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第六章

大いなる力には誰もかなわない

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戦場には、ケイノス兵、遥か先に布陣するエルダイト兵24万、アリサしか居なくなった。

「・・・・・・」

アリサは表情暗く立ち尽くす。


そこへ後ろからトントンと肩を叩かれた。アリサが後ろを振り向くと、メリッサが立っていた。

「終わったの?メリッサ」
「うん」
「勝った・・・のよね」
「ええ。・・・でも龍には龍なりの理由があるのね。アリサは?」
「勇者たちを殺したわ。それと六万人くらいかしら」

アリサの表情は暗い。無論メリッサも敵の事情を知ってしまって、闘争心よりも情が芽生え始めていた。

「・・・・・・あと、24万ね」
「・・・あれは私がやるわ。メリッサは休んでて」
「私も手伝うわ。アリサだけに背負わせない」


覚悟はあった。
明らかに自分より力が劣る者を殺すことに。
だが、実際にやるのとでは重みが違う。

「もうやるわ。終わらせましょ」

アリサが両手を天に掲げ、目の色が消え失せる。
だが、メリッサがアリサを止める。

「アリサ待って。・・・ほら、あれ」

アリサが腕を下ろして、メリッサが指をさす方向を見ると、白い旗を持った騎馬が三体、こちらに向かってきた。

「・・・・・・良かった。六万人を殺した甲斐があったわ・・・」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ここはケイノス軍本陣。
巨大な天幕の中で、停戦交渉が行われている。
ケイノスからは、王、宰相のジョセフ、将軍サザーランド、ハルート辺境伯、騎士団長や騎士がたくさん、それとアリサとメリッサ、それにぐるぐるに縛られた偽女神だ。
エルダイトからは、エリック王、宰相、お供の騎士が十数名だ。
第一陣の停戦の使者が帰り、本交渉の主要人物で大きな円卓を囲み、話し合いが進められている。


「エルダイトとしては、女神様の返還に黒金貨5,000枚をお支払いします」
「ふむ」
「更に死亡した兵士一人につき白金貨2枚を支払います。そちらの被害は三千、こちらは六万です。それに大事な勇者も皆殺しにされています。破格な条件だと思いますが」

エルダイトの宰相が停戦条件を提示する。
ケイノス王のジョシュアはジョセフの顔を見る。
するとジョセフはハルートの顔を見て、

「ハルート辺境伯、私はこれでいいと思いますが、どうですか?」
「まあ、そのあたりが落とし所だろう」
「では、そのように」

エルダイトの宰相とエリック王は、ホッとしたような、にやけたような顔をした。

ダーーーーーン!!!

いきなり何かをぶっ叩いたようなデカイ音がして、全員がびくりとした。
そして音の発生源をみる。
アリサだ。
アリサは椅子に踏ん反り返り、腕を組み、白いミニのワンピースからパンツが見えることも気にせずに、円卓の上に両足のかかとを思いっきり振り下ろした。
そして、円卓に脚を乗せたまま、脚を軽くクロスする。

「認めないわ」
「・・・何を────」
「そんな条件じゃ停戦は認めないって言ったのよ」

アリサの言葉にエルダイトの宰相が物言いをつけようとしたが、アリサに被せられ黙らされた。

「ちょっとあんたたち、まさかこんなぬるい戦争を、何十年もしてたわけ?」

アリサはジョシュアを睨みつける。
まさか自分が参加していた戦争は、過去もこんな茶番じみたものだったのかと思うと、怒りを通り越して呆れてくる。
ジョシュアは若干冷や汗をかき、

「しかしアリサ殿、そうは言っても終わりのない戦争は不幸しか生まぬ」

エルダイト側からも、「そうだ」とか「血で血を洗うか」とか色々声が上がる。

「なら、死んだ三千人のことは?六万人のことはどうするのよ?こんなはした金の為に死んだんじゃないわ」

ケイノス宰相のジョセフが発言する。

「遺族には充分な褒賞が支払われます」

ダーーーーーン!

アリサはまた円卓を打ち鳴らした。

「ならあんた、私がお金を払うから、今ここで死になさい」
「・・・は、え?」

ジョセフは味方と思っていたアリサに死ねと言われて、理解出来ない。

「死んだ後にお金を貰っても遅いのよ!!」
「ですから遺族────」
「死んだ人はどうするのかって私は聞いてるの!」

アリサはジョセフを怒鳴りつける。

「・・・・・・」

するとエルダイトのエリック王がアリサに物申す。

「兵士はそれをわかった上で志願している。兵も職業なのですよ」
「ふーん、なら王様のあんたや、ここにいる人たちもみんな職業よね?覚悟があって、わかった上でやってるのよね。なら一人残らず死んでもお金さえ払えば納得よね?」
「「「「「・・・・・・」」」」」

アリサのあまりの暴論に、会議はシンと静まり返る。

「いい?死んだ人の願いは、二度と戦争が起こらないことよ。その為に命をかけて戦うの。自分の子供が、自分の家族が、安全に暮らせるように戦っているのよ!お金の為じゃない!!」

ダーーーーーン!

「「「「「・・・・・・」」」」」

アリサの言うことは正しそうには聞こえる。いや、もちろんその一面も嘘ではない。
だが、実際に金や名誉、地位の為に戦争に参加する兵士も多い。
兵士は職業なのだ。

「なら、いくら払えばいいのですか?」

エルダイトの宰相が切り出してくる。

「まずこの偽女神は渡さない。それと『停戦』はないわ。やるなら『終戦』よ。そして終戦の条件は、王とその親族、一定水準以上の武官文官、全員クビを差し出しなさい。それが終戦の条件よ」

これにはエルダイトだけでなく、ケイノス側も大きく驚いた。

「アリサ殿、それは────」

ジョシュアが何かを言おうとしたが、アリサは円卓によじ登り、ジョシュアの胸ぐらを掴んだ。
後ろからはパンツが丸見えだ。

「あんたが!!!、あんたがぬるいことしてるからでしょうが!また来年も大勢殺すつもりなの?!いつなの、いつ終わらすのよ!いい加減にしろ!!」
「・・・・・・」

アリサは円卓の上に立ち上がり、全員を見下ろす。

「終わりがないの?!なら、終わらせてあげるわ!ケイノスもエルダイトもみーんな戦争したいなら、私が終わらせてやる!」

アリサから視認できる程、濃密な七色の光がゆらゆらと立ち昇る。
全員が恐れおののき、倒れこみそうになる。だが、逃げ出すことも困難と思えるほどの殺気が天幕内を支配する。

「今回の戦争を仕掛けてきたエルダイト上層部は全員死刑よ!そうすれば24万人は助かる!王なら自分でけじめをつけなさい!」

宰相はがたりと立ちあがり、

「ふざけるな!こちらにはまだ24万の兵がいるのだぞ!ケイノスなど踏み潰してくれるわ!」
「やりなさいよ。こっちは元からその覚悟なのよ!。それだけで済まないわ。エルダイトは地図から消してあげるわ!」

アリサの両手の紋章が光り輝くと、エルダイトの宰相も怯む。
すると突然、メリッサは天幕から走って出て行った。
アリサはかまわず続ける。

「ケイノスはどうするのよ。来年も戦争するつもりなの?ならもうケイノスもいらないわね」

ジョセフが椅子をぶっ倒して立ち上がる。

「待て!待ってください!ケイノスは二度と戦争はしたくありません!」
「ならどうするの?」
「ケイノスは、二度と戦争が起きないよう、エルダイト上層部を全て戦犯とし、戦犯の引き渡し、および処刑をエルダイトに求めます!」

エルダイトの宰相が叫ぶ。

「貴様!こんな子供に国の決め事を委ねるのか!この子供こそ、戦乱を長引かせる諸悪の根源ではないか!」

アリサはエルダイトの宰相を見る。
パンツはずっと丸見えである。

「長引かないわ。今度は本気の流星雨を降らすから。24万の兵士は明日の朝日を見ることはないもの」
「我が女神様」

サザーランドが立ち上がる。

「何とぞ先陣は私にお任せください。エルダイト上層部の首全てを集めるまで、私はケイノスに帰りません」

アリサはちょっと片方の眉をあげて、円卓の上を歩き、サザーランドの前に立つ。

「ふーん、あんた、犬みたいにいい子ね。良いわ、任せてあげる」
「はっ!」

円卓の上にお立ち台のように立っているアリサは、立ちあがったサザーランドの頭をまたしても撫でた。

「「「「っ!」」」」

サザーランドは歓喜に震え、いきり勇んで自らの剣を抜く。

「世界を脅かすエルダイトのド腐れどもが!!!貴様らに明日はない!このサザーランドがその首落としてくれる!」

エルダイト側もケイノス側も全員立ち上がる。

「使者を殺すのか!」
「ケイノスは悪魔に操られている!」
「これは聖戦だ!ケイノスを根絶やしにしろ!」

「エルダイトのくそどもが!」
「こちらは被害者だ!いつまで戦争をするつもりだ!」
「帰れ!正々堂々とぶっつぶしてやる!」

両陣営、殺気だち、エルダイト側は天幕から出た。それを追い立てるようにケイノス側も出る。

「帰れ!」
「徹底的にやってやる!」
「悪魔め!」
「おのれ、ケイノス!」
「弱兵ごときが!」

どちらの陣営かわからない怒号が飛び交い、エルダイト陣営は馬に乗り本陣に帰って行った。

それとすれ違うように、メリッサがエルダイト陣営の方から、すごい速度で走ってくる。

「終わった?アリサ?」
「ちょっと、どこ行ってたのよ!」
「アリサの言葉をエルダイトの兵たちに伝えてきたわ。・・・あいつら、もう帰る場所ないんじゃない?」

にんまりとするメリッサを見て、アリサも片側の口角をあげ、ニヤついた。

「あら、そんな雰囲気?」
「そりゃ凄いわよ。私も少し怖かったわ。絶対死ぬわよ」
「手間が省けるわね」
「あは、そうね」


ふと、アリサは右手側を見ると、ジョシュアとジョセフが片膝をつき頭を下げている。

「やりきりました。我らにも寵愛を」

アリサは二人の頭をひっぱたいた。

「何がやり切ったよ!遅いのよ!どうなってるの、あんたたち!ちょっと頭を使いなさいよ!」

アリサは、「ナデナデはなし!」とツンとしたが、ひっぱたかれた二人はなぜか嬉しそうだった。

「・・・・・・これをヨシトが見たらなんて言うのかしら・・・」





エルダイト兵の心はアリサの魔法ですっかり折られていた。プチとはいえ、流星雨の絶望感を感じた人間が、あの星の下へ向かっていくことは不可能に近い。それに、ヨシトたちへの対抗策として用意していた女神と勇者は、なす術なく殺されているのだ。
そこにメリッサが、
「必ず兵たちの命もエルダイト国も助ける」
「上層部を引き渡せ」
「王を捕まえるのと、星が降る中戦うのとどちらがいい?」
などと言うことを広めると、「助かるにはこれしかない」とエルダイト兵も覚悟を決めたようだ。24万である、そんな兵力が反乱を起こしたら止める方法はない。瞬く間にエルダイト上層部は拘束されていく。

その日のうちに、戦場に来ていたエルダイト上層部と王族は、エルダイト兵に捕らえられ、ケイノスに引き渡られた。
そして、1ヶ月のうちにエルダイト本国にいる王族や上層部も全員捕らえられ、ケイノスに引き渡された。その数1216人である。

こうして、迷宮を巡る長きに渡る人族同士の利権戦争は終結した。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

~後書き~
明日からは、モーラたち、ヨシトたちがこの時何していたのかの話になります。
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