27 / 34
第3章:厳島決戦編
6話
しおりを挟む毛利家、謀反。
一報はすぐ、陶くんたちのもとにも届けられました。
「くそっ、あの老いぼれめ!」
大内勢はすぐに吉見攻めを中断。
一度山口まで引き返し、毛利攻めの準備を急ピッチで進めることとなりました──。
-*-*-*-*-*-*-*-
「見ろ、赤川! 収入の欄、桁が違うぞ!」
独立を果たした毛利家。天野氏、熊谷氏ら安芸国人衆は、ほとんど毛利家の傘下に入りました。
するとどうなるかというと、今までは『戦の時は毛利の指揮下に入るけど、税金は大内に納めます』だったものが、税金も毛利に納めるようになるわけです。
だもんで、マネーの虎・隆元くんはウキウキです。
「やはり額が大きいのは気持ちいいものだな。自分が国を動かしているという実感が得られる」
「ま、その分支出も増えますので、手元に残る額はそう変わりませんがね」
「わかってるよ! お前はアレだな、ホントに正しいことしか言わないな!」
と、帳簿の前で揉めていると、思わぬ来客がありました。
隆景くんです。
「あれ、どうしたの? 借金でもした?」
「するわけないでしょう! 陶を破る策を考えておったのですが、どうしても仲間に引き入れたい者がおるのです。今日はその相談に」
「誰?」
「村上水軍にございますよ」
村上水軍(または村上海賊)は瀬戸内海最大、ひいては日本最大の海賊集団でございます。
最近は小説や映画でも有名になりましたので、知っている方も多いかも知れませんね。
「次の戦、水軍が肝になります。すでに内々に臣従の打診を行い、金銭面での返答をいただいております」
「ほう、額は」
「月200貫(2000万円)です」
「つ、つきィ!? つきにひゃく!?」
「はい。無理は承知と思いますが、ここはお家のために何卒」
「無理無理無理! 石見銀山でもぶん取れるならまだしも、今の毛利にそんな金ないよ!」
「そこをどうにか工面くださいませ。では私はこれで」
「おい! 待て隆景! 出来ないからなぁーっ!」
天才は得てして、裏方の苦労を知らぬものです。
まあ、そもそもなぜ殿様が裏方をやっているのかという話なのですが……。
-*-*-*-*-*-*-*-
「……ってことがあってさ、参っちゃうよね」
その晩、夜ご飯を食べながら、隆元は仕事の愚痴をこぼしていました。
「月200貫だよ? 1日6貫使ってもまだ余るんだよ? どうしてその辺の感覚がわからないかなあ」
「左様に銭に詳しい殿が変なのですよ」
「変なら変で良いって言ったじゃないか」
「あら、そうでしたか?」
いつかのお返し、とばかり、あやちゃんが得意気な顔をします。対照的に隆元は膨れっ面です。
「だいたい、1日6貫なら、殿はもっと使ったことがあるじゃないですか」
「え、いつ?」
「山口の火事の時ですよ」
あー、あったねえ、と隆元が遠い目をします。
機転を利かせて街の人を救い、大内義隆から感状をもらったのは、隆元にとって生涯の自慢でした。
「あの時、結局何貫使ったんです?」
「ウン十貫は使ったね。ま、あれは一晩限りの出来事だったから。そうだ、あの時の火事を絵にしたものが、えーと、こっちの棚にしまってあるんだけど」
「別に見たくありませんよ、殿のご自筆でしょう?」
「…………」
「え、そんなに傷付かれましたか? ま、まぁ、ちょっと見るだけなら」
「それだよ!! でかした、あや!!」
「はぁ?」
「一晩限り契約するんだよ! それなら10貫、いや20貫出しても良い! そうと決まればさっそく手配だ!」
「ちょ、ちょっと殿! もう皆さんお休みになっておられますよ!」
「家が滅ぶかどうかって時に休んでられないよ! おーい、赤川ーっ!」
ドタドタ部屋を飛び出した隆元は、すぐに金を工面し、隆景のもとに届けました。
有名な「村上海賊1日契約」の裏には、こんな裏話があった……かはわかりませんが、海賊ってのはメンツで動く武士とは違いますんで、意外とこんな話だったんじゃないかなーと思っております。
0
あなたにおすすめの小説
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
国を、民を守るために、武田信玄は独裁者を目指す。
独裁国家が民主国家を数で上回っている現代だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 純粋に国を、民を憂う思いが、粛清の嵐を巻き起こす
【第弐章 川中島合戦】 甲斐の虎と越後の龍、激突す
【第参章 戦争の黒幕】 京の都が、二人の英雄を不倶戴天の敵と成す
【第四章 織田信長の愛娘】 清廉潔白な人々が、武器商人への憎悪を燃やす
【最終章 西上作戦】 武田家を滅ぼす策略に抗うべく、信長と家康打倒を決断す
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です))
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
戦国終わらず ~家康、夏の陣で討死~
川野遥
歴史・時代
長きに渡る戦国時代も大坂・夏の陣をもって終わりを告げる
…はずだった。
まさかの大逆転、豊臣勢が真田の活躍もありまさかの逆襲で徳川家康と秀忠を討ち果たし、大坂の陣の勝者に。果たして彼らは新たな秩序を作ることができるのか?
敗北した徳川勢も何とか巻き返しを図ろうとするが、徳川に臣従したはずの大名達が新たな野心を抱き始める。
文治系藩主は頼りなし?
暴れん坊藩主がまさかの活躍?
参考情報一切なし、全てゼロから切り開く戦国ifストーリーが始まる。
更新は週5~6予定です。
※ノベルアップ+とカクヨムにも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる