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03 内緒話で大声を出すな
しおりを挟むレイモンド殿下とスカーレット・ラウ・オーゲストは幼少期から婚約されている仲だ。
学園でも美男美女のお二人はお似合いの恋人だと言われていた。どちらも金髪碧眼の整った容姿なため、お二人が並んでいる姿はとても絵になる。王国の女性の間では憧れの恋人同士らしい、とお兄様が仰っていた。本当かどうかは知らないが。
だが、相性が良さそうに見えるのはうわべだけだった。
というのも、レイモンド殿下が落ち着いた性格に対し、スカーレット嬢の「高貴さは義務なり」精神が高すぎるのだ。
スカーレット嬢は良くも悪くも貴族であることへの誇りと責任が強い。貴族社会では彼女の思想は高潔なものであるが、私のような社会不適合者にとっては立派すぎて疲れるのである。私も彼女からたまにお小言を告げられるが、正直余計なお世話だ。別に問題を起こしているわけではないのだから、放っておいて欲しい。
貴族として末端の私にですらそれなりの対応を求めるスカーレット嬢が、王族であるレイモンド殿下には更なる完璧を求めないはずがない。もとより殿下は重責に強くない性格。ただでさえ王族としての責任があるというのに、追い討ちで完璧を求めるのは酷というものだろう。側から見た私ですらそんな感想を抱くのだから、当の本人の精神的苦痛は如何なるものか。傍観者としては殿下に同情せざるを得ない。
まあ王族たる者そんな重責耐えて当たり前、と断じられたら私は何も言えないが。むしろ、そのような思想が根幹にあるため無理を強いることができるのかもしれない。
しかし、力を加え過ぎればいつかは折れるというもの。
そのポッキリと折れてしまった結果が、背後の状況ということだ。
「い、いけません、殿下。殿下にはスカーレット様が……」
「……彼女は私のことなんかどうでもいいんだよ。スカーレットが求めているのは、全貴族の見本となる第二王子。本当の私を見てくれたのはアリスだけなんだ」
「殿下……」
背中から甘々しい雰囲気が伝わってくる。明らかな浮気の現場に出会してしまったことに、私は遠い目をするしかなかった。
アリス・ロウ・サビラン。同世代の私たち——もちろん、スカーレット嬢を含めた——中で、ずば抜けて容姿が整っている彼女は、学園での有名人だ。サビラン男爵の愛人の子供で、三年前養子となったらしい。そんな出生のためか貴族としてのマナーは私よりも酷く、度々スカーレット嬢と衝突している。
アリスは裁縫が趣味で、それがまた学園内で評判が良いのが衝突の原因でもある。彼女が作った帽子が学園内で流行ったとき、スカーレット嬢が「私の趣味ではありませんわ」と言って、これみよがしに帽子へワインをかけたことは記憶に新しい。そのあとアリスはアリスで、スカーレットと親しい貴族に自作のドレスを贈りパーティで着用させるという、なかなかの仕返しをしているが。
スカーレットと犬猿の仲なのが気に入ったのか。はたまた他の貴族令嬢と毛色が違うのが面白かったのか。真偽は分からないが、レイモンド殿下がアリスに興味を示すにはそう時間はかからなかった。そして、その距離が近くなるのも。
しかし、二人が恋仲になっているかどうかは、あくまでも噂であった。
スカーレット嬢と渡り合うほどのアリスだ。疑惑はあれど、決定的な証拠は残さなかったということだろう——その決定的な証拠となる現場に、私は出会してしまったが。
さて。
二人が恋仲になろうが私には関係ない。
もっと言えば、学園内で波紋が広がろうがどうでも良い。
ただ一つ、私が確実に困ることは——
「私はアリスと一緒にいたい。だから、スカーレットとの婚約は破棄したいと考えている」
——大事に巻き込まれることである。
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