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学園
ヒーローの召喚
しおりを挟む翌日。
どんどんと召喚が行われているグラウンドにて、俺は貴族に捕まっていた。
「あらあら、ミク様のお側にいられるだけでも羨ましいというのにまだそんな態度をとっていられるの?」
「さすが下賎な輩だな」
……ああもう、うざってぇ。
ことの始まりはたった数分前。
まあまあ精悍な顔立ちの内海とグループ分けで離れてしまった。
まあ、いなくても何がどうという訳では無い。少し暇が増えるだけだ。
そして俺が入ったグループは何の因果か俺以外の三人がみんな貴族だったことが、今日の運のツキだ。
更にいえばそのうちの一人の女が、かなりのご身分だった。
名前は知らん。ただ、あとの男女二人が『ミク様』と言うのでそのあたりの名前だろう。
そして身分。聞いて驚け。
第一皇女の、娘。
やべぇぇぇぇ。
超やべぇぇぇぇ。
何故か。バレるかもしれないからだ。今後何かをやらかせばこの女を通じ、第一皇女、そして第一皇子まで伝わってしまうと思っていい。
いや、城下に行くとは言ったけどこ学園に来るとは第一皇子に伝えてないんだよな……。
ちなみに第一皇女は殺してない。むっちゃ元気なはっちゃけた姉貴だ。殺せそうもない。なんせ、魔法使いのトップとして国立魔法学院理事長だからな。
ええと、つまり。こいつは俺の姪ってことなんだが……普通は同じ年というのは有り得ない。サ〇エさんのカ〇オとタ〇ちゃんくらいならいいかもしれないが。
そんなことがありうるのが王族である。
話を戻そう。
「あなた、名前は?ミク様のお慈悲で名乗ってもよろしくてよ」
戻したところでこの場面は抜け出せない。
だいたいお慈悲とか言ってるが問題の『ミク様』はそこで召喚真っ最中だろうが。誰が慈悲するんだよ。
「おいおい、いい加減にしてくれよ。それとも何か?貧民は言葉も喋れないのか?自分の名前もしらないのか?」
あーあー、もううざってぇ。
誰か助け舟を出さないだろうか?
その考えが伝わった訳じゃないだろう。
ただ、助かったと言えば助かった。
「││││私に跪きなさい」
その言葉と共に現れたのは、鳳凰。そう、鳳凰であった。
炎が翼を作り、嘴を作る。その炎によって全てを灰にせんと燃え盛り、その一方で『ミク様』は近くにいながらも平然としている。熱さは感じないのか?
途端、周りから悲鳴、歓声、とにかく大声に包まれる。
……う、うん、凄い……んだろうな、この感じだと。
遠目に見た内海も頬を赤くしてギャーギャー言ってた。
いや、ほら、今まで魔法とか使ってないし?書物とかも読んだことないし?鳳凰って言ったのもなんか適当だし?「ミク様……召喚獣が鳳凰なんて尊敬いたしますわ!」あ、当たってたらしい。だって……ねえ?鳳凰が凄いの、よくわかってねーし?
ま、自分が雑魚引き当てないのを祈りますか。
「火走さん。次、火走さんの番ですよ。頑張ってくださいね?」
いつの間にか戻ってきていた『ミク様』。なんだか嫌味のようにも聞こえるが本人は清々しい笑顔だ。鳳凰をなんとも思っていないような、そんな顔。
それになんだか少しの違和感を感じながらも俺は中央の魔法陣に向かった。
ああ、あれだ。あれ。
違和感の正体は。
『あの不敵な笑みを浮かべる姉貴が育てた割に、随分と純新無垢な少女だな』という違和感。
……あいつも腹ん中に何か抱えてんのか?
「火走、どうした?」
教官が尋ねてくる。
そこで、俺は召喚獣のことを思い出した。
ん?やば、俺詠唱文知らねーわ。
「あー、せんせ、俺詠唱忘れました」
「……ったく、そんなのお前だけだぞ。貴族を待たせるな。俺がどやされる」
……知らねーよ。
「ほらよ。それ読め」
雑だなぁ。
ほいっと渡されたのは紙切れ。俺でもギリギリ読めるような単語が綴ってある。良かった……これでめんどくさい字が出てくれば更にめんどくさくなる。
そんじゃ、始めっか。
「我、ここに、数多の精霊のお力を共に、契約す。我が名に従え、『召喚』」
キラキラとエフェクトらしきものがかかって、俺の周りを包む。自分の魔力量を知らないから、ひとまず全力を注いで召喚した。
「……っておいおいおいっ!!」
俺の下の魔法陣から召喚される。だから大きいとそれに俺が乗った状態で上がることになり……。
「でけぇ!」
数メートル上昇したところでやっと止まった。
柔らかい、フワフワとした毛に覆われた、巨体。真っ白な毛並みは左右へ羽を広げ、今にも羽ばたかんと震えた。
「待て待て待てっ!飛ぶなっ、飛ぶな!!」
するとキュウウウ~ンと鳴いたそれは、羽を閉じる。その時に風が起こって周りの数人が転げた。……すまん。
ちょ、こいつ、なんなん?
え、知らん。
羽と尻尾、そして角があるから……龍?前足も後ろ足もあるし……。
『主様!契約、してくださいなっ』
「お、おう……」
クリンと首を長く捻って背中の俺を見る。目は青くて、空より透き通った色。
確か、血を一滴交えると、契約……。
俺はどこか正常に働かない頭を使い、親指を噛む。
そこから流れる血が真っ白なカンバスに色づけた。
目の前の顔も舌を噛み切ったのか、口から一滴したらせてその上に少し紫っぽい血液が交じる。
そして、契約が完了した。
俺の手の甲に少しの痛みを伴って白い紋章が描かれる。それは確かに龍を象った形で、こいつの種族が判明した。
『主様、これからよろしくお願いしますねっ!』
ペロリと舐められ、そのまま舌を見せてくる。そこには確かに紋章があった。俺のとは違い、禍々しい黒。それは俺の気性や所業をそのまま表してるようだった。
黒と、白ね……合わないように見えて、案外いいのか?
すっと紋章が消えた。聞けば、いつでも見れて消せるらしい。
『主様、僕はアマツって言います!僕の声は主様だけに聞こえるんですよ~』
へえ。じゃあこいつには俺の名前を教えておこう。
「俺は火走炎。だが、本当の名前は鏡篝だ。よろしくな」
『はいっ!』
健気な後輩のように慕ってくる。……可愛いとか思ってないぞ!?思ってないからな!?
……まあこのモフモフ加減はかなりいいが……。
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