囚われの斎王は快楽に溺れる  竜と神話の王国

たまとら

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王宮  課題が山積み

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コンゴウの強い翼が夕暮れの空を飛ぶ。
蒼から紫に染めかかった空に、その十字形は黒々とし、はるか地上の者も何かが上を行くという違和感に、それを振り仰いだ。

なごりの陽に薄桃色に反射した竜と斎王は、人間や使役の竜の本能に衝撃を与えて跪かせた。


その、まるでジオラマのような、蟻塚のような有様を足下に見て、ラグナロワはいったい何を考えているのだろうかと、シリンは伺う。

神のごとき万能感。

……ソレだとしたら、人として陥りやすい間違いを徹底的に折らないといけない。


城下も、恐いぐらいに無音で、人はただ上を向いている。

ぐんぐんと流れる景色に眩暈がしそうだ。



コンゴウが放牧場に降り立った時、周りは黒かった。
黒山の人集りとは至言だと思う。
カラフルな髪や服なのに、ぎっしり集まるとソレは暗い色一色にみえる。

騎士も、兵士も下女も奴隷も、全ての人が、窓から、庭から、コンゴウを待ち受けていた。

無理もない。
今日中に帰るといい置いて、王が消えたのだ。
安否や警護で城中が混乱していただろう。


暗いモブの中に、一瞬金の髪がまたたいた。

シリンは視線を動かさずにそれを認識する。
そう、視線を動かせば、見たという行為に繋がる。
その違和感を与えてしまうと詮索されるかもしれない。

そのためにスノトラは気配をチラリと見せた。

この混乱の中で、何人かが交代したはずだ。


ダメ押しのように、わざと砂埃を撒き散らすコンゴウのパフォーマンスに苦笑する。

帰還を祝って、再会を祝って、赤鬼竜と青鬼竜が喉をそらしてヴォォォ…と叫ぶ。

今までしわぶき一つなかった場が崩れて、人々が歓声をあげた。
王が降り立って片手を上げる。

人の歓声がしんと静まる。

シリンは待ち受けていた全ての人にカーテシーをすると、コンゴウのくさび形の頭を抱きしめた。
目のふちを掻きながら、頬にキスをする。

「ありがとう コンゴウ。今日は楽しかったよ。無事に帰って、ラーマを守っておくれ。」

返事をするようにくるくると複眼の光が瞬くのをラグナロワは見る。
本当に話ているようだ。

「土産を持たせたいのだか。」

「今日はもう遅いので、次に。」

「わかった。次だな。」

次回の期待に満足そうに頷くラグナロワに微笑む。
コンゴウから離れると、竜はその体を真っ直ぐにのばした。

その巨大な背中を弓なりにしなわせた。
と、みるまに翼竜はその大きな翼をいっぱいにひろげて、大空めがけて飛び上がった。

力強い翼の羽ばたきは、砂まじりの空気を見物している人々の顔に叩きつけた。

そして思いがけない速さで竜は空を駆けた。

振り返りも旋回もせずに、空のかなたに消えようとしている。


ラグナロワもシリンも、空の彼方に消えていく竜の小さな姿を追って空を見上げている群衆の一部になっていた。
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