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第3章:厳島決戦編
5話
しおりを挟む「はっきり言おう、迷っておる!」
いよいよ始まった家族会議。
元就の第一声は、思ったより正直でした。
「安芸国人の指揮権をやるといった約束を反故にされた以上、今から陶に謝りに行くのは愚策じゃ。しかし今の我らでは、普通に戦えば大内の全軍には勝てぬ」
「仮に謝りに行くとしても、吉見攻めの陣に馳せ参じ、武功をあげるのが最低条件。もし吉見が降伏すれば、我らは弁解の機すら失うことになります。つまり、」
いずれにしても時間がない──。
元就も隆景も一晩話し通し、顔には疲労の色が滲んでおります。
「そこで、皆の率直な意見を聞かせてほしい。さ、思うままに申してみよ」
……と、言われても。
元就と隆景に結論が出せなかったものを、そう易々と論じられるはずがありません。いつもは積極的な元春も言葉に詰まっています。そんな中、
「……失礼ながら、」
と、先陣を切ったのはあやちゃんです。さすが。
「私の生家・内藤家ですが、父が亡くなって以降、家中は分裂状態にあります。陶のやり方に賛成のもの、反対のものがそれぞれ徒党を組み、一触即発の状態が続いておるそうです」
「だから何じゃ」
「大内の中にも、陶のやり方に不満を持つものは多い。しかも吉見との戦の後となれば、全軍とぶつかる可能性は低いと存じます。ですから、私は『陶と戦うべき』と」
断言したあやちゃん。さすがは出来るオンナ、肝が座っております。
そして1人目が出てくると、次男坊と言うのは調子がいいものです。
「私も陶と戦うべきと存じます! 約束を反故にした相手に頭を垂れるなど武士の名折れ、ここは正々堂々迎え撃つべきにございます!」
「意外だな。お主は陶の肩を持つと思うておったが」
「確かに、陶様は武士として尊敬しております。だからこそ立派に戦うことで恩を返したいのです」
二人の意見に、元就と隆景は目をあわせ頷きます。
ここで隆元が「戦うべきだ」と言えば、議論はすぐにまとまったことでしょう。
しかし、そうしないのが毛利隆元という男です。
「私にはわかりませんね」
と、他人事のように言い放ってしまいました。
おいおい、自分の気持ちに素直になりすぎだろ……とあやちゃんが慌てふためきます。
「兄上! 兄上には自分の意見というものがないのですか!」
「意見はあるよ。そもそもだいたい私は大寧寺の一件だって反対だったんだ。それを皆、私の意見など無視して、陶に荷担したではないか」
「それは時勢というものが」
「そうだ、私は時勢が読めん。だからわからんと言った。それの何が悪いというのだ。時勢も読めんくせに皆を振り回す殿様よりよほどマシではないか」
「隆元、その辺りにいたせ。お前は昔からそういう屁理屈をこねるところが」
「だいたい父上も父上ですよ。『普通に戦えば勝てん』だなんて、だったら普通じゃない戦い方を考えればよいだけではないですか!」
その瞬間、
元就がドン!と床を叩きました。
皆が口をつぐみ、部屋は一気に静寂に包まれます。
隆元は、自分に向けて飛んでくるであろう罵声に、体を硬直させて身構えました。
……が、元就は眼を閉じたまま、何も発しません。
床をとん、とん、とん……と一定のリズムで叩きながら、やがて、
「………それもそうか」
と呟きました。
「……少しばかり家が大きくなって、気が小さくなっていたかも知れん。寡兵よく大軍を破るのが毛利の戦、それを忘れておった」
「ということは父上、」
「うむ、"殿"が仰せの通り、陶と戦うことと致す!」
その言葉に、場が沸き立ちます。
隆元は胸をなでおろすばかりで、あやちゃんの優しい眼差しに気付いておりません。もう。
元春も「っしゃあ!」と声をあげ、気合十分です。
で、唯一浮かない顔なのが、頭のいい三男坊です。
「お待ち下さい! 陶に負ければ我らは根絶やしにされるのですよ! 父上にどんな策があるか知りませんが、」
「策などこれから考えればよい。なーに、そんな戦は数え切れぬほどこなしてきた。得意中の得意よ」
「し、しかし、」
「隆景、世の中すべてを見通せるなどと思うな。わからぬ時は肚を括るしかない。兄を見よ、実に鮮やかな肚の括りようではないか」
「昔からわからぬことが多いもので、変に慣れてしまいました」
カッカッカ、と笑う元就。
一方、隆景は屈辱です。兄を見習え、なんて生まれて初めて言われたのですから。
「……わかりました、私も肚を括りましょう。ただし条件がございます」
「何じゃ」
「陶を破る策は私に考えさせてください」
じゃないと、僕のプライドが許しません。
と、声にはしないものの、誰が見ても顔に書いてあります。
それを頼もしく感じたか、はたまた可愛く感じたか、元就はその申し出をオーケーします。
「では隆元、その間にお主は文を用意いたせ。陶への絶縁状と、」
「国人たちへの意思表明と臣従依頼ですね。すべて作成しておきます。つきましては父上の判をお借りしても」
「よいよい、勝手に使って勝手に戻しておけ。元春、お主は」
と呼ぼうと思ったら、元春は部屋にはいませんでした。
すでに庭に飛び出し、真剣で素振りをしています。
その様子に、全員が笑みをこぼします。
「……では皆、よろしく頼む」
「ははっ!」
息子たちが立ち去ると、元就は縁側に座り、息をつきました。
少し前まで自分がすべてやっていたのに、気付けば息子たちが肩代わりしてくれるようになっている──それは嬉しくもあり、寂しくもあります。
「……これでよかったかのう、妙玖」
どうせ、ご自分で決めるくせに。
そんな空耳が聞こえて、元就は小さく微笑みました。
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