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30『プリンセス ミナコ・12』

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ミナコ転生・30 

『プリンセス ミナコ・12』        

 

 晩餐会後のボール(舞踏会)の途中でミナコはローテの後を追ってバルコニーに出た。

 月明かりに見えるローテに昼間の険しさはなく、意外なほどに寂しげで、美しかった。

「ローテ、いいかしら?」

「なにかしら、プリンセス……候補」

 ローテは、すぐに昼間のニクソサにもどって、横顔で答えた。

「昼間は、大変だったわね」

「なんだ、そのことか」

 ちょっと説明がいる。

 昼間のヘリコプター墜落事件は、当然ながらローテの一族に疑いがかけられた。なんと言っても、焼けた機体からローテの人形が出てきたのだ。犯人はローテ一族と縁戚関係にあるCU国に逃走。その後の足どりは分かっていない。

「あれは、ローテの家とは関係ないと思っているわ」

「あたりまえよ。うちが絡むんだったら、あんなに見え透いた証拠残すわけないじゃない。あんなのはタブロイド(二級大衆新聞)の、その日限りの客寄せ記事よ。明日になれば、ロイターやAP通信が、正確な情報を流してくれるでしょう。『見え透いたクレルモン家関与説』ってタイトルで」

「じゃ、いったいどこのだれの仕業だと言うのよ?」

「そんなもの分からないわ。それより、今読んでるミステリー面白いのよ。実は被害者が、自作自演したお話」

 そう言った後、二人は沈黙になってしまった。庭の虫の鳴き声だけが際だった。

「虫の鳴き声が涼しげね」

「騒がしいだけ……嫌みじゃないのよ。ミナコは、見かけはミナコ王族の血を引いているけど、日本人として育ってしまったから、この国の統治は無理よ。虫の鳴き声は、欧米じゃ騒音なの……ほら、そのあいまいな頬笑みも、日本以外じゃ通用しないわ。もうアルカイックスマイルの時代じゃないの。王女と言えど、意思ははっきり伝えられなくっちゃ」

「ローテは、日本人を一色で見過ぎているわ。わたしは……うちは、表も裏もない大阪の子やねん。遠慮せんでええとこは、バリバリの本音でいくさかいね」

「ヨーロッパのエスタブリッシュを舐めないで、そのくらい知ってるわ。大阪は軽薄よ。阪神タイガースを応援し続けているなんて、国際的には理解不能。ただのお調子者、戦時中、あの悪名高い国防婦人会作ったのも大阪のおばちゃんよ」

「国防婦人会?」

「なんだ、そんなことも知らないの。わたしと対で話そうなんて、百年早いわよ」

 やられた、と思うと同時に、直感が働いた。

「ローテ、静かにバルコニーから離れて」

「どうして?」

「もうすぐ、バルコニーが崩れる。気配を感じた」

「うそ……」

「微妙に、バルコニーが傾斜したように感じたの。地震大国の日本人だから分かるのよ……こっち来て!」

 ミナコの真剣さに、ローテはゆっくりバルコニーから離れ始めた。

 ローテが二三歩、ミナコに近づいたところで、バルコニーは音を立てて崩れた。

「ローテ!」

 ミナコの声が夜空に響いた……!

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