お兄ちゃん絶対至上主義☆

藤宮りつか

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「つーかさぁ、お前は俺が恋愛感情も持ってねぇ弟と、二年間も身体だけの関係を続けてるとでも思ってんのかぁ? 赤の他人ならそれもあるかもしんねぇけど、弟相手にそれはねーわ」
「え……え? でも……」
「兄ちゃん言ったよなぁ? もう真弥としかシねぇって」
「言ったけど……〈もう〉とは言ってないよ?」
「そうだっけ? でも、ちゃんと〈愛してる〉っつったじゃん」
「〈かも〉ってつけたよね⁉ 兄ちゃんが俺に言ったのは〈愛してる〉じゃなくて、〈愛してるかも〉じゃんっ!」
「同じだろ。弟に面と向かって〈愛してる〉なんて恥ずかしいんだよ。言ったことには変わりねぇんだから、ちょっとくらい誤魔化しても構わねぇだろ」
「そこ誤魔化さないでよっ! 大事なところなんだからっ!」

 えぇぇぇぇ~っ! マジなの⁉ 冗談抜きでマジでこういう展開なの⁉
 だったら言わせてもらうけど

「だったら何で兄ちゃんは俺と付き合うことに乗り気じゃねーのっ⁉ ぶっちゃけ兄ちゃんが俺と付き合うことに消極的なのって、俺のテンションがめちゃくちゃ下がるんですけどっ!」

 ってなるじゃん。
 今まで一度だって俺に恋愛的な感情がある素振りなんか見せなかった癖に。その兄ちゃんが俺のことを「恋愛的な意味で好き」とかいきなり言い出したら、俺だってさすがにちょっと信じられないし、思わず警戒しちゃうってものだ。
 それなのに兄ちゃんときたら

「だってよぉ……お前とは恋人同士になるより、ずっと兄弟のままでいてぇんだもん。考えてみろよ。恋人同士なんかより、兄弟の方がずっと絆が深いだろ」

 なんて言ってきた。
 俺がずっと望んでいる兄ちゃんとの恋人関係を、〈恋人同士なんか〉って言った。兄ちゃんにとっては恋人同士になるよりも、兄弟のままでいた方が俺との絆や愛情が深いってこと?

「だから、俺はお前と恋人同士になるより兄弟のままでいてぇの。だって俺、俺の弟の真弥のことが大好きだもん。だったらいっそのこと、兄弟のまま愛し合っちまえば良くね? その方が最強って感じがするし」
「それはそうかも……なんだけどぉ……」

 ああもう……。ほんとマジで何なの? この展開。ずっと兄ちゃんと恋人同士になることだけを夢見てきた俺が馬鹿みたいじゃん。
 しかも、兄ちゃんが俺と恋人同士になりたくない理由がクソ可愛いんだけど。
 何? 兄ちゃんは俺と恋人同士になるより、兄弟で愛し合っている方が最強だと思ってるわけ?
 そんなこと言われたら、俺も喜んで「だったら兄弟で愛し合おう!」ってなっちゃうじゃん。
 ほんと、どうすれば兄ちゃんと恋人同士になれるのかって、散々悩んだ俺の二年間を返して欲しい。

「つーわけでぇ、兄ちゃんはこのまま真弥と兄弟のまま愛し合っていきてぇと思ってんだけど、真弥はどうしたい? やっぱ兄ちゃんと恋人同士になりてぇかぁ?」
「~……」

 ほんと……ほんとにもうさぁ……。今までも散々兄ちゃんには振り回されてきたと思っているけれど、今日ほど兄ちゃんが正真正銘の小悪魔に見えたことはないよ。兄ちゃんはどんだけ俺を振り回せは気が済むの?
 でも、兄ちゃんの本心を知ってしまったら、俺ももう兄ちゃんと恋人同士になりたいだなんて思わない。むしろ、兄弟のまま愛し合って、世界最強のラブラブ兄弟を目指してやろうって、新たな目標が湧いてきた。

「……わかった。俺、もう兄ちゃんと恋人同士になりたいなんて思わない。その代わり、兄ちゃんは一生俺だけの兄ちゃんでいてくれる? 俺のこと、一生愛してくれるって誓ってくれる?」
「おう。誓ってやる」

 兄ちゃんと恋人同士になる――という俺の夢は打ち砕かれた。
 でも、その代わりに兄ちゃんから永遠の愛を誓ってもらった俺は、喜ぶ前に兄ちゃんに聞かなくちゃいけないとこがいっぱいあった。
 さしずめ

「それならまず聞きたいんだけど、兄ちゃんっていつから俺のことを恋愛的な意味で好きになったの?」

 まずはそこを聞いておかなくちゃいけないよな。兄ちゃんがいつから俺のことをそういう意味で好きなのかを自覚して、そこから俺をどんな目で見ていたのかを知りたい。

「え? えっとぉ……いつからって言われると、あんまハッキリ憶えてねぇんだけどぉ……」
「兄ちゃん」

 こっちは兄ちゃんと恋人同士になる夢を潔く諦めたっていうのに、兄ちゃんの方は大事な話を誤魔化そうとした。
 照れ臭いのはわかるけど、一度でいいからそういう話はちゃんとして欲しいと思う。

「~……わかった。ちゃんと言うから。だから、んな怖い顔すんな」

 嘘や誤魔化しは許さないよ、って顔で兄ちゃんを見る俺に、兄ちゃんは観念した顔だった。
 ほんとにもう。自分に都合の悪いことはすぐ有耶無耶にしようとするんだから。兄ちゃんのこういうところはちょっとずつ直させていかなくちゃな。

「でも、ほんとに〈いつから〉ってのはハッキリ言えねぇんだ。〈いつ頃から〉ってことくらしか言えねぇぞ?」
「それでもいいよ。知りたい」

 とはいえ、一度腹を括ったら潔く白状するつもりはあるみたいだから、兄ちゃんが話す気になるように仕向けることができれば、兄ちゃんの恥ずかしがり屋なところを無理に直す必要もないっちゃない。
 たまに見せる兄ちゃんの恥ずかしがり屋な一面も、可愛いっちゃ可愛いもんな。

「まあ、ぶっちゃけお前のことは最初から特別だったし、お前と初めてヤっちまった時も、〈ヤっちまった〉とは思ったけど、別に嫌ってわけじゃなかったんだ。ただまあ、兄弟なのにって気持ちはずっとあったなぁ。お前にとっても良くないって思ったし。でもお前、本気で俺のことが好きだって言うから、それについては兄ちゃんもすっげぇ悩んだんだぞ?」
「それは何かごめんね。でも、好きなものは好きなんだもん」
「で、兄弟でそんなことになっちまったもんだから、その前から関係があった鵜飼や遠山のことも何とかしねぇとって思い始めたんだけど……。あいつらはあいつらで全然俺の言うこと聞いてくんねぇし」
「そうだったねぇ。兄ちゃんが距離を取りたがっても、ガンガン絡んできてたもんね、あの二人」

 まだほんの少し前の話だっていうのに、やたらと懐かしく感じてしまうのはどうしてなんだろう。今はそれぞれ違う環境に身を置いているから、少し前のことでも懐かしく感じてしまうものなのなんだろうか。
 俺が高校を卒業して、鵜飼先生や遠山先生に会う機会がなくなってしまったことも関係しているのかも。

「でもなぁ、そもそも俺に自分と同じ男と付き合うつもりはなかったんだよ。男相手に恋愛感情なんて抱けねぇって思ってたし」
「それはもう耳にタコができるくらい俺も聞かされた」
「それなのに、鵜飼が〈三ヶ月でいいから俺と付き合って〉って言ってきて、俺もその申し出を受け入れただろ? 別に俺、鵜飼のことは全然そういう意味で好きじゃなかったんだけど、あの三ヶ月はわりと楽しいっちゃ楽しいこともあってよぉ。男同士で付き合うってのもアリなのかもって」
「え。そうだったの?」

 マジかよ。兄ちゃんが男同士の恋愛に目覚めたのって、またしても鵜飼先生のせいなの? あの人、どんだけ兄ちゃんの人生に影響を与えてくれるんだよ。
 まあ、あの人はそういうの得意そうだもんな。自分の恋人を楽しませたり、喜ばせたりするのも好きそうだし。
 もっとも、現恋人の与一には、あまりそういうことはしていなさそうなんだけど、それも与一が騒いでるだけで、二人っきりの時は意外と与一も鵜飼先生と過ごす時間を楽しんでいるかもしれない。
 文句ばっかり言うわりには、鵜飼先生と別れるつもりはないみたいだし。

「鵜飼とは付き合ってみたけど、結局俺は鵜飼に恋愛的な感情を抱いていなかったから結局別れちまったけどな。その後遠山も花江と親密になって、俺とお前だけの関係になったじゃん? お前、俺とスるようになってからどんどん大人っぽくなっていくし、俺の扱いも手慣れてきてさぁ。何かそういうところに惹かれたっつーか、惚れたっつーか……」
「へー……」
「あれ? 俺の弟ってめちゃくちゃいい男じゃね? って思い始めたのがきっかけかなぁ?」

 ぐぅ……可愛い。可愛過ぎる。俺が兄ちゃんのために自分がしっかりした大人の男にならなくちゃっ、って思う気持ちや努力は、ちゃんと兄ちゃんに見てもらえていたんだ。
 そして、少しずつ大人になっていく俺を、兄ちゃんは〈いい男〉だと思ってくれていたんだな。
 それを知ることができただけで、俺はもう嬉しくて死にそうだよ。

「そうだったんだ。でも、だったら言ってよ。俺は兄ちゃんが俺のことを恋愛的な意味で好きになった時点で、〈お前に惚れた〉って言って欲しかったよ」
「何となく気付いてるんじゃねぇかと思ったから言わなかった。だってお前、最近やたらと俺に〈愛してる〉って言ってくるじゃん。だから、俺の気持ちに気付いてんのかと……」
「んなわけないだろ。どういう解釈の仕方だよ。俺はただ、大好きって言葉じゃもう足りないくらい兄ちゃんのことが好きだから、〈大好き〉から〈愛してる〉に変えただけなんだけど」
「そうなのか? でも、兄ちゃん的には大好きの方がいい。お前に〈愛してる〉って言われんの照れ臭いし」
「今更照れるような関係でもないのに、何でそこだけはしっかり照れてんの? 兄ちゃんが恥ずかしがるポイントがよくわかんねーんだけど」
「兄ちゃんにも色々あんだよ」

 兄ちゃんが俺に恋愛感情を抱くようになったのはわりと最近みたいだけれど、その経緯を聞かせてもらうと納得はできた。
 まあ、鵜飼先生の影響が大きかったところは正直面白くないんだけど、あの人も今は兄ちゃんじゃない恋人と楽しくやっているみたいだから、それはもう良しとする。
 鵜飼先生のおかげで兄ちゃんの価値観が変わってくれたところは有り難いし。

「じゃあさ、一度でいいからちゃんと言ってよ。俺に〈愛してる〉って」
「え」
「だって、ちゃんと言ってもらったことないんだもん。一回だけでいいから言って欲しいな。兄ちゃんに〈愛してる〉って」
「おまっ……マジで言ってる?」
「大マジだよ」
「~……」

 兄ちゃんが俺に惚れてくれていることはわかったけれど、それならやっぱり言って欲しいよな。兄ちゃんに「愛してる」って。
 兄ちゃんは俺相手にそういうことを言うのが恥ずかしいみたいだけど、大事な言葉だからこそ俺は言って欲しい。
 ほんとに言わなきゃダメかぁ? みたいな顔で俺を見てくる兄ちゃんを、期待を込めた目で見詰めると

「…………ぃ……してる……」

 兄ちゃんは今にも消え入りそうな声で何かを言ったんだけど

「ん?」

 聞こえなかったからもう一度言ってもらうことにした。

「愛してるぅっ! 兄ちゃんは真弥のこと、めちゃくちゃ愛してっからぁっ!」

 愛してるって言葉を言うだけなのにこんなにも照れるんだって、俺は兄ちゃんのことがめちゃくちゃ愛おしいと思った。
 いつもベッドの上じゃ恥じらいもなく破廉恥な姿を晒し放題の癖に。エッチなことをしていない時の兄ちゃんはほんと純情って感じで可愛いな。

「ありがと、兄ちゃん。俺も兄ちゃんのことがめちゃくちゃ大好きで、死ぬほど愛してる」

 初めて俺に向かってちゃんとした「愛してる」を言ってくれた兄ちゃんの顔は真っ赤だったけど、そんな兄ちゃんをギュッと抱き締めると、俺は兄ちゃんに「大好き」と「愛してる」のどっちも言ってあげた。
 俺に抱き締められた兄ちゃんは、俺の腕の中で恥ずかしそうにしながら

「もう二度と言わねぇからなぁ……」

 照れ隠しの言葉を呟くのであった。
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