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03 寒い日々だから
相部屋の相手は?
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08
「申し訳ありません、確保できたのはこれだけです」
「いや、よくやってくれた。取りあえず、帰宅困難者の7割の寝場所が確保できたな」
会議室に集合した帰宅困難者を仕切るのは、広報課長の龍太郎だ。
瞳は恐縮しながら、なんとか予約できた宿泊施設の一覧をプリントアウトして渡す。
「それで、どうします?くじを引くのはいいとして、くじに外れた人は?」
克己が心配そうに問う。
最悪会社の床にマットでも敷いて寝ることも覚悟しているが、やはり不安なのだ。
シャワーも浴びられないし、明日になっても交通が復旧する保証はない。
着の身着のままで、会社に長時間の滞在を強いられる可能性もある。
「幸い、歩いて帰れる距離に自宅がある者も何人かいる。
泊まりの協力は頼んである。
だが、申し訳ないが、何人かは会社に泊まることになるだろう」
龍太郎は沈痛な面持ちで応える。
ニュースでは、すでに数千人単位の帰宅困難者が出始めているという。
「まあ、仕方ないか」
「くじで公平に決めましょう。恨みっこなしってことで」
集まっている者たちは、半ばあきらめ顔で口々に言う。
こうなっては是非もない。
「あの…広報課長、くじで決めるのに異論はないのですが…。
ひとつだけお願いが」
そう言って手を上げたのは、営業の期待のルーキー澄野勇人だった。
「澄野君、なんですか?」
「はい、男女はもちろん同室というわけにはいきませんので、女性は女性同士で相部屋になる形になっています。
ただ、これによると2人部屋を1人で使う人が出てきます。
そこでなんですが…部外者なんですけど1人お世話になりたい者が…」
勇人は申し訳なさそうな表情で、龍太郎を見る。
「あ、そうか。澄野君は住まいが近くだったな。たしかに、女性も一緒というわけにはいかんか…」
龍太郎は問題の所在に気づいて眉間にしわを寄せる。
勇人のアパートには、何人かの男衆が寝泊まりする。
女性を一緒に止めるのは、いろいろとまずいだろう。
「そうなんです。ぜひ、ホテルの方で預かって頂きたく」
勇人は恐縮しながらそう答えた。
問題の人物は、数分後晴海商事に現れた。
(あら…すごい美少女)
瞳はその人物にどきりとしてしまう。
吊り目がちな宝石のような瞳が美しい、可憐な美少女だったのだ。
身につけているのは、たしか近くにある私立学園の制服のはずだ。
「瞳先輩、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
後輩の沙菜が、手に握ったくじを勧めてくる。
「9番です」
瞳は女子社員たちにくじの番号を見せる。
「ていうことは、先輩が1人部屋になりますね」
佐奈が残ったくじを見せる。
取りあえず、ベッドがあってシャワーや風呂が使えるところはレディーファーストということになった。
その上で、割り当てられた寝場所を決めるため、くじを引いたのだ。
取り決めでは、9番を引いた者が1人部屋ということになっていた。
「瞳先輩が1人部屋か。
じゃあ、申し訳ないけどこいつをよろしくお願いします」
勇人が、「ご挨拶しなさい」と美少女を手招きする。
「澄野つかさです。よろしく…」
美少女、つかさは人見知りしているのか、固い表情であいさつする。
「秋島瞳です。よろしくね」
瞳はにっこりとほほえむが、つかさは難しい顔のままだった。
「かわいい娘じゃない?親戚の子?」
「ええと、妹なんです。年は離れてますけどね。12歳、中学1年生です」
勇人の返答に瞳は一瞬意外な気分になったが、すぐに納得する。
言われてみれば、勇人とつかさは似ている。
「わかりました。妹さん、責任持ってお預かりします。
つかさちゃん、よろしくね」
「よろしく…」
つかさは相変わらずの難しい顔で応じる。いや、さきほどよりもさらに表情が険しくなっていたかも知れない。
(人見知りしてるだけじゃない…?私、なにかそそうをしたかしら…?)
一晩一緒に寝泊まるするのに、同居人にこんな顔をされていては問題だ。
固いのを通り越して不機嫌にも見えるつかさの表情に、瞳は不安になるのだった。
「申し訳ありません、確保できたのはこれだけです」
「いや、よくやってくれた。取りあえず、帰宅困難者の7割の寝場所が確保できたな」
会議室に集合した帰宅困難者を仕切るのは、広報課長の龍太郎だ。
瞳は恐縮しながら、なんとか予約できた宿泊施設の一覧をプリントアウトして渡す。
「それで、どうします?くじを引くのはいいとして、くじに外れた人は?」
克己が心配そうに問う。
最悪会社の床にマットでも敷いて寝ることも覚悟しているが、やはり不安なのだ。
シャワーも浴びられないし、明日になっても交通が復旧する保証はない。
着の身着のままで、会社に長時間の滞在を強いられる可能性もある。
「幸い、歩いて帰れる距離に自宅がある者も何人かいる。
泊まりの協力は頼んである。
だが、申し訳ないが、何人かは会社に泊まることになるだろう」
龍太郎は沈痛な面持ちで応える。
ニュースでは、すでに数千人単位の帰宅困難者が出始めているという。
「まあ、仕方ないか」
「くじで公平に決めましょう。恨みっこなしってことで」
集まっている者たちは、半ばあきらめ顔で口々に言う。
こうなっては是非もない。
「あの…広報課長、くじで決めるのに異論はないのですが…。
ひとつだけお願いが」
そう言って手を上げたのは、営業の期待のルーキー澄野勇人だった。
「澄野君、なんですか?」
「はい、男女はもちろん同室というわけにはいきませんので、女性は女性同士で相部屋になる形になっています。
ただ、これによると2人部屋を1人で使う人が出てきます。
そこでなんですが…部外者なんですけど1人お世話になりたい者が…」
勇人は申し訳なさそうな表情で、龍太郎を見る。
「あ、そうか。澄野君は住まいが近くだったな。たしかに、女性も一緒というわけにはいかんか…」
龍太郎は問題の所在に気づいて眉間にしわを寄せる。
勇人のアパートには、何人かの男衆が寝泊まりする。
女性を一緒に止めるのは、いろいろとまずいだろう。
「そうなんです。ぜひ、ホテルの方で預かって頂きたく」
勇人は恐縮しながらそう答えた。
問題の人物は、数分後晴海商事に現れた。
(あら…すごい美少女)
瞳はその人物にどきりとしてしまう。
吊り目がちな宝石のような瞳が美しい、可憐な美少女だったのだ。
身につけているのは、たしか近くにある私立学園の制服のはずだ。
「瞳先輩、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
後輩の沙菜が、手に握ったくじを勧めてくる。
「9番です」
瞳は女子社員たちにくじの番号を見せる。
「ていうことは、先輩が1人部屋になりますね」
佐奈が残ったくじを見せる。
取りあえず、ベッドがあってシャワーや風呂が使えるところはレディーファーストということになった。
その上で、割り当てられた寝場所を決めるため、くじを引いたのだ。
取り決めでは、9番を引いた者が1人部屋ということになっていた。
「瞳先輩が1人部屋か。
じゃあ、申し訳ないけどこいつをよろしくお願いします」
勇人が、「ご挨拶しなさい」と美少女を手招きする。
「澄野つかさです。よろしく…」
美少女、つかさは人見知りしているのか、固い表情であいさつする。
「秋島瞳です。よろしくね」
瞳はにっこりとほほえむが、つかさは難しい顔のままだった。
「かわいい娘じゃない?親戚の子?」
「ええと、妹なんです。年は離れてますけどね。12歳、中学1年生です」
勇人の返答に瞳は一瞬意外な気分になったが、すぐに納得する。
言われてみれば、勇人とつかさは似ている。
「わかりました。妹さん、責任持ってお預かりします。
つかさちゃん、よろしくね」
「よろしく…」
つかさは相変わらずの難しい顔で応じる。いや、さきほどよりもさらに表情が険しくなっていたかも知れない。
(人見知りしてるだけじゃない…?私、なにかそそうをしたかしら…?)
一晩一緒に寝泊まるするのに、同居人にこんな顔をされていては問題だ。
固いのを通り越して不機嫌にも見えるつかさの表情に、瞳は不安になるのだった。
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