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小話
少し早めのクリスマス
しおりを挟む地下鉄の出口から吹き降ろす風が冷たくて、俺はぶるりと震えた。
十一月の後半、天気予報では六度だったのだが、もっと寒く感じる。ダウンを出すには早くても、そろそろ冬の装備が必要だ。
琉冬は大丈夫かな。
先月、彼と冬服を買いに行ったとき、そういえば小物をそろえてなかった気がする。
「でさ、琉冬に手袋を買って帰ろうかと思ったんだけど、サプライズで渡されるより自分で選びたいだろう?」
俺たちのあいだに基本秘密はないのだ。
ということで土曜の午後、俺は琉冬と近所の商店街へきていた。アーケードがあるおかげか、冬場でもここは少し温かい気がする。
鞄屋に入り、棚に並べられた手袋のコーナーで立ち止まる。
「ちなみに桂聖が選んだのはどれですか?」
「これ」
琉冬に似合いそうなのは、やっぱ黒の皮手袋って思ったんだけど、コートが黒だから茶色をチョイスしてみた。何万もするのは買ってやれないけど、数千円ならバイト代でなんとかなる。
「サイズはどう?」
「はい……」
返事がちょっと微妙。
似合うと思うんだけど、気に入らなかったかな?
「他のところも見てまわろうか。ファッションビルか、ショッピングモールか、いっそアウトレット?」
「夕方までには戻ってきたいので、近くのショッピングモールにしましょう」
「了解」
こういう時、琉冬の判断は合理的で素早い。
だからちょっと意外だった。嫌なら嫌って琉冬ならハッキリ言いそうなもんだけど。
ここからショッピングモールまでは四十分くらいは歩くけど、バスを待つより早いので、俺と琉冬はのんびり歩いた。
「桂聖はいつもどこで買ってるんですか?」
「百均。毎年片方ずつなくすからさ」
「……それで色違いだったんですか? あんまり堂々としてるからそういうものかと思いました」
「いえい、勝利!」
「どう考えても、桂聖のものを探したほうが良さそうです」
呆れたように呟いた琉冬は、俺の手を握りそのままポケットに突っ込んだ。
「恥ずかしいですからね、普通に」
そういうものかと思ってたくせに。
「ショッピングモールって、疲れるようにできてるんだってさ」
あっちに目をやりこっちに目をやり、長々と距離を歩かないと他の階にたどり着けず、ぐるりと回るうちにまた目移りする。人間て疲れると考えるのが面倒になり財布の紐も緩むらしい。
そういう話をすると、琉冬はかえって気を引き締めた。キリッとした横顔を見て、俺のほうはホケッと見とれちゃったけどね。
スポーティーからフォーマル、果ては百均まで巡って探したが、どうもピンとくるものは見つけられないようだった。
というか、面倒になったのか俺と一緒に百均で買おうとしたからさすがに止めた。
「なんかさ、怒られるよ! 琉冬に百均の手袋なんてプレゼントしたら、いろんなところから苦情が入るよ!」
「決められなくてすみません」
「いや、それはいいんだけどさ。デートだし。実のとこ、クリスマスプレゼントのつもりだから。琉冬が寒い思いすんの嫌だから、早めに渡しとこうと思っただけだから」
「寒さには強いので、マイナス四度くらいまでなら素手でも平気ですけど」
「そんな水道管が凍るとこまで耐えなくていいよ!」
見てるこっちが寒いんだよな。マイナス四度と言えば、手袋してたってしもやけになるレベルだよ。
「じゃあ、来週あたり、また一緒に商店街へ行ってもらえますか?」
「なに? 実はアレ、結構気に入ってた?」
「桂聖が選んでくれたものですからね。ちょっと値が張るから、悩んじゃいましたけど」
「遠慮かよ」
それはちょっと悔しい。まだ学生だからって思われてんだよな、きっと。
次の週になって、件のかばん屋に行ったところ、俺は「あ!」と叫んでしまった。
手袋に黄色い札が付いていたのだ。ウィンターセールで二割引きだ。
「……これ、もう少し粘れば――」
「プレゼントだっての!」
ヒヤッとして琉冬の手から手袋を取り上げた。
家計が同じなんだから、安くすむのは喜ぶとこかもしれないが、俺だって見栄を張りたい。琉冬もそこのところは察してくれたらしい。
「そのまま使うので包装は結構です」
うん、合理的だ。
支払いを済ませ、タグを外してもらったので、せめて俺はうやうやしく琉冬に手袋を渡した。
「じゃあ、これ。メリークリスマス」
「ありがとう、桂聖、大切にします」
何を思ったか、琉冬は手袋にキスをして微笑んだ。
店主のおっさんも、たまたまやってきた客のじいさんも、乙女みたいな顔になっちゃったぞ。
「そんなに喜ばれると、なんでも買ってやりたくなっちゃうな」
「それはダメです。次は、俺の番なので」
琉冬は俺の手を取り、じっとこちらを覗き込んだ。ぞくぞくするほど色っぽい。
時と場所を考えろって!
俺も乙女になっちゃうだろうがっ。
琉冬が俺にくれたクリスマスプレゼントは、俺につば付きのニット帽とマフラーだった。コートに合うものを見立ててくれたんだけど、なんか可愛すぎないか?
困ったことに、琉冬の目には俺が可愛く映っているらしい。
二人で過ごすはじめてのクリスマスは、ケーキを食べてイチャついて、メチャメチャベタに過ごした。
そこはほら、聖夜だし。
多少浮かれてもそこは大目に見て欲しい。
来年のクリスマスもこんなふうに、なんて遠い約束をするよりは毎日を楽しく過ごしたいな、なんて俺は思ってる。
まあそれも、別に俺たちの間じゃ秘密でもなんでもないんだけどね。
ーーーーーーーーーーーーーー
メリークリスマス!
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