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93〈長崎港のトラブル〉
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てんせい少女
93〈長崎港のトラブル〉
「え、今からですか?」
運転手さんの声が、ここまで聞こえた。
助手のオネエサンと、なにやら話した後、運転手さんは、待合いにいたあたしたちに済まなさそうな顔でやってきた。
「すみません。会社からの指示で、ここで失礼します。どうも、急にドライバーの手が足りなくなったみたいで。助手の宇土は残します。宇土もトラックの運転はできますのでご心配なく。那覇についたら現地のドライバーが付きます」
間もなく会社のトラックがやってきて、運転手さんを拾っていった。
「人数ギリギリでやってるものですから、三件も急ぎの仕事が入ると、人のやりくりがつかなくって。申し訳ありません」
宇土さんは、会社を代表するように頭を下げた。
「そうだ、お母さん。あたしたち二等の四人部屋でしょ。一つベッド空いてるから宇土さんに入ってもらったら!」
「そんな、あたしは仕事で乗っているんですから三等でけっこうです」
宇土さんは、遠慮したが、あたしは、構わずに話を進めた。
「三人で使おうが、四人で使おうが料金は変わりないんだから、ね、そうしましょうよ。あたしと宇土さんで二段ベッド一つ使うわ。いいでしょ?」
「一泊だけど、船旅。仲間が多い方が楽しいわ。宇土さん、そうしてよ」
お母さんも宇土さんの人柄が気に入ったようで、積極的に賛成してくれた。
「じゃ、お言葉に甘えてご一緒させていただきます。ありがとうございます」
フェリーの出航時間までには一時間近くある。
宇土さんは、さっさとトラックをフェリーに入れると、待合いに戻って、あたしたちにいろいろ案内や説明をしてくれた。沖縄のことにも詳しく、官舎がある街のことを、タブレットを出していろいろ説明してくれる。街の学校や子供たちのことも、面白可笑しく話してくれて、人見知りの弟に気を遣ってくれているのが分かる。
「宇土さん、ひょっとしてだけど、元自衛官じゃない?」
お母さんが、イタズラっぽく聞いた。
「え……あ、分かりました?」
「匂いがね……自衛官の女房を二十年もやってりゃ、勘が働くわ」
「ハハ、伊丹の第三師団の施設科にいました。ブルドーザーもダンプも動かせます」
「へえ、施設科なの。人当たりがいいから、広報かと思っちゃった」
「鋭いですね奥さん。調子のいいのをみこまれて、展示などでは、よくMCをやらされました」
あたしたちは、さらに宇土さんに親しみを感じた。
それは乗船十分ほど前に起こった。
「おーい、人が落ちたぞ!」
声がして、埠頭にいってみると、埠頭近くの海面を、女の子が浮き沈みしているのが目に入った。
直ぐに埠頭やフェリーから浮き輪が投げられた。
その子は、真冬の海をものともせずに、救助に向かったボートまで泳ぎ、自分の力でボートに乗り込んだ。
「あの、女の人、お姉ちゃんに、そっくりだ……」
弟の進が呟いた。
確かに、ボートに乗り込んだ女の子は、あたしと同じサロペットのジーンズにポニーテール。ジャケットの色も、あたしと同じだった。ただ、発するオーラは違った。まるでトライアスロンの選手のような闘志を感じた。
毛布にくるまれて、桟橋に上がると、救助の人たちに取り巻かれるようにして、あたしたちの前を通っていった。ぐしょぬれだけど、ショックを受けた様子ではなく、なにか……。
「あの人、怒ったときのお姉ちゃんそっくりだ」
進が呟いたあと、救急車のサイレンがした。
で、あたしのそっくりさんは、救急車が到着すると、救急車の到着前に急スピードで横付けしたセダンに飛び乗ってさっさと、行ってしまった……。
93〈長崎港のトラブル〉
「え、今からですか?」
運転手さんの声が、ここまで聞こえた。
助手のオネエサンと、なにやら話した後、運転手さんは、待合いにいたあたしたちに済まなさそうな顔でやってきた。
「すみません。会社からの指示で、ここで失礼します。どうも、急にドライバーの手が足りなくなったみたいで。助手の宇土は残します。宇土もトラックの運転はできますのでご心配なく。那覇についたら現地のドライバーが付きます」
間もなく会社のトラックがやってきて、運転手さんを拾っていった。
「人数ギリギリでやってるものですから、三件も急ぎの仕事が入ると、人のやりくりがつかなくって。申し訳ありません」
宇土さんは、会社を代表するように頭を下げた。
「そうだ、お母さん。あたしたち二等の四人部屋でしょ。一つベッド空いてるから宇土さんに入ってもらったら!」
「そんな、あたしは仕事で乗っているんですから三等でけっこうです」
宇土さんは、遠慮したが、あたしは、構わずに話を進めた。
「三人で使おうが、四人で使おうが料金は変わりないんだから、ね、そうしましょうよ。あたしと宇土さんで二段ベッド一つ使うわ。いいでしょ?」
「一泊だけど、船旅。仲間が多い方が楽しいわ。宇土さん、そうしてよ」
お母さんも宇土さんの人柄が気に入ったようで、積極的に賛成してくれた。
「じゃ、お言葉に甘えてご一緒させていただきます。ありがとうございます」
フェリーの出航時間までには一時間近くある。
宇土さんは、さっさとトラックをフェリーに入れると、待合いに戻って、あたしたちにいろいろ案内や説明をしてくれた。沖縄のことにも詳しく、官舎がある街のことを、タブレットを出していろいろ説明してくれる。街の学校や子供たちのことも、面白可笑しく話してくれて、人見知りの弟に気を遣ってくれているのが分かる。
「宇土さん、ひょっとしてだけど、元自衛官じゃない?」
お母さんが、イタズラっぽく聞いた。
「え……あ、分かりました?」
「匂いがね……自衛官の女房を二十年もやってりゃ、勘が働くわ」
「ハハ、伊丹の第三師団の施設科にいました。ブルドーザーもダンプも動かせます」
「へえ、施設科なの。人当たりがいいから、広報かと思っちゃった」
「鋭いですね奥さん。調子のいいのをみこまれて、展示などでは、よくMCをやらされました」
あたしたちは、さらに宇土さんに親しみを感じた。
それは乗船十分ほど前に起こった。
「おーい、人が落ちたぞ!」
声がして、埠頭にいってみると、埠頭近くの海面を、女の子が浮き沈みしているのが目に入った。
直ぐに埠頭やフェリーから浮き輪が投げられた。
その子は、真冬の海をものともせずに、救助に向かったボートまで泳ぎ、自分の力でボートに乗り込んだ。
「あの、女の人、お姉ちゃんに、そっくりだ……」
弟の進が呟いた。
確かに、ボートに乗り込んだ女の子は、あたしと同じサロペットのジーンズにポニーテール。ジャケットの色も、あたしと同じだった。ただ、発するオーラは違った。まるでトライアスロンの選手のような闘志を感じた。
毛布にくるまれて、桟橋に上がると、救助の人たちに取り巻かれるようにして、あたしたちの前を通っていった。ぐしょぬれだけど、ショックを受けた様子ではなく、なにか……。
「あの人、怒ったときのお姉ちゃんそっくりだ」
進が呟いたあと、救急車のサイレンがした。
で、あたしのそっくりさんは、救急車が到着すると、救急車の到着前に急スピードで横付けしたセダンに飛び乗ってさっさと、行ってしまった……。
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