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第二章 元男子の少女たちは複雑
01 女の子の身体はまだ慣れない
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司が井清華学園に転校してから一ヶ月が過ぎた。
とある日の昼休み。
司と岬、そして他四人の女子生徒たちは、バスケットコートでスリーオンスリーに興じていた。
「せいっ!」
「させるかっ!」
岬の長身が華麗に勇躍し、司の頭越しに見事なゴールを決めていた。
こちらの171cmに対してあちらは176cm。わずかな差に思えるが、地味にハンデになっている。
「ちくしょー。やっぱりかなわないのか……」
女に頭越しにシュートを決められたのは、さすがにプライドがズタズタだった。
「まあ、司は攻撃向きだから、ディフェンスには向かないんじゃない? まだやる?」
余裕たっぷりに、(字義通り)自分を見下ろしながら言う。
「よし、攻守交代だ。まだ諦めてないぞ」
司はボールを受け取る。
このままでは男が廃る。頭に血が上っている自覚はあるが、後には退けなかった。
「準備はいいか?」
「いつでもどうぞ」
ドリブルしつつ、腰を落として構える岬の隙をうかがう。
左サイドの女子生徒にパスすると見せかけて、反対方向から突破を試みる。
「くっ……!」
岬はわずかに反応が遅れ、脚がもつれて転んでしまう。
「もらった!」
司は悠々とシュートを決める。
一度は落としたプライドを取り戻すことができた。自慢げに岬を見る。
「あれ……岬……?」
転んで倒れた岬は、そのまま動かなくなってしまう。
「岬! 大丈夫か岬!?」
慌てて声をかける。打ち所が悪かったのか。そう考えると、背筋に嫌な汗が流れる。
岬の顔をのぞき込むと、にわかに顔色が悪くなり苦しそうにしている。
「岬! どうしたんだ? どこか打ったか!?」
「生理……生理始まったんだ……。お腹痛い……」
司は一安心する。取りあえず怪我をしたわけではない。だが、別の問題が浮上する。
「岬、生理用品持ってるか?」
「あ……しまった……。寮に忘れてきた……。今月早かったから……」
(なんと……)
どうしていいかわからなくなる。生理用品がどこなら手に入るかなど、男には想像の外なのだ。
「保健室行けばあると思うけど……」
女子生徒のひとりが言う。
考えてみれば当然だ。保健室になければ、今の岬のような場合にどうにもならない。
「しばらく岬を頼めるかな? 保健室でもらってくるから」
「わかった。待ってる」
岬を女子生徒たちに預け、保健室に急ぐ。
「失礼します!」
大きな声とともに保健室の扉をくぐる。
「あら、市原君。どうしたの?」
きれいで歯切れのいい声が応じる。焦げ茶のショートボブがよく似合う、美人で優しそうな白衣の女が机に向かっている。
保険医の君津雅巳だ。三十代後半。医師資格を持つ厚労省のエリートで、女体化した元男の少女たちのケアのためにこの学校に出向しているのだという。
「生理用品下さい」
「あら、市原君も女の子の日?」
君津がいたずらっぽい表情で言う。
「ふざけないでください。友達が生理用品忘れたっていうんで、代わりにもらいに来たんですって」
「怒らない怒らない。冗談ですよ。それで? ナプキン? タンポン?」
「あ……」
司はそこで自分の見落としに気づいた。生理用品といってもいろいろある。ナプキンかタンポンか、岬に確認するのを忘れた。
「取りあえず、両方もらえますか?」
「はいはい。女の子に優しいのはいいけど、もう少し落ち着いた方がいいですよ」
「面目ないです……」
ぐうの音も出ない司に微笑みながら、君津はナプキンとタンポンをふたつずつ封筒に詰めてくれる。
「ありがとうございました」
一礼して、保健室を後にする。
とある日の昼休み。
司と岬、そして他四人の女子生徒たちは、バスケットコートでスリーオンスリーに興じていた。
「せいっ!」
「させるかっ!」
岬の長身が華麗に勇躍し、司の頭越しに見事なゴールを決めていた。
こちらの171cmに対してあちらは176cm。わずかな差に思えるが、地味にハンデになっている。
「ちくしょー。やっぱりかなわないのか……」
女に頭越しにシュートを決められたのは、さすがにプライドがズタズタだった。
「まあ、司は攻撃向きだから、ディフェンスには向かないんじゃない? まだやる?」
余裕たっぷりに、(字義通り)自分を見下ろしながら言う。
「よし、攻守交代だ。まだ諦めてないぞ」
司はボールを受け取る。
このままでは男が廃る。頭に血が上っている自覚はあるが、後には退けなかった。
「準備はいいか?」
「いつでもどうぞ」
ドリブルしつつ、腰を落として構える岬の隙をうかがう。
左サイドの女子生徒にパスすると見せかけて、反対方向から突破を試みる。
「くっ……!」
岬はわずかに反応が遅れ、脚がもつれて転んでしまう。
「もらった!」
司は悠々とシュートを決める。
一度は落としたプライドを取り戻すことができた。自慢げに岬を見る。
「あれ……岬……?」
転んで倒れた岬は、そのまま動かなくなってしまう。
「岬! 大丈夫か岬!?」
慌てて声をかける。打ち所が悪かったのか。そう考えると、背筋に嫌な汗が流れる。
岬の顔をのぞき込むと、にわかに顔色が悪くなり苦しそうにしている。
「岬! どうしたんだ? どこか打ったか!?」
「生理……生理始まったんだ……。お腹痛い……」
司は一安心する。取りあえず怪我をしたわけではない。だが、別の問題が浮上する。
「岬、生理用品持ってるか?」
「あ……しまった……。寮に忘れてきた……。今月早かったから……」
(なんと……)
どうしていいかわからなくなる。生理用品がどこなら手に入るかなど、男には想像の外なのだ。
「保健室行けばあると思うけど……」
女子生徒のひとりが言う。
考えてみれば当然だ。保健室になければ、今の岬のような場合にどうにもならない。
「しばらく岬を頼めるかな? 保健室でもらってくるから」
「わかった。待ってる」
岬を女子生徒たちに預け、保健室に急ぐ。
「失礼します!」
大きな声とともに保健室の扉をくぐる。
「あら、市原君。どうしたの?」
きれいで歯切れのいい声が応じる。焦げ茶のショートボブがよく似合う、美人で優しそうな白衣の女が机に向かっている。
保険医の君津雅巳だ。三十代後半。医師資格を持つ厚労省のエリートで、女体化した元男の少女たちのケアのためにこの学校に出向しているのだという。
「生理用品下さい」
「あら、市原君も女の子の日?」
君津がいたずらっぽい表情で言う。
「ふざけないでください。友達が生理用品忘れたっていうんで、代わりにもらいに来たんですって」
「怒らない怒らない。冗談ですよ。それで? ナプキン? タンポン?」
「あ……」
司はそこで自分の見落としに気づいた。生理用品といってもいろいろある。ナプキンかタンポンか、岬に確認するのを忘れた。
「取りあえず、両方もらえますか?」
「はいはい。女の子に優しいのはいいけど、もう少し落ち着いた方がいいですよ」
「面目ないです……」
ぐうの音も出ない司に微笑みながら、君津はナプキンとタンポンをふたつずつ封筒に詰めてくれる。
「ありがとうございました」
一礼して、保健室を後にする。
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