異世界で普通に死にたい

翠雲花

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後編

20夢 (ジル視点)

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   ハルが不気味な程どす黒い魔力のモヤに包まれ、目の前で魂が抜けたように蒼白い顔をして倒れている。


  こいつが、こいつがハルを……!!!

「ルシフ!!貴様!!!」

   そう、ハルをこんな風にしたのは、俺の弟でもあるルシフだ。そして、ルシフの後ろにいるルイも共犯だろう。恐らく、ハルがここに居るのをルイがルシフに知らせたか。

「兄様…いや陛下、葉瑠は元々私のモノです。私は私のモノを取り返しただけです。何故そんなに怒るのですか?」

   ルシフは無表情で、そう言った。


「兄様だと?もう、お前は弟ではない!!それにハルはお前のモノでもない!!ハルに何をした!!」

   今まで無表情だったルシフは突然ニヤっと笑い、話し出した。


「そうだね、私…いや僕は最初から弟でもなんでも無かったよ。でも、ファンファンとか言うふざけた名前の神が葉瑠を攫ってしまったからね。大変だったよ。特に君の母親……あれは、僕がどんなに記憶を弄っても、まったく効かなくてね。だから病死とみせかけて呪い殺したよ。まったく、あれが居なければもっと早く元の力を取り戻せたって言うのにね。」


   こいつ、今なんて言った?

   母上を殺した?こいつが?記憶を弄れなかっただけでか?


   俺は、怒りがしずめられずに、魔力を放出した。

   部屋の中はあっという間に凍りつき、俺の魔力自体が、冷気を放っていた。


「貴様ッ!!」


「いいね、その表情。でもごめんね、僕もう葉瑠の元に行ってあげないと。きっと寂しがってるからね。」

   そう言ってルシフは、足元に黒い渦を作り消えしまった。


 俺の収まりきらない怒りは、自然とまだその場に居続けるルイへとむけられた。

「ルイ、お前もアイツの仲間か?」

   ルイはニヤついた顔をしながら、楽しそうに答えた。

「そう!俺はね、ルシフ兄の眷属だよ~。頼まれたから一緒に来たんだ~。まさか、王子になれるとは思わなかったよ~!!」

   ケラケラ笑っているルイを見て、俺の怒りは上昇していき、無意識に魔法を放っていた……が、その魔法は目の前に居る奴にかき消された。


「君さ、今あいつを殺す気で放ったでしょ。ダメだよ、まだ聞きたいことがある。」


   そう言って現れたのは俺の大嫌いな神だった。


   なんでお前、こっちに来れるんだ。

「ハルを連れていかれたら、温存なんてしてられないしね、それにあっちは天界に帰ってこれないと分かった以上、私がこちらに来るしかない。」

   あいつが天界に帰れない?どういう事だ。

「あいつ見覚えがあったんだ。さっき思い出したけど、前に堕天したものが居たんだよ。名前はルシファー……もう気づいたと思うけど、ルシフの事だよ。」

「そうそう!ルシフ兄……じゃなかった、サタン様の本名だよ~!!」

   サタンだと?……魔王か。なんで魔王がそんなにハルに執着する!?

「そう、君の言う通りだよ。ルシファーは堕天した後、サタンとして魔王になって、魔界に居るはずだった。」

   そこで俺たちは、何処でハルと出会ったのかという疑問に辿り着いた。


「ハルとサタン様の関係が知りたいって顔してるね~。いいよ、教えてあげても。ただし俺の事を見逃してくれるならだけど。流石にそこの神に出てこられたら俺の勝ち目ないし。」


   ルイはヤレヤレといった感じに溜息をついた。



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