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130《コスモス坂・2》

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てんせい少女

130《コスモス坂・2》 




 極楽寺の手前は箱庭のような山があって、その下を江ノ電唯一のトンネルが穿たれている。

 電車は二両連結で、玩具のようにゴトゴトと、その単線のトンネルからホームに入ってくる。極楽寺を過ぎて、稲村ヶ崎に着くまでは、ちょっとした山中の風情。

 そして稲村ヶ崎を過ぎると、スイッチで切り替えたみたいに太平洋のパノラマが開けてくる。そして車窓から吹き込んでくる潮の香を吸い込んで七里ヶ浜に着く。

 たった三駅だけだけど、毎日、この日本一変化に富んだ景色を堪能して学校に行く。

 休みの日には、鎌倉や江の島、その先の藤沢まで足を延ばす。この江ノ電の界隈で、たいていのことが間に合う。コンパクトだけど、日本のエッセンスがこの江ノ電周辺には集まっている。わたしは、それで満足だ。

 妹の久美子は、東京に行った兄の影響もあって、ウズウズしている。箱庭みたいな湘南から早く飛び出したくて、月に一度は東京に足を延ばす、高一の秋にして東京の地理はわたしよりも詳しくなった。

 同じ電車に乗りながら、受ける印象はまるで違う。ただ、稲村ヶ崎の駅を過ぎて海が見えると姉妹の胸は時めいた。あたしにとっては湘南の海として、久美子にとっては世界に広がる太平洋として。

 そんな姉妹の想いを乗せて、十分ほどで二両連結の電車は、七里ヶ浜の駅に着く。

 電車の中で海を見ていた間は元気だった久美子が、駅に着いた途端ウスボンヤリの低血圧に戻ってしまった。後ろから声高に議論している男子生徒の一群が追い越していく。で、追い越しざまに久美子の肩に当たり久美子はよろけて倒れそうになった。

「久美子!」

 辛うじて芳子が支えたが、鞄が道路に落ちて、半端な止め方をしていた口金が外れて、中身がぶちまけられた。

「ちょっと、気をつけなさいよ!」

 低血圧のくせして久美子は、こういう時の啖呵はしっかり切る。

「あ、ごめん」

 男子生徒たちが、慌てて鞄の中身を拾い集めた。

「あー、もう。お弁当グチャグチャになっちゃったじゃないよ!」

 久美子は、自分の鞄の留め方の悪さを棚に上げて文句だけはしっかり言う。

「いやあ、申し訳ない。お昼は食堂でおごらせてもらうよ、学年は一年だね、クラスと名前は?」

「3組の三村久美子。ノートや教科書に書いてあるでしょ!」

「三村……」

「ひょっとして、三村勲先輩の妹か!?」

 この男子の言葉の響きに剣呑なものを感じた。

「いいえ、ぼんやりしていた妹も悪いんだから、気を使わないで」

「いやあ、そういうわけにはいかない。ぶつかったのは僕なんだから、そうさせてくれ。僕は3年8組の白根真一、4時間目が終わったら食堂の前で待ってるから。良かったらお姉さんもどう?」

「いいえ、あたしはけっこうです」

「フフ( ^ิ艸^ิ゚)、お姉ちゃんは、こういうシチュエーション好きじゃないもんね。あたし待ってますから、絶対よろしく!」

 こうして、ありふれた一日は、特別な一日になっていきそうな気配になってきた……。

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