おじさんの恋

椎名サクラ

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本編1

10-2

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「あー、もうっ!」

 掴んだままの腕を引かれ、無理矢理立たされた。そして強引な力で連れていかれたのは、彼が住み始めてから一度も足を踏み入れたことがない、遥人にあてがった部屋だ。綺麗に整ってデスクの上には最低限の物しか置かれていない、シンプルで綺麗な部屋の奥には、身体の大きな遥人のために買ったダブルベッドがある。そこへと投げ出され、痛みに呻いた。

 今日はこんなのばかりだと思いながら、これから何をされるのかと怯えた。殴られるのだろうか……痛みに耐性がないからできるなら罵倒がいいと思いつつ身体を縮こませた。

「男同士のやり方とか俺、知りませんからっ!」

 そう言いながら遥人がスウェットのウエストに手をかけ一気に引き下ろす。その摩擦で下着も股関節までずり落ちた。

「なっ」

 なにをするんだというよりも早く、なにかが尻の間に押し当てられた。

「みずっ……いたっ」

 それが数時間前までガンガンに犯されていた場所へと無理矢理に潜り込もうとする。

「いたいっ……やめっ」

 けれど痛いはずなのに、何もしていない時よりも緩くなっている蕾はぎしっぎしっときしませながらもそれを受け入れて奥へと導けるように広がっていく。

「ぐっ……きっつ」

 ドクンとそれが大きくなった。

「うそ……」

 入ってきているのは紛れもない、遥人の欲望だ。しかもすぐということはゴムを付けていない。潤滑剤になりうるものがないまま挿れられ、あまりの痛みに何度も止めてくれるよう訴えるが、遥人は何も言わないまま奥へ奥へと突き挿れる。

「だめっ……ゃめてぇぇ」

 痛みに泣きじゃくりながらひたすら彼の匂いのするシーツを掴み痛みに堪える。さっきとは違う意味の涙がどんどんとシーツに吸い込まれながら、それと同じように隆則の身体にも遥人の欲望が突き刺さっていく。根元まで挿れられてようやく残酷な動きが止まった。

「ひどい……」

 言わずにはいられなかった。なぜこんなにも酷いことをするのか、と。

「酷いのは五十嵐さんでしょっ! 俺のことが好きなのに他のやつにやってもらって気持ちよくなってたんでしょ……ずっと心配してたのに……」

 隆則の骨が浮き出た腰を掴む手に力が入った。

「ひっ」

 乱暴な抽挿が開始され、隆則は悲鳴を上げながら臀部に力を入れた。それが遥人を悦ばせるとも知らず、ひたすら声だけの拒絶を繰り返すが疲労しきった身体は暴れるだけの気力などなかった。

(ひどい……なんで……?)

 遥人が何を思ってこんなことをしているのだろうか。ただ荒々しいまでの抽挿に痛みと僅かな快楽を伴いながらひたすら悲しくなった。こんな暴力のようなことをしてしまうくらい、遥人を恋愛対象にしたことを怒っているか。

(ごめん……ほんとうにごめん)

 まるでレイプのように犯され続けて、隆則はひたすら泣き続けた。

 どれだけシーツを濡らしただろうか。乱暴に扱われた内壁だけではない、心までもが痛くてこのまま死にたくなる。

『ノンケを好きになっちゃだめですよ、傷つくの五十嵐さんなんですから』

 本当にその通りだ。こんなことをされるほどひどい感情を自分は抱いたのだろうか。今まで伸び続けようとする葉が萎れ力なく首を垂れている。けれど、と思う。当たり前だ、隆則たちゲイは自然の摂理から反しているのだから。なぜ自分が同性にしか恋愛場を抱けないのかわからないまま、相手に気持ちをぶつけているのだ。自然の摂理の中を歩み続けてきた人々からしたらこの感情は理解の限界を超えた恐怖でしかないのかもしれない。いくら理解が始まったとはいえ、それは同じ性癖の者同士でやってくれればいいことで、動物園の檻の中でどれほど番おうがかまわないのは、檻の外という傍観者だからだ。獰猛な動物がいくらそこにいようと何をしていようと気にしないのと同じで、それが一歩でも檻の外に飛び出したらパニックを起こし排除のために銃殺しようとする。遥人はきっと、こんな感情を向けてくる得体のしれない存在を殺そうとして乱暴を繰り返しているのだ。

 このまま消えてしまえ、自分の存在なんて。

 隆則は絶望を胸の中に埋め尽くしながらひたすら泣いた。

 ギュウギュウに締め付けられたまま何度も抽挿を繰り返した遥人が、熱くなった内壁に欲望の蜜を吐き出したのは隆則の涙がマットレスにまで染み込んでからだった。年甲斐もなくエグエグと啜り泣く隆則から力を失ったものを出すと、追随するように白濁の蜜がそこからタラタラと流れ落ち太ももを伝う。

 初めての感触に隆則は身を震わせた。

「ちくしょう!」

 いつもとは違う乱暴な言葉を吐き出して隆則の身体を返した。

「やっ」

 泣きすぎて醜い顔を見られたくなくてまだコートに包まれている腕で必死に顔を隠すのに、それすらも大きな手に掴まれベッドに固定された。

「っ……みないで……」

 抵抗しても力の差は歴然だ。強い力から腕を抜こうと藻掻くが摘まんだ蟻が蠢くほどの抵抗にしかならない。

「だめですっどんな顔してそいつとやったか見せてくださいっ!」

「やっだぁぁ」

 いつの間に下肢から布をすべて脱ぎ去った遥人の筋肉質な足が器用に隆則のスウェットと下着を足首から抜き取ると、そのまま身体を太ももの間に割り込ませ達ったはずの欲望をまたねじ込んできた。

「もっ……ぃやだっ」

 遥人の蜜が助けとなりスムーズに奥まで挿り込むと、またさっきのように動き出した。今度はどんに締め付けても蜜の滑りのせいで彼の動きを阻むことはできず、合わせて濡れた音が立ち始めた。

 泣きすぎた眦が赤くなり、そこを新たな筋を作りながら透明の粒がいくつも流れ落ちていく。

「なんでっ嫌がるんですかっ! 俺のことが好きなんでしょっ」

 言葉の区切りと同じタイミングでパンッパンッと肉のぶつかる音が高く響く。その大きな動きがさっきとは違い隆則の感じる場所を強く突いた。

「ひっ……だめっ」

「……これ、ですか?」

 もう一度大きく腰を動かしながら、先端でその場所を確かめるように分身の奥の部分を狙う。

「ぁっ……やめてやめてやめてっ」

 プロの手で開発された身体はその一点を掠めた時、無意識に跳ねた。

「あ、そういうことなんですね……ここがっいいんっですねっ!」

 短いスパンで強く擦られ、押し寄せてくる快楽から逃げようと何度も髪を振り乱し涙を飛ばすが、口から出るのは意味をなさない甘い声ばかりだ。しかも今まで痛みで萎んでいた分身までがそれに悦び擦られるたびに形を変えていった。眉間に皺を寄せなければ堪えられないほどの愉悦が身体を駆け巡っていく。馴染みのデリヘルに散々突かれた後だから余計に敏感で、欲望が僅かにでも当たるだけで隆則は啼きながら蕾からその奥までを使ってさっきとは違った力で彼を締め付けずにはいられなかった。

 器用な遥人はコツを得たとばかりにそこに狙いを定めながら腰を打ち付けてくる。その度に嫌だと暴れていた太ももは逞しい腰を強く締め付ける。

「こんな顔っそいつに見せたっんですかっ」

「ぁぁっ……んんもっ」

 内壁からの刺激でガンガンに硬くなった遥人の欲望が感じる場所を掠めながら奥へ奥へと今まで知らない場所を暴き続けようとする。その苦しさにすら隆則は甘く啼くしかなかった。いつの間にか欲望が抜けるのが嫌できつく締め付け、挿るときにはそこが当たるように自分から腰を動かすようになり、数時間前に何度も達ったはずの分身は透明な蜜を溢れさせそれを遥人の逞しい腹筋に擦り付けていた。

「ぃくっ……もっ」

 自分を犯しているのが誰かもわからないくらいに感じ切った隆則は先端を何度も何度も腹筋に刺激し続けながら中のいい場所を突かれる、今まで味わったことのない強い快感に、耐えることもできずそのままビクンビクンと強く彼を締め付けながら量の少ない蜜を飛ばした。その刺激に奥の奥に熱い迸りをぶつけた遥人の身体が倒れ込んできた。

 確かな質感と汗の滲んだ肌の感触に、苦しいと思うよりも胸が締め付けられた。

 萎れていたはずの葉先がまた新たな栄養を与えられピンと伸び、温もりを糧にどんどんと茎は伸び蕾を付け始めた。

 鼻を啜れば遥人の首筋から漂う独特の匂いが鼻孔をくすぐった。

(遥人に……抱かれたんだ)

 しかも二度もこの身体で達った。最後のほうはもう訳が分からないくらい何度も何度も身体中を愉悦の電流が駆け巡り脳をおかしくさせていた。気持ちよすぎて達くことしか考えられず、自分から卑猥に腰をくねらせ続けるほど、狂った。馴染みのデリヘルボーイにしてもらった時だってこんなに気持ちよくなったことがない。不慣れな隆則に合わせてセーブした心に僅かな平常心を残せる交情しか経験してこなかった。

 放心するくらいに深い快感を熱い吐息で少しずつ逃がしていき、少しずつ考えられるようになると幸せだった心は一気に凍り付いた。

(遥人の前で達った……)

 触れられることなく後ろの刺激だけで達く変態だと絶対思われた。いや、もう同性にしか欲情しない時点で充分変態と思われているだろうし、恋焦がれているのが遥人だと知られた今、隆則に残された道はただ一つ、遥人との別れだ。どんなに恋い慕っても、もう二度と会うことはできない。
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