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第四話 クズ勇者、捕まる
その十四
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魔人化したアレンが破壊した区域は、魔族が関わった重大事件としては奇跡的に小規模となった。それでも、衛兵本部はほぼ全壊。そのほか、政府機関の建物が三つほど半壊している。
それを上空から見下ろしている人物がいた。漆黒のローブを纏い、ドクロの仮面を被っている。回収した紺のジャケットの魔族を右肩に担いだ状態で――
「腐塊が出現したというのに、この程度の被害かぁ……王都が半壊くらいする――と思ったんだけどなぁ……」
そんな不穏なことをつぶやく。
「さて、クリネロにはあとでいろいろ聞くとして――不肖な『孫』のために、もうひと働きするかな――」
すると、担いでいたクリネロのカラダがスーッと消えた。どこかへ転送されたようだ。黒ローブの人物はそのままゆっくりと降下し、とある建物の屋根に着地する。
そこは、冒険者ギルドと呼ばれている場所だ。黒ローブの人物はそこで仮面を外した。二十代――いや、十代と言われても不思議でないほど幼い顔である。そのまま、屋根をスルスルとすり抜けて、屋内に入って行った。
「くそ! いったいどうなっているんだ? アレンが魔族にそそのかされて魔人化した? オレが勇者候補に指名したばかりだぞ? しかも、クビにしたグエルがそれを討伐? そんなことをギルド本部に知られたら、オレの出世はどうなるんだ? まったく、オレの足を引っ張りやがって!」
そんな独り言を冒険者ギルドのギルドマスター、マコーミックが口にしている。ココは王国ギルドのギルドマスター執務室。本来、彼のこんな愚痴を聞くものなど誰もいないのだが――
「ずいぶんと、荒れているじゃないか? 王国本部のギルドマスター、マコーミック君?」
そんな声が聞こえ、マコーミックは驚いた。
「だ、誰だ!? 誰が入ってきてイイと言った!!」激しく怒鳴るマコーミックだが、顔を上げたとたん、カラダが膠着する。
「いやあ、すまない。ちょっと、横着してしまった」
黒ローブの若者は、ちょっと茶目っ気を加えてそう応える。マコーミックは息を飲んだ後、絞り出すような声で、こう言う。
「グ……グランドマイスター……?」
若者は右手を上げ、「よ! ひさしぶり」と声をかけた。
「二十年ぶり――いや、まだそんなに経っていないか?」
そんなふうに、マコーミックへたずねるが、彼はそれについて応えない。
「い、いったいどうして――?」
「なあに、キミが王国本部のギルドマスターになったと知ったんでね。お祝いを言おうと思ったんだけど? それにしても、ずいぶんと老けたね? まあ、当然か? 二十年だものねえ?」
「グランドマイスターは、お変わりがないようで――」
愛想笑いをするマコーミックに、黒ローブの男はクスッと笑う。
「ところで、誰がキミを王国本部のギルドマスターにしたのかな? ボクは聞いていないのだけど?」
「こ、これにはいろいろとワケがありまして――」とマコーミックは手ぶりを入れて、なんとか説明しようとする。
「別に責めているわけではないよ。ただ、不思議だなあ――と思っただけさ。ああ、そう言えば、キミは昔から内部工作が得意だったよね? 今回は誰にお願いしたのかな?」
「そ、それは……」
「言わなくてイイよ。そういうことを探るのもボクは好きなんだ。そうそう、今日はね、キミに頼みたいことがあって来たんだっけ」
マコーミックは顔をピクピクと引きつらせながら、「なんでしょう?」とたずねる。
「グエル・モリタとマルタ・ギンズのことだよ? ふたりをこのギルドに復帰させてもらえないかな?」
「えっ? それはちょっと――」
黒ローブの男は、「そもそも、どういう理由で彼らをクビにしたのかな?」と穏やかな口調で質問する。
「いや、それは――アイツ……彼らがこちらの指示に従わなかったからで」
「それって、マルタくんが運び屋だからかい?」
「――えっ? いや、えーと……」とマコーミックはしどろもどろになる。
グランドマイスターと呼ばれた黒ローブの男は笑いながら――
「ボクがこのギルドを立ち上げた時に言ったよね?『新しいことを切り開く気概さえあれば、いかなる者にもギルドの扉を閉ざしてはならない――』って――まさか、忘れたなんて言わないよね?」
「も、もちろんですよ!」
「じゃあ、なぜ、運び屋をギルドから追放しようとしたのかな?」
「い、いや……その……」
「部外者が口出したりしてないよね? このギルドは、いかなる国、組織からも介入を受けない。そう決めたんだけど?」
「いや、その……」
「なんてね」
「は?」
「だから、キミを責めにきたんじゃないと言ったでしょ? 今日は、本当にお願いだけなんだ。それで、ふたりのことはお願いしてイイかな?」
「も、もちろんです! できるだけ早くやりたいと――」
「やだなあ。約束はかならず期日を決めよう――そういう話をしたじゃないか?」
「で、では、いつまでに?」
「一時間以内だね」
「い、一時間!? しかし、再契約には本人の同意が必要で――」
「なら、本人たちを説得しなよ。まあ、理不尽に解雇されたから、彼らも怒っているだろうし、そう簡単に復帰したいと思わないだろうね。キミが土下座でもして謝れば別だろうけど――」
「ど、土下座!? この私が?」
「そうだよ。約束してくれないと、キミがやっていることを総本部のベンフォードにうっかりしゃべっちゃうかもしれないなあ」
「総本部マスターに!?、そ、それだけは……」
「ところで、こんな話をしているヒマはあるのかなぁ? ほら、あと五十九分だよ」
「ひ、ひいっ! わ、わかりましたぁ!」
マコーミックは全速力で部屋を出て行くのであった。その後ろ姿を見て、黒ローブの男はクスクスと笑う。
「さて、ボクもそろそろ『闇社会の実力者ごっこ』は終わりにするかな? これからは――」
そう独り言を口にしたあと、忽然と姿を消した。
――これからは、『破滅の時代』だ。
それを上空から見下ろしている人物がいた。漆黒のローブを纏い、ドクロの仮面を被っている。回収した紺のジャケットの魔族を右肩に担いだ状態で――
「腐塊が出現したというのに、この程度の被害かぁ……王都が半壊くらいする――と思ったんだけどなぁ……」
そんな不穏なことをつぶやく。
「さて、クリネロにはあとでいろいろ聞くとして――不肖な『孫』のために、もうひと働きするかな――」
すると、担いでいたクリネロのカラダがスーッと消えた。どこかへ転送されたようだ。黒ローブの人物はそのままゆっくりと降下し、とある建物の屋根に着地する。
そこは、冒険者ギルドと呼ばれている場所だ。黒ローブの人物はそこで仮面を外した。二十代――いや、十代と言われても不思議でないほど幼い顔である。そのまま、屋根をスルスルとすり抜けて、屋内に入って行った。
「くそ! いったいどうなっているんだ? アレンが魔族にそそのかされて魔人化した? オレが勇者候補に指名したばかりだぞ? しかも、クビにしたグエルがそれを討伐? そんなことをギルド本部に知られたら、オレの出世はどうなるんだ? まったく、オレの足を引っ張りやがって!」
そんな独り言を冒険者ギルドのギルドマスター、マコーミックが口にしている。ココは王国ギルドのギルドマスター執務室。本来、彼のこんな愚痴を聞くものなど誰もいないのだが――
「ずいぶんと、荒れているじゃないか? 王国本部のギルドマスター、マコーミック君?」
そんな声が聞こえ、マコーミックは驚いた。
「だ、誰だ!? 誰が入ってきてイイと言った!!」激しく怒鳴るマコーミックだが、顔を上げたとたん、カラダが膠着する。
「いやあ、すまない。ちょっと、横着してしまった」
黒ローブの若者は、ちょっと茶目っ気を加えてそう応える。マコーミックは息を飲んだ後、絞り出すような声で、こう言う。
「グ……グランドマイスター……?」
若者は右手を上げ、「よ! ひさしぶり」と声をかけた。
「二十年ぶり――いや、まだそんなに経っていないか?」
そんなふうに、マコーミックへたずねるが、彼はそれについて応えない。
「い、いったいどうして――?」
「なあに、キミが王国本部のギルドマスターになったと知ったんでね。お祝いを言おうと思ったんだけど? それにしても、ずいぶんと老けたね? まあ、当然か? 二十年だものねえ?」
「グランドマイスターは、お変わりがないようで――」
愛想笑いをするマコーミックに、黒ローブの男はクスッと笑う。
「ところで、誰がキミを王国本部のギルドマスターにしたのかな? ボクは聞いていないのだけど?」
「こ、これにはいろいろとワケがありまして――」とマコーミックは手ぶりを入れて、なんとか説明しようとする。
「別に責めているわけではないよ。ただ、不思議だなあ――と思っただけさ。ああ、そう言えば、キミは昔から内部工作が得意だったよね? 今回は誰にお願いしたのかな?」
「そ、それは……」
「言わなくてイイよ。そういうことを探るのもボクは好きなんだ。そうそう、今日はね、キミに頼みたいことがあって来たんだっけ」
マコーミックは顔をピクピクと引きつらせながら、「なんでしょう?」とたずねる。
「グエル・モリタとマルタ・ギンズのことだよ? ふたりをこのギルドに復帰させてもらえないかな?」
「えっ? それはちょっと――」
黒ローブの男は、「そもそも、どういう理由で彼らをクビにしたのかな?」と穏やかな口調で質問する。
「いや、それは――アイツ……彼らがこちらの指示に従わなかったからで」
「それって、マルタくんが運び屋だからかい?」
「――えっ? いや、えーと……」とマコーミックはしどろもどろになる。
グランドマイスターと呼ばれた黒ローブの男は笑いながら――
「ボクがこのギルドを立ち上げた時に言ったよね?『新しいことを切り開く気概さえあれば、いかなる者にもギルドの扉を閉ざしてはならない――』って――まさか、忘れたなんて言わないよね?」
「も、もちろんですよ!」
「じゃあ、なぜ、運び屋をギルドから追放しようとしたのかな?」
「い、いや……その……」
「部外者が口出したりしてないよね? このギルドは、いかなる国、組織からも介入を受けない。そう決めたんだけど?」
「いや、その……」
「なんてね」
「は?」
「だから、キミを責めにきたんじゃないと言ったでしょ? 今日は、本当にお願いだけなんだ。それで、ふたりのことはお願いしてイイかな?」
「も、もちろんです! できるだけ早くやりたいと――」
「やだなあ。約束はかならず期日を決めよう――そういう話をしたじゃないか?」
「で、では、いつまでに?」
「一時間以内だね」
「い、一時間!? しかし、再契約には本人の同意が必要で――」
「なら、本人たちを説得しなよ。まあ、理不尽に解雇されたから、彼らも怒っているだろうし、そう簡単に復帰したいと思わないだろうね。キミが土下座でもして謝れば別だろうけど――」
「ど、土下座!? この私が?」
「そうだよ。約束してくれないと、キミがやっていることを総本部のベンフォードにうっかりしゃべっちゃうかもしれないなあ」
「総本部マスターに!?、そ、それだけは……」
「ところで、こんな話をしているヒマはあるのかなぁ? ほら、あと五十九分だよ」
「ひ、ひいっ! わ、わかりましたぁ!」
マコーミックは全速力で部屋を出て行くのであった。その後ろ姿を見て、黒ローブの男はクスクスと笑う。
「さて、ボクもそろそろ『闇社会の実力者ごっこ』は終わりにするかな? これからは――」
そう独り言を口にしたあと、忽然と姿を消した。
――これからは、『破滅の時代』だ。
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