異世界帰還書紀<1>

空花 ハルル

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試験に向けて

結成パーティ

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「い、いらっしゃい、ませ」
受付、会計役をしていたのは、アウムと同じ服を来た黒髪の知らない女性だった。言葉がまだ少したどたどしいことから、新人だと思われる。任務期間中に、新しいバイトでも雇ったのだろうか。
「何名様で・・って、蒼さんにサンダーちゃんじゃない。それにランツェさんまで、久しぶりですね。チーム、やっと組んだのですね」
メニューを抱えながらアウムがそう言う。
「まぁ、ヴィトン先生の紹介でな」
「そうだったんですね。・・あっ!ちょっと待っててください」
アウムはそう言うと、カウンターの中に入り、キッチンの方に向かった。蒼達が来たことを、ロートンさんに報告してくれるのだろう。
そして、1分も経たない内に、キッチンから出てきた。
「ロートンさんの許可を取ってきましたよ。2階の貸し切り、特別にOKもらってきました。案内しますね」
「えっ、いや。そんな、いいよ」
ランツェが驚きの余り焦っている。もちろん、蒼とサンダーも内心、驚き焦り散らかしている。
「いいのいいの。ロートンさんがそう言ってるのですから」
アウムは、多少強引気味にランツェの手を引っ張りながら、階段を登っている。蒼とサンダーは、その姿を小笑いしながら、後ろをゆっくりとついていった。
2階に登ると、まだ誰もいない。開店時間から、まだ間もないからだろう。
「お好きな所にどうぞ」
3人は、中央付近の本来6人座りのテーブルを使うことにした。ランツェは、まだ少しためらっていたが、吹っ切れて堂々と座ることにしたようだ。
「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びくださいね」
蒼とサンダーは、働いていた経験があるとはいえ、メニューの内容は全く覚えていない。ランツェは何度か来ているためか、とっくに注文は決まっているようだ。
二人は、約3分間メニューに目を通した末に、ようやく注文を決め終えた。
下にいるアウムを呼び、注文を伝える。

「料理が来るまで、時間かかると思うし、トランプでもしない?」
ランツェがポケットからヒョイッと、わりと新しめのトランプを取り出した。パーティだからということで、持ってきていたのだろう。
「いいけど。サンダーはルール知ってるのか」
蒼は少しだけ、誘われて色々のルールで遊んだことがあるが。サンダーは、全く知らない可能性が高い。
「知っているのは、ババ抜きくらいだ」
「じゃあ、決まりね」
そう言うと、ランツェがホイホイとカードを配りだした。
本来であれば、マナー的に店でこういうことをするのは良くない。が、貸し切りなので、少し騒いだくらいじゃ、誰も文句を言わないだろう。
「こんなにいいパーティ環境を用意してくれたロートンさんに感謝してもしきれないな」
「ねっ!」
目の前にトランプのカードが配られていく。手慣れた手つきだ。離れた場所からカードが投げられて置かれていくのに、ほとんどズレがない。
「さっ!配り終えたよ」
3人がそれぞれカードを見て、揃うカードを捨てる。
「(うっ、俺がジョーカーか。まぁ、誰かに押し付ける意味では、最初の内はいいかもな)じゃあ、始めようか」
初手は、蒼が5枚、サンダーが4枚、ランツェが4枚といった感じだ。明らかに蒼だけが、ジョーカーを持っている可能性があるような枚数をしている。
ゲームの最初の内は、全員あまりカードが減りずらかったり。蒼のジョーカーがランツェに移ったり。かなり切迫した試合が続いている。
そして、数ターン後・・。
「上がりだ。初心者にしてはいいんじゃないか」
まさかの1位は、サンダーだ。
その間、ランツェからサンダーに、そして、蒼にジョーカーが戻ってきていた。蒼は内心少し焦っていた。
そして、蒼は残り2枚。ランツェは1枚だ。
「ここで当たりを引かれたら負けだな。どうするべきかな」
蒼はカードを目の負えないスピードで、シャッフルした。そして、片方のカードを浮かせたうえで、ランツェの前に出した。
「なるほどね。」
ランツェは、少し迷いつつも、その強調されたカードを引いた。そのカードを引かれても、蒼の顔にゆらぎはなかった。

その結果は・・・ランツェの勝ちだった。
「私の勝ちね」
「あぁ、負けた」
蒼が残ったジョーカーを前に放りだした。
ランツェがもう一試合しようと、カードを集め始めた時だった。
「お待たせしました。」
アウムがトレーに3人分の飲み物とサラダを持ってやって来た。
「ありがとう」
アウムがテーブルに料理や飲み物を置いていく。
「んっ、トランプですか?」
「そうだよ」
「じゃあ、今度は私が持っているチェスでもしてみたらどうです?そこの部屋においてあるので勝手に使ってくれてもいいですよ」
ランツェが指さした先は、最初一度だけ蒼とサンダーが泊まった部屋だった。確かにチェスのようなものが置かれてあった気がする。
「それじゃあ、失礼します。次は、メインの料理を持ってきますね」
そう言うと、階段を降りていった。

「私が持ってくる。蒼とランツェは先に食べ始めてて」
「わかった」
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