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土下座なんて僕にはできないよ
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「プレゼントするんだよ、プレゼント」
「プレゼント? 何を贈られるのですか?」
「応援部全員にフロリダ旅行をプレゼントするんだよ」
「費用は?」
「適当な理由を付けて東大に予算を付けてやりなさい」
「適当な理由? 予算?」
「白鳥君、君、わかるだろ。東京大学は大学であり、国の研究機関でもあるんだよ。理由なんて適当につくればいいだよ。東大は国民の期待を担っている。国民はわかってくれるよ。そうだ、こういうのはどうかね。東大学食のかつ丼の値下げ。十年くらいその値下げ分を補助するんだよ。我ながらいい案だ。そうすることにしよう。白鳥君、それでいこう」
郷田の目がぱっと見開き、顔が輝いた。
「かつ丼だけ?」
「ああ」
「どうしてかつ丼だけなのでしょうか?」
「決まってるだろ、僕の好物だからだよ。君も食べただろ、東大のかつ丼を?」
「私、学生時代は母の手作り弁当でした」
「確か君の家は東京の大多摩市だったね。君の母君も大変だったんだね。古式泳法から手作り弁当まで、ひょっとして君の奥さんは母君が探してきたのかい?」
「どうしておわかりなんですか?」
「会ってみたいね、君の母君に」
「次回の選挙の応援に」
「僕なんかより、君の母君がいれば当選間違いなしだよ」
「はぁ」
「でもまぁ、母君にはお会いしたいから応援に行くよ」
「ありがとうございます」
「うん」
いや違うんだ、そこじゃないんだ。
「総理、すべて税金ということになります。東大のかつ丼に税金が」
「何か問題でもあるのか?」
「あの……その……東大学食のかつ丼の値下げを補助する財源に充てるのが税金では」
「構わないだろ」
「国民が……」
「国民が? 国民がどうかしたのかね?」
「納得するとは思えません」
「納得してもらうよりほかないね。僕と君の母校の東京大学だよ」
「……しかし……しかし」
「それとね、君にお願いなんだが、いいかな?」
郷田の目が白鳥に向けられた。その目は決して逆らうことを許さない鬼のような目だった。
「何でしょうか?」
白鳥は一瞬ひるんだ。
「フロリダ旅行のプレゼントの件なんだが、君からあいつに言ってほしんだよ」
「あいつとは?」
白鳥はわからぬふりをした。もちろん白鳥は郷田が言う❝あいつ❞を知っている。
「あいつだよ、あいつ」
「もしかしたら総理は総理の奥さまのことをおっしゃっているのでしょうか?」
「そう、僕の妻だ」
「それは、総理の方から奥さまにお伝えした方がよろしいかと思うのですが」
白鳥は、恐る恐るそう言った。
「白鳥君、仮にも僕は一国の首相だよ。たとえ妻であっても頭なんて下げられないよ。男はね、簡単に頭を下げてはいけないんだよ」
出た、郷田の男尊女卑の思考。よくもまぁこんな男が選挙に勝ててきたものだ。もううんざりだ。白鳥は心の底からそう思った。
「しかし……総理、やはりこの件は総理から」
「白鳥君、あいつはね、君の大ファンなんだよ。君が韓流スターのようにドームツァーでもしたら、きっとうちのあいつは、君の写真付きの団扇を持って会場に駆けつけるよ。もちろん僕があいつを説得することだってできるさ。でも今の僕は、東京大学野球部の優勝にもうしばらく酔っていたいんだよ。わかるだろ、君」
「……」
わからない。このくそ親父の言うことなど一つも理解できないし、わかりたくもない。
「頼むよ。し・ら・と・り・く・ん」
「……」
気持ち悪い。もうまじでうんざりだ。
「実はね、もう一つ願いがあるんだよ」
「はい、何でしょうか?」
「重大なミッションだ。頼めるのは君しかいない」
「重大なミッション?」
嫌な予感がした。これまで重大なミッションが重大ではなかったことが何度あるか? 白鳥は身構えた。
「プレゼント? 何を贈られるのですか?」
「応援部全員にフロリダ旅行をプレゼントするんだよ」
「費用は?」
「適当な理由を付けて東大に予算を付けてやりなさい」
「適当な理由? 予算?」
「白鳥君、君、わかるだろ。東京大学は大学であり、国の研究機関でもあるんだよ。理由なんて適当につくればいいだよ。東大は国民の期待を担っている。国民はわかってくれるよ。そうだ、こういうのはどうかね。東大学食のかつ丼の値下げ。十年くらいその値下げ分を補助するんだよ。我ながらいい案だ。そうすることにしよう。白鳥君、それでいこう」
郷田の目がぱっと見開き、顔が輝いた。
「かつ丼だけ?」
「ああ」
「どうしてかつ丼だけなのでしょうか?」
「決まってるだろ、僕の好物だからだよ。君も食べただろ、東大のかつ丼を?」
「私、学生時代は母の手作り弁当でした」
「確か君の家は東京の大多摩市だったね。君の母君も大変だったんだね。古式泳法から手作り弁当まで、ひょっとして君の奥さんは母君が探してきたのかい?」
「どうしておわかりなんですか?」
「会ってみたいね、君の母君に」
「次回の選挙の応援に」
「僕なんかより、君の母君がいれば当選間違いなしだよ」
「はぁ」
「でもまぁ、母君にはお会いしたいから応援に行くよ」
「ありがとうございます」
「うん」
いや違うんだ、そこじゃないんだ。
「総理、すべて税金ということになります。東大のかつ丼に税金が」
「何か問題でもあるのか?」
「あの……その……東大学食のかつ丼の値下げを補助する財源に充てるのが税金では」
「構わないだろ」
「国民が……」
「国民が? 国民がどうかしたのかね?」
「納得するとは思えません」
「納得してもらうよりほかないね。僕と君の母校の東京大学だよ」
「……しかし……しかし」
「それとね、君にお願いなんだが、いいかな?」
郷田の目が白鳥に向けられた。その目は決して逆らうことを許さない鬼のような目だった。
「何でしょうか?」
白鳥は一瞬ひるんだ。
「フロリダ旅行のプレゼントの件なんだが、君からあいつに言ってほしんだよ」
「あいつとは?」
白鳥はわからぬふりをした。もちろん白鳥は郷田が言う❝あいつ❞を知っている。
「あいつだよ、あいつ」
「もしかしたら総理は総理の奥さまのことをおっしゃっているのでしょうか?」
「そう、僕の妻だ」
「それは、総理の方から奥さまにお伝えした方がよろしいかと思うのですが」
白鳥は、恐る恐るそう言った。
「白鳥君、仮にも僕は一国の首相だよ。たとえ妻であっても頭なんて下げられないよ。男はね、簡単に頭を下げてはいけないんだよ」
出た、郷田の男尊女卑の思考。よくもまぁこんな男が選挙に勝ててきたものだ。もううんざりだ。白鳥は心の底からそう思った。
「しかし……総理、やはりこの件は総理から」
「白鳥君、あいつはね、君の大ファンなんだよ。君が韓流スターのようにドームツァーでもしたら、きっとうちのあいつは、君の写真付きの団扇を持って会場に駆けつけるよ。もちろん僕があいつを説得することだってできるさ。でも今の僕は、東京大学野球部の優勝にもうしばらく酔っていたいんだよ。わかるだろ、君」
「……」
わからない。このくそ親父の言うことなど一つも理解できないし、わかりたくもない。
「頼むよ。し・ら・と・り・く・ん」
「……」
気持ち悪い。もうまじでうんざりだ。
「実はね、もう一つ願いがあるんだよ」
「はい、何でしょうか?」
「重大なミッションだ。頼めるのは君しかいない」
「重大なミッション?」
嫌な予感がした。これまで重大なミッションが重大ではなかったことが何度あるか? 白鳥は身構えた。
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