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03 寒い日々だから

打ち上げの席で

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05

 勉強会終了後の打ち上げパーティー。
 政治家や官僚、企業家たちにとってはむしろこちらが本命だろう。
 そこかしこで名刺の交換や自己紹介が行われている。
 もちろん、商社である青海商事も例外ではない。
 「わたくし、青海商事営業の係長で、林原と申します」
 「お会いできて光栄です。私は青海商事営業部の澄野と申します」
 克己と勇人が、目につく人間に片っ端から名刺を渡していた。
 「さすが、商魂たくましいですねえ」
 シャンパンに口をつけながら、瞳は2人のフットワークに感服する。
 「いやいや待て。
 なんで君たちがいるんだ…?」
 勉強会に克己と勇人がついてくることを聞いていなかったらしい龍太郎が困惑する。
 生真面目な龍太郎は物事が予定通りに進むことを好む。
 打ち上げパーティーに克己と勇人がいることは、彼の予定になかったらしい。
 「そりゃあ、偉い人たちが集まる場所ですから。
 顔と名前を覚えて頂くチャンスじゃないですか」
 「広報とは別のベクトルで、営業にとってこういう場は重要なんです」
 なりふり構わない名刺のばらまきを龍太郎に問いただされた2人は、しれっと返答する。
 「さすが」
 困惑する龍太郎と違い、瞳はそのバイタリティに素直に感心していた。
 
 「やあ、青海商事さん。
 とても面白いお話しを聞けて嬉しかった」
 「あ、これは先生、ご無沙汰しています」
 白髪でかっぷくのいい中年男が、大きな声で話しかけてくる。
 龍太郎には知り合いらしい。
 誰か一瞬わからなかったが、襟の議員バッジを見て思い出す。
 衆議院議員で与党の古参、藤代元だ。
 税調会長や国会対策委員長などを歴任している。
 閣僚や政務次官を務めたことがないためメディアへの登場が少なく、顔になじみが薄かったのだ。
 「いやあ、実に興味深いお話しでしたよ」
 「ありがとうございます。
 秋島瞳です。改めてよろしくお願いします」
 藤代の言葉に応じて、瞳は笑顔で名刺を差し出す。
 「うん。ありがとう。
 しかし、男ばかりの殺伐とした場所にあなたのような美人がいるとありがたい。
 みんな、勉強会にも身が入ったろうからね」
 名刺をポケットに押し込んだ藤代は、笑顔でお世辞を並べる。
 すでにかなり飲んで居るらしく、酒臭い。
 「先生、ご冗談を…」
 「いやいや、女性のことに関して私は冗談は言わんよ」
 藤代は豪放に笑う。
 瞳はこの手の男が少し苦手だった。
 悪い人間ではないのだが、よく言って誰にでもフランク、悪く言って厚かましいのだろう。

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