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第二話 クズ勇者、旅に出る
その二
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「なあ、本当にあんなワナでゴブリンが寄ってくるのか?」
「うん。この『エサ』がいちばん確実なんだ」
「いや『エサ』って、アレ、フィリシア――じゃなくて、フィルの……だぞ?」
ザブレロに到着したオレたちはその夜、町からすこし離れた畑の中に隠れていた。
なぜ、そんなところにいるのか――それを説明するため、時間を少しさかのぼることにする。
馬の機嫌が悪かったとかで、予定より遅れて町にたどり着いたオレたちは、まず、今夜泊まる宿を確保しようと考える。だが、どこの宿屋も満室だと断られてしまった。天候が悪化したとかで、峠越えの乗合馬車が相次いで運休になった影響らしい。
「仕方ない、先に食事を済ませるか――」
このままでは、料理屋が閉まる時間になってしまう。
泊まる場所を探すのはあとにしよう――という話をしていた時、老婆がオレの服を掴んできたのだ。
「あんた、冒険者かい?」
こんなふうに声をかけてくる相手は、たいてい厄介ごとを抱えていると相場は決まっている。
無視しようと思ったのだが、フィルが「おばあさん、どうしました?」と相手にするではないか。
オレは頭を抱えた。まあ、お姫さまに国民の声を聞くなというのはムリな話なのだろう。
「冒険者に頼みたいことがあるんだ。冒険者なんだろ?」
どうやら、オレが背負っていた両手剣を見て、そう思ったらしい。
冒険者は数日前に廃業した――のだが、それをいちいち説明するのも面倒なので、「まあ、冒険者みたいなものだ」と応える。
「なら、ウチの畑を荒らすゴブリンを駆除してもらえないか?」
「――ゴブリン?」
老婆の話はこうだ――
三日ほど前から、夜な夜な彼女の畑に誰かが入り込んで、作物を盗んでいったらしい。そして、昨夜ついにその正体を見たのだとか。それがなんと、一匹のゴブリンなのだという。
「ゴブリンが農作物を盗むなんて、よくあることだろ?」
オレはそう言った。魔物による被害が大きくなると領地から取り立てる税収に影響する。だから、領主が魔物退治を引き受けてくれるはずなのだが――
「ここの領主は領民のことなんてほっときぱなしさ」
数年前にココの領主は代替わりしたそうだが、若い領主は領地の統治に関心を示さず、もっぱら愛人との情事を楽しんでいるようだ。
「本当に、役立たずの領主さ」
そう老婆が不満をオレたちにぶちまけると、フィルも「まったくそのとおりですね」と怒っている。うーん、自分に言われているようで耳が痛い……
「それで町にやってきた冒険者に依頼しようと、朝からそれらしい人物に声をかけていたわけさ」
しかし、「いそがしい」と断られるか、法外な報酬を要求してくるかのどちらかで、結局、いままで見つからなかったらしい。
「さっきなんか、ほら!」と老婆は右腕を見せる。何かにぶつかったようで青アザができていた。
「これは、ひどいです! どうしたのですか?」
「ああ、声をかけた冒険者に『邪魔だ! どけ!』と怒鳴られた上に、手荒く押されたんだよ」
それで転んでしまったそうだ。
「その冒険者、『オレは勇者だぞ! ゴブリンなんか相手にしてられるか!』と息巻いてね。まったく、勇者様は民のために戦ってくれるお方じゃなかったのかね?」
そう老婆は憤慨している――勇者? ということは、アレンか?
オレは苦笑いしてしまう……いや待てよ。それで思い出したぞ。前の人生で、オレは同じことをしたような――やはり、ファーナンド遺跡へ向かう途中、このザブレロに立ち寄った時のことだ。老婆が「助けてほしい」と近寄ってきたので、「邪魔だ!」と押しのけたことがあったっけ?
このバアさん、どうも見た覚えがあると思ったのだが、あの時の老婆だったか。
「バアさん。あの時は悪かった」オレは彼女の肩に手を当て、謝罪した。
「あの時? いったい、なんのことかい?」
老婆は理解できないという顔をみせる。まあ、そうだよね。しかし、そういうことは前の人生でオレがやったことをアレンが引き継いでいる――ということなのか?
なんて、さすがに偶然だよな――フィルは「お婆さん、ちょっと動かないでください」と彼女に伝える。そして、青アザがある右腕に手を添え、短く詠唱すると青アザがすーぅと消えた。
「これは驚いた。お嬢さんは治癒士かい?」
老婆は目を丸くする。治癒士はその数が少ないので、こんな田舎にいることはめずらしい。
だからだろう。それにしても、治癒魔法が使えるというのは本当だったんだな。手際もイイ。さすが、聖女の娘だ。
老婆の治療が終わると、フィルはオレに顔を向ける。
「グエルさ……ん、ゴブリンの件、なんとかなりませんか?」
おいおい、また間延びしているぞ。それはイイとして、なんとか――ねえ……
「オマエさんたち、食事はまだなのだろ? なら、たいしたもてなしはできなが、ウチで食べていかないかい? ゴブリンを退治してくれればタダで食べさせてやるよ」
おお! それはありがたい。今は無職である身。できるだけ路銀は残しておきたい――いや、それならもう少しふっかけられるな。
「それじゃ、バアさん、今晩と明朝の食事、それと一晩泊めてくれれば、ゴブリン退治を引き受けてやるぞ」
「うん。この『エサ』がいちばん確実なんだ」
「いや『エサ』って、アレ、フィリシア――じゃなくて、フィルの……だぞ?」
ザブレロに到着したオレたちはその夜、町からすこし離れた畑の中に隠れていた。
なぜ、そんなところにいるのか――それを説明するため、時間を少しさかのぼることにする。
馬の機嫌が悪かったとかで、予定より遅れて町にたどり着いたオレたちは、まず、今夜泊まる宿を確保しようと考える。だが、どこの宿屋も満室だと断られてしまった。天候が悪化したとかで、峠越えの乗合馬車が相次いで運休になった影響らしい。
「仕方ない、先に食事を済ませるか――」
このままでは、料理屋が閉まる時間になってしまう。
泊まる場所を探すのはあとにしよう――という話をしていた時、老婆がオレの服を掴んできたのだ。
「あんた、冒険者かい?」
こんなふうに声をかけてくる相手は、たいてい厄介ごとを抱えていると相場は決まっている。
無視しようと思ったのだが、フィルが「おばあさん、どうしました?」と相手にするではないか。
オレは頭を抱えた。まあ、お姫さまに国民の声を聞くなというのはムリな話なのだろう。
「冒険者に頼みたいことがあるんだ。冒険者なんだろ?」
どうやら、オレが背負っていた両手剣を見て、そう思ったらしい。
冒険者は数日前に廃業した――のだが、それをいちいち説明するのも面倒なので、「まあ、冒険者みたいなものだ」と応える。
「なら、ウチの畑を荒らすゴブリンを駆除してもらえないか?」
「――ゴブリン?」
老婆の話はこうだ――
三日ほど前から、夜な夜な彼女の畑に誰かが入り込んで、作物を盗んでいったらしい。そして、昨夜ついにその正体を見たのだとか。それがなんと、一匹のゴブリンなのだという。
「ゴブリンが農作物を盗むなんて、よくあることだろ?」
オレはそう言った。魔物による被害が大きくなると領地から取り立てる税収に影響する。だから、領主が魔物退治を引き受けてくれるはずなのだが――
「ここの領主は領民のことなんてほっときぱなしさ」
数年前にココの領主は代替わりしたそうだが、若い領主は領地の統治に関心を示さず、もっぱら愛人との情事を楽しんでいるようだ。
「本当に、役立たずの領主さ」
そう老婆が不満をオレたちにぶちまけると、フィルも「まったくそのとおりですね」と怒っている。うーん、自分に言われているようで耳が痛い……
「それで町にやってきた冒険者に依頼しようと、朝からそれらしい人物に声をかけていたわけさ」
しかし、「いそがしい」と断られるか、法外な報酬を要求してくるかのどちらかで、結局、いままで見つからなかったらしい。
「さっきなんか、ほら!」と老婆は右腕を見せる。何かにぶつかったようで青アザができていた。
「これは、ひどいです! どうしたのですか?」
「ああ、声をかけた冒険者に『邪魔だ! どけ!』と怒鳴られた上に、手荒く押されたんだよ」
それで転んでしまったそうだ。
「その冒険者、『オレは勇者だぞ! ゴブリンなんか相手にしてられるか!』と息巻いてね。まったく、勇者様は民のために戦ってくれるお方じゃなかったのかね?」
そう老婆は憤慨している――勇者? ということは、アレンか?
オレは苦笑いしてしまう……いや待てよ。それで思い出したぞ。前の人生で、オレは同じことをしたような――やはり、ファーナンド遺跡へ向かう途中、このザブレロに立ち寄った時のことだ。老婆が「助けてほしい」と近寄ってきたので、「邪魔だ!」と押しのけたことがあったっけ?
このバアさん、どうも見た覚えがあると思ったのだが、あの時の老婆だったか。
「バアさん。あの時は悪かった」オレは彼女の肩に手を当て、謝罪した。
「あの時? いったい、なんのことかい?」
老婆は理解できないという顔をみせる。まあ、そうだよね。しかし、そういうことは前の人生でオレがやったことをアレンが引き継いでいる――ということなのか?
なんて、さすがに偶然だよな――フィルは「お婆さん、ちょっと動かないでください」と彼女に伝える。そして、青アザがある右腕に手を添え、短く詠唱すると青アザがすーぅと消えた。
「これは驚いた。お嬢さんは治癒士かい?」
老婆は目を丸くする。治癒士はその数が少ないので、こんな田舎にいることはめずらしい。
だからだろう。それにしても、治癒魔法が使えるというのは本当だったんだな。手際もイイ。さすが、聖女の娘だ。
老婆の治療が終わると、フィルはオレに顔を向ける。
「グエルさ……ん、ゴブリンの件、なんとかなりませんか?」
おいおい、また間延びしているぞ。それはイイとして、なんとか――ねえ……
「オマエさんたち、食事はまだなのだろ? なら、たいしたもてなしはできなが、ウチで食べていかないかい? ゴブリンを退治してくれればタダで食べさせてやるよ」
おお! それはありがたい。今は無職である身。できるだけ路銀は残しておきたい――いや、それならもう少しふっかけられるな。
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