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155≪国変え物語15・武士輸出計画≫

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てんせい少女

155≪国変え物語15・武士輸出計画≫ 



 1595年(文禄3年)になっていた。本来なら文禄の役の終盤戦である。

 ところが、この後世まで秀吉の名を落とし、隣の半島国家から数百年後まで恨まれる戦は起こっていなかった。
 全て信長が死に、秀吉が大坂に築城し始めたころからの、美奈の長期的な企みの成果であった。

 大坂で開いた大物産会は大成功で、諸国の大名や商人たちが、国の名産品を商うようになり、日本は一大商業国家になりつつあった。

 美奈の献策で、取引に五分の税を掛け、その税を元に一大水軍を作った。

 このころになると、国内の交易だけでなく、シャムや琉球マニラとの貿易も盛んになり、この水軍は、普段は貿易船団の護衛にあたっていた。

「貿易の護衛だけでは、つまらのうございましょう」

 美奈は小西行長らの、商人上がりの大名を焚きつけた。

 天下が統一されてからは、武士が余った。

 戦によって改易された者やら、刀狩は行われたものの、まだまだ農民の中には半ば武士的な気風から抜けきれない者が多く居た。

 土佐の方言に「いごっそう」というのがある。元気な者、一徹な者を指して使う褒め言葉である。

 語源は「一領具足」で、田畑の仕事の傍ら、畦道に一領の具足(鎧兜)を槍とともに掛けておき、いざ陣ぶれの太鼓が鳴れば、急いで具足姿(武士の戦闘装備)になり、そのまま戦場に駆けだす者が大勢いた。

 美奈は、この戦国の熱から覚めない連中を、海外に輸出することを考えた。

 朝鮮は鎖国している。明と呼ばれた中国は、国として貿易には不熱心で、貿易相手としても旨みが薄い。
 そこで、すでに日本人町などがあって、進出の足場が出来ている、ベトナム、マニラ、シャムに目を付けた。これらの国々はイスパニアやポルトガルの進出で、国を蚕食され始めている。

 そこへ傭兵として、日本の元気の余った武士や一領具足たちを送り込む。彼らの半分は、行った国で土着したが、半分は帰国して、貿易や、商業に従事するものが多かった。

「これで、五右衛門さんを釜茹でにしなくてすむわ」

 美奈は、少女のように口を開けて桜餅を食べながら言った。

「オレが、言うのもなんだけど、これだけいい女を秀吉は、よく手を出さなかったなあ」

 五右衛門は、オレが口説いても無駄だろうという謎を掛けながら、美奈に言う。傍らで七十台の半ばになった千利休が笑っている。

「あたし、釜茹での話をしたのよ」
「よせよ。オレは大泥棒になっていたかはしらないが、捕まるようなへまはしないって」

 五右衛門は、利休に教えてもらった通りの作法で、茶を喫した。言葉遣いは昔のままだが、文禄の時代には一大海運王になっている。通り一遍の行儀作法は心得ているのだ。

「これで、天下が治まればよろしゅうございますがなあ……」

 利休が茶をたてながら呟いた。

「可能性は五分五分でしょうね。豊臣の政権は組織が未熟。そこへもってきて、尾張出身の者と近江出身の者たちの対立の根がつみとれない……」

 そこに、伏見から急な使いがやってきた。

「鶴松さま、にわかのご発病! 美奈殿には至急伏見城にこられよとの殿下のお言葉にござります!」

 来るものが来たと美奈は思った……。
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