだし。
もっとも
「もぉぉぉぉ~っ! 何なの⁉ あの人っ! 何であんなに勝手なの⁉ こっちの都合とか全然考えてくれないんですけどっ! 俺、完全に遊ばれてない⁉ 弄ばれてるよね⁉ ムカつくぅぅぅぅ~っ!」
鵜飼先生と与一が本当に上手くいっているのかどうかは微妙なところではあるんだけれど。
一限目には間に合わず、二限目から俺達と合流することになった与一は、昼休みの間中、愚痴と不満が止まらないみたいだった。
ほんと、だったら何で付き合ってんの? って感じなんだけど
「大変だなぁ。だったら別れちゃえば?」
俺がそう言うと、与一はグッと言葉に詰まってしまい
「そういうわけには……。だって、このまま別れちゃったら、結局俺があいつのいいように弄ばれただけになっちゃうじゃん。それって悔しくない?」
今度は急にしおらしい態度だった。
そんな与一を見ると、何だかんだと言ってはいるが、結局は与一も鵜飼先生に惚れているんだとわかる。
女好きだったはずの与一が自分と同じ男に惚れる日が来るとは思わなかったけれど、恋愛って結局はときめきが大事だったりするから。自分に初めてをいっぱいくれる鵜飼先生に、与一も抗いようのないときめきを感じてしまうんだろうな。あの人、そういうのめちゃくちゃ上手そうだし。
何はともあれ、与一ももう子供ってわけじゃないんだから、自分の問題は自分で解決しろと思う。鵜飼先生との関係も、自分なりに上手くやっていくしかないし、今後どうするかも自分で決めるべきだろう。
ちなみに、与一が鵜飼先生とそういう関係になってしまったことで、俺と兄ちゃんの関係や、日向と上村先生の関係も与一の知るところになった。
言うまでもなく、俺や日向が与一の知らないところでそんなことになっていたと知った与一は、「何で言ってくれなかったの⁉」ってめちゃくちゃ俺達のことを責めてきたけれど、そのあたりの事情は丁寧に説明してあげた。
今でこそ、与一も男同士の恋愛に身を置く立場になっているけれど、もしそうじゃなかった場合、与一は俺や日向の気持ちを理解できていたのか――と聞いたら、与一は何も言い返せなくなり、今まで黙っていた俺と日向のことをすんなり許してくれた。
自分がそういう立場になって初めて、人に言えないこともあるって学んだみたいだ。
ただまあ
『日向はともかく、真弥はどうかと思うけどな。兄弟で何やってんの? ってか、あの人が抱かれる側とか信じらんない』
とは言われた。
男同士の恋愛は認めざるを得ないけれど、兄弟同士ってところはちょっと引くらしい。
更に言えば、兄ちゃんと鵜飼先生が元セフレで、一時期は付き合っていたこともあると知った与一は
『俺とお前の兄貴が竿兄弟とかマジで嫌なんだけど』
とも言われたが、それについては
『それを言ったら、俺だってお前の彼氏と穴兄弟になるわ』
って言い返してやった。
それ以来、俺達の間でその話題はタブーになった。
ほんと、鵜飼先生が俺の身近にいる人間ばかりに手を出してくれるから、俺達の関係がちょいちょい微妙になっちゃうじゃんか。勘弁してよ。
せっかくモテるんだから、もっと別のところで恋愛でも何でも好きにしてくれよ、って思う。
何はともあれ、鵜飼先生と与一が恋人同士になって、日向も上村先生と恋人同士の一線を越え、俺も兄ちゃんを独占できるようになったことで、俺達三人は恋に勉強に忙しい日々を送っているわけなのである。
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