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第二話 クズ勇者、旅に出る
その一
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ウィルハース王国、北の外れ、カルサナス大樹海。そこに開かれた街、モリタシティ。
五十年ほど前は魔物の巣窟だったこの地をシンノスケ・モリタという人物が開拓し、その功績により王国、帝国、双方から辺境伯爵の爵位と、正式にこの地の自治を認められていた。
形式上、王国の領内であるのだが、実質的には独立した国家である。以降、ここは人類最果ての領土として知られるようになった。
ココの特徴はなんといっても人種の多様さである。人間、エルフ、ドワーフ、ホビット、獣人――それどころか、魔物であるゴブリン、オーク、オーガまでが住んでいる。
初代辺境伯のシンノスケ・モリタはココに『多民族が安心して暮らせる場所を作りたい』と考え、そして、そのとおりの街を作ったのだ。
そんな地にオレ、グエル・モリタは産まれた。現当主、マグエル・モリタの三男――初代当主、シンノスケの孫として――母親はエルフ族長の娘である。
つまり、おれはハーフエルフだった。エルフと人間の混血はなかなか生まれないらしいのだが、丈夫で身体能力も並みの人間以上に育つらしい。オレもその例に漏れず、異母兄弟より元気――というよりやんちゃに育った。
そんなオレには幼馴染がいた。ホビット族のマルタというヤツだ。同い年ということもあり、いつも一緒に遊んでいた。オレの行動力についてくる同世代の子供は、マルタくらいしかいなかったのだ。ホビット族は小柄で温和な性格ながら、動きが機敏で、体力もある。
マルタもそういった種族特性を受け継いでいた。おかげで、他のヤツらよりマルタと一緒にいる時間が多くなる。だから、気兼ねなく話せる仲だった。ふたりの夢を語り合ったりもした。
「オレは勇者になるつもりだ」
そう、マルタに言った覚えがある。オレの母のようなエルフ族も、マルタのホビット族も、最初は別の土地で暮らしていた。しかし、魔王軍の侵攻で故郷を追われ、オレのじいちゃんが開いた街――当時は村だったらしいのだが――に流れついて、定住したらしい。
その話を聞いたときから、『勇者として魔族を討伐し、土地を追われたみんなの無念を晴らす――』というのがオレの夢となったのだ。マルタもオレの話に賛同し、「自分もグエルのパーティに加わりたい」と言ってくれた。
そして、お互い十五歳になる。
オレの兄たちがそうしたように、オレも王都へ行って、王立学校へ入学することになっていたのだが、その時に「マルタを連れて行きたい」と父に頼んだ。
父は理解してくれたのだが、マルタの家族に大反対された。ホビット族は元来、内向的で、あまり他種族との交流を好まない。なので、村を出ていくというマルタのことを心配してのことだった。
そんなマルタの家族をオレの父が説得して、オレとマルタは二人で、王都へ行くことになったのである。
「二人はそのような関係だったのですね」
馬車の中で、フィリシア――今はフィルだが――にオレたちの過去を話すと、彼女はとても興味深く聞いていた。
「それにしても、シンノスケ・モリタという人、とても素敵なお方です!」
「――素敵?」
「ええ! 『多民族が安心して暮らせる場所を作りたい』なんて、思ってもなかなか実行できることではありません! それをやり遂げてしまったのですから!」
なんか、フィルが盛り上がっているので、オレは苦笑いになる。
「まあ、たしかに、スゴい人だったんだろうな」
たった一人で魔族を退け、領地を守ったり、この世界になかったモノを作ったり――そういった武勇伝をオヤジから何度も聞かされた。
「そうなんですね……それで、グエルさ……んのおじいさん――シンノスケさまは、いつ、お亡くなりになられたのですか?」
フィルに言われて、オレは怪訝な顔をする。
「いや、死んでないぞ? 多分――」
「――えっ? 多分?」
オレが生まれる前にじいちゃん――シンノスケは「新しいことをやりたくなった――」とか言って、領地を息子であるオレの父親に預け、ふらりと出て行ったのだとか。
「それ以来、一度も戻ってきていないんだけどな。だから、顔も見たことがない」
よくよく考えると、けっこう、自分勝手な人だったんだなぁ――なんて、いまさら考えてしまう。
「そうだったんですね? ゴメンナサイ。てっきり、もうお亡くなりになったと思い込んでしまいました――」
まあ、勘違いされてしまうような言い方をしていたような気もするし――
「そうだな。そんな街にオレは産まれたから、こうしてマルタとも出会うことができた」
そういう意味ではじいちゃんに感謝しなければならない。
「ん? グエル? ボクを呼んだ?」
眠っていたマルタを起こしてしまったようだ。
「いや、なんでもない。そろそろ、ザブレロに到着するようだぞ」
五十年ほど前は魔物の巣窟だったこの地をシンノスケ・モリタという人物が開拓し、その功績により王国、帝国、双方から辺境伯爵の爵位と、正式にこの地の自治を認められていた。
形式上、王国の領内であるのだが、実質的には独立した国家である。以降、ここは人類最果ての領土として知られるようになった。
ココの特徴はなんといっても人種の多様さである。人間、エルフ、ドワーフ、ホビット、獣人――それどころか、魔物であるゴブリン、オーク、オーガまでが住んでいる。
初代辺境伯のシンノスケ・モリタはココに『多民族が安心して暮らせる場所を作りたい』と考え、そして、そのとおりの街を作ったのだ。
そんな地にオレ、グエル・モリタは産まれた。現当主、マグエル・モリタの三男――初代当主、シンノスケの孫として――母親はエルフ族長の娘である。
つまり、おれはハーフエルフだった。エルフと人間の混血はなかなか生まれないらしいのだが、丈夫で身体能力も並みの人間以上に育つらしい。オレもその例に漏れず、異母兄弟より元気――というよりやんちゃに育った。
そんなオレには幼馴染がいた。ホビット族のマルタというヤツだ。同い年ということもあり、いつも一緒に遊んでいた。オレの行動力についてくる同世代の子供は、マルタくらいしかいなかったのだ。ホビット族は小柄で温和な性格ながら、動きが機敏で、体力もある。
マルタもそういった種族特性を受け継いでいた。おかげで、他のヤツらよりマルタと一緒にいる時間が多くなる。だから、気兼ねなく話せる仲だった。ふたりの夢を語り合ったりもした。
「オレは勇者になるつもりだ」
そう、マルタに言った覚えがある。オレの母のようなエルフ族も、マルタのホビット族も、最初は別の土地で暮らしていた。しかし、魔王軍の侵攻で故郷を追われ、オレのじいちゃんが開いた街――当時は村だったらしいのだが――に流れついて、定住したらしい。
その話を聞いたときから、『勇者として魔族を討伐し、土地を追われたみんなの無念を晴らす――』というのがオレの夢となったのだ。マルタもオレの話に賛同し、「自分もグエルのパーティに加わりたい」と言ってくれた。
そして、お互い十五歳になる。
オレの兄たちがそうしたように、オレも王都へ行って、王立学校へ入学することになっていたのだが、その時に「マルタを連れて行きたい」と父に頼んだ。
父は理解してくれたのだが、マルタの家族に大反対された。ホビット族は元来、内向的で、あまり他種族との交流を好まない。なので、村を出ていくというマルタのことを心配してのことだった。
そんなマルタの家族をオレの父が説得して、オレとマルタは二人で、王都へ行くことになったのである。
「二人はそのような関係だったのですね」
馬車の中で、フィリシア――今はフィルだが――にオレたちの過去を話すと、彼女はとても興味深く聞いていた。
「それにしても、シンノスケ・モリタという人、とても素敵なお方です!」
「――素敵?」
「ええ! 『多民族が安心して暮らせる場所を作りたい』なんて、思ってもなかなか実行できることではありません! それをやり遂げてしまったのですから!」
なんか、フィルが盛り上がっているので、オレは苦笑いになる。
「まあ、たしかに、スゴい人だったんだろうな」
たった一人で魔族を退け、領地を守ったり、この世界になかったモノを作ったり――そういった武勇伝をオヤジから何度も聞かされた。
「そうなんですね……それで、グエルさ……んのおじいさん――シンノスケさまは、いつ、お亡くなりになられたのですか?」
フィルに言われて、オレは怪訝な顔をする。
「いや、死んでないぞ? 多分――」
「――えっ? 多分?」
オレが生まれる前にじいちゃん――シンノスケは「新しいことをやりたくなった――」とか言って、領地を息子であるオレの父親に預け、ふらりと出て行ったのだとか。
「それ以来、一度も戻ってきていないんだけどな。だから、顔も見たことがない」
よくよく考えると、けっこう、自分勝手な人だったんだなぁ――なんて、いまさら考えてしまう。
「そうだったんですね? ゴメンナサイ。てっきり、もうお亡くなりになったと思い込んでしまいました――」
まあ、勘違いされてしまうような言い方をしていたような気もするし――
「そうだな。そんな街にオレは産まれたから、こうしてマルタとも出会うことができた」
そういう意味ではじいちゃんに感謝しなければならない。
「ん? グエル? ボクを呼んだ?」
眠っていたマルタを起こしてしまったようだ。
「いや、なんでもない。そろそろ、ザブレロに到着するようだぞ」
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