追放されたクズ勇者の死に戻り ~「オマエはクビだ」からやり直したオレは、破滅フラグを折りまくる~

テツみン

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第四話 クズ勇者、捕まる

その十一

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 がれきに打ち付けられ横たわっているマルタの姿を見て、カラダが震えていた。
 何だ? 何が起きている?

『また、キサマたちですか? 貴重な宝玉を使い、召喚したリッチ。三百年、備蓄した魂を全て消費してまで、作り上げた腐塊――そのどちらも、あっさり台無しにされるなんて――もはや、許しません。私の美徳に反しますが、アナタたちはこの手て殺してあげましょう』

 この声、まさか――

「クリネロ――?」

 前の人生で、オレを魔人化して、破滅へと追いやったあの魔族だ。

『だから、私の名を下賤な生物が口にするな!』
「グファッ!」

 オレの口から鮮血が飛び出した。クリネロが至近距離から黒い炎を撃ち込んだのだ。
 肺に穴が開いたらしく、呼吸をするとビューピューとイヤな音がする。

「グエル!」
 ニグレアの声だ。

「なんだ。少しは心配してくれているんだな」オレが笑うと、「バカ! こんなときに冗談を言わないで!」と怒りながら、クリネロへ向かって詠唱を唱えようとした。
 それと同時にクローゼも突進する構えを見せる。

「動くな!」

 クリネロの声に、ニグレアとクローゼの動きが止まった。

「くっ!」
「な……に……」
「言霊――か?」

 言葉にしたことが現実となる精神系魔法の一種、それが言霊。魔族が得意とする魔法だ。

「二人はあとで相手をしてあげますよ。まずは、キサマです。さあ、神書の在処を言いなさい」

 神書?
 そういえば神書は人間を滅ぼすアイテムと言っていたな?
 なるほど――

「そういうことか。オマエは神書を手に入れたがっていたんだな? だから、アレンをそそのかして、オレから神書の在処を聞き出そうとしていた。人類を滅ぼすために――」
「ええ、私は神書を手に入れたいと思っています。ですが、それは人類を滅ぼすためではありません。神書がなくても、人類くらい簡単に滅ぼせますから」

 では、なぜ?

「それをアナタたちに話してあげる義理はないのですが、まあ、イイでしょう。神書アスタリアズノートはわざわいをもたらすアイテムだからです」

 禍をもたらす?

「古代人は神書アスタリアズノートを奪い合うことによって、滅びました。何度も何度も。ですから、神書を永久にこの世界から抹消したいのですよ」
「――まったく、信用できないな。それじゃ、まるで人間のためのように聞こえるじゃないか?」
「ええ、そうですよ。私は人間のためにアスタリアズノートをこの世から消したいのです」

 魔族が人間のために?
 何をふざけたことを言っている?

「そもそも、魔族が人間の敵だと、誰が決めたのですか?」
「誰が決めた? だから、ふざけるな! 現に今でも辺境では魔族によって、人間や亜人族が苦しめらつづけているではないか!」
「それも、人類が自滅しないためです」

 だから、コイツは何を言っているんだ?

「人類は安寧が続くと堕落し、やがて社会を乱す者が現れます。それが集団となり、内乱が起き、国が滅びます。エルフや獣人のような亜人もしかり。数が増え、人間の生活圏と接触するようになれば争うことになる。人間も自分とは違う能力を持った亜人を恐れ、排除しようする」

 そういった戦いが各地で起きるようになれば、やがて収拾がつかなくなってしまう。

「それはまるで、体内で発生したがん細胞のように、自らのカラダを蝕み、やがて本体を死にいたらしめるのです」
「――それを防ぐために魔族がいるというのか?」
「そうです! われわれ魔族こそ、人類が滅びないように、悪い因子を駆逐する免疫細胞なのです!」

 人類が自滅しないように、適度の間引きを行う。場合によっては、人間を滅ぼすような考えを持つ者を排除する。それが、魔族の仕事だと言う。

「そして、今、勇者を望む声が人類の中で湧き立っています。ですが、それこそが堕落の典型的な事例なんですよ」

 勇者の存在が、人類を堕落させる?

「ええ。自分や家族の安全を『勇者』なんて都合の良い偶像を作り、自らはなんの努力もしない。そういった堕落こそが、やがて、混乱の温床となる。それは歴史が証明していますよ」
「だから、勇者となる者を陥れて、人類にそんな迷妄を信じさせない――そうだと言いたいのか?」

 アレンの自尊心にはたらきかけ、魔人化させ、勇者の権威を失墜させた。前の人生でもオレは同じように勇者の名を汚している。それで、「勇者なんて信用できない」という感情を人々に植え付けさせていると――

「そのとおりですよ。理解が早くて助かります」
「グエル、ダメだよ! 魔族の話に耳を傾けちゃダメ! そうやって、疑心暗鬼にさせるのが魔族の常套手段なんだから!」

 がれきの中から起き上がろうとしているマルタがそう叫ぶ。

「マルタ――」
「これは手厳しい――ですが、私が言っていることこそ真実です」
 魔族はそう言い切る。

「――そうだな。そうかもしれないな」
 オレはそう応える。

「グエル!」
「いやあ、わかっていただいてウレシイですよ。それで、神書の在処を教えていただける気になりましたか?」
「たしかに、アスタリアズノートは人間にとって持て余してしまうモノだったのかもしれない」
「そうでしょ? ですから――」
「だけど、そういう新しいモノを利用する知恵を手に入れていくのも人間だろ? ハクヒ?」

「な、なんだって?」

「よくぞ言った! グエルよ! それでこそ、妾が認めた男であるぞ!」
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