毛利隆元 ~総領の甚六~

秋山風介

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第3章:厳島決戦編

6話

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 毛利家、謀反。
 一報はすぐ、陶くんたちのもとにも届けられました。

 「くそっ、あの老いぼれめ!」

 大内勢はすぐに吉見攻めを中断。
 一度山口まで引き返し、毛利攻めの準備を急ピッチで進めることとなりました──。

 -*-*-*-*-*-*-*-

 「見ろ、赤川! 収入の欄、桁が違うぞ!」

 独立を果たした毛利家。天野氏、熊谷氏ら安芸国人衆は、ほとんど毛利家の傘下に入りました。
 するとどうなるかというと、今までは『戦の時は毛利の指揮下に入るけど、税金は大内に納めます』だったものが、税金も毛利に納めるようになるわけです。
 だもんで、マネーの虎・隆元くんはウキウキです。

 「やはり額が大きいのは気持ちいいものだな。自分が国を動かしているという実感が得られる」

 「ま、その分支出も増えますので、手元に残る額はそう変わりませんがね」

 「わかってるよ! お前はアレだな、ホントに正しいことしか言わないな!」

 と、帳簿の前で揉めていると、思わぬ来客がありました。
 隆景くんです。

 「あれ、どうしたの? 借金でもした?」

 「するわけないでしょう! 陶を破る策を考えておったのですが、どうしても仲間に引き入れたい者がおるのです。今日はその相談に」

 「誰?」

 「村上水軍にございますよ」

 村上水軍(または村上海賊)は瀬戸内海最大、ひいては日本最大の海賊集団でございます。
 最近は小説や映画でも有名になりましたので、知っている方も多いかも知れませんね。

 「次の戦、水軍が肝になります。すでに内々に臣従の打診を行い、金銭面での返答をいただいております」

 「ほう、額は」

 「月200貫(2000万円)です」

 「つ、つきィ!? つきにひゃく!?」

 「はい。無理は承知と思いますが、ここはお家のために何卒」

 「無理無理無理! 石見銀山でもぶん取れるならまだしも、今の毛利にそんな金ないよ!」

 「そこをどうにか工面くださいませ。では私はこれで」

 「おい! 待て隆景! 出来ないからなぁーっ!」

 天才は得てして、裏方の苦労を知らぬものです。
 まあ、そもそもなぜ殿様が裏方をやっているのかという話なのですが……。

 -*-*-*-*-*-*-*-

 「……ってことがあってさ、参っちゃうよね」

 その晩、夜ご飯を食べながら、隆元は仕事の愚痴をこぼしていました。

 「月200貫だよ? 1日6貫使ってもまだ余るんだよ? どうしてその辺の感覚がわからないかなあ」

 「左様に銭に詳しい殿が変なのですよ」

 「変なら変で良いって言ったじゃないか」

 「あら、そうでしたか?」

 いつかのお返し、とばかり、あやちゃんが得意気な顔をします。対照的に隆元は膨れっ面です。

 「だいたい、1日6貫なら、殿はもっと使ったことがあるじゃないですか」

 「え、いつ?」

 「山口の火事の時ですよ」

 あー、あったねえ、と隆元が遠い目をします。
 機転を利かせて街の人を救い、大内義隆から感状をもらったのは、隆元にとって生涯の自慢でした。

 「あの時、結局何貫使ったんです?」

 「ウン十貫は使ったね。ま、あれは一晩限りの出来事だったから。そうだ、あの時の火事を絵にしたものが、えーと、こっちの棚にしまってあるんだけど」

 「別に見たくありませんよ、殿のご自筆でしょう?」

 「…………」

 「え、そんなに傷付かれましたか? ま、まぁ、ちょっと見るだけなら」

 「それだよ!! でかした、あや!!」

 「はぁ?」

 「一晩限り契約するんだよ! それなら10貫、いや20貫出しても良い! そうと決まればさっそく手配だ!」

 「ちょ、ちょっと殿! もう皆さんお休みになっておられますよ!」

 「家が滅ぶかどうかって時に休んでられないよ! おーい、赤川ーっ!」

 ドタドタ部屋を飛び出した隆元は、すぐに金を工面し、隆景のもとに届けました。
 有名な「村上海賊1日契約」の裏には、こんな裏話があった……かはわかりませんが、海賊ってのはメンツで動く武士とは違いますんで、意外とこんな話だったんじゃないかなーと思っております。
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