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第4話:不安の芽
しおりを挟む二人でポップンの大会を目指すと約束してから一ヶ月が経った。平日は、お互いの仕事終わりに時間を合わせて2時間、休日は時間を合わせて3時間練習を重ねていた。
長島はその間も絵里に言われたことを気にかけていたが、特に変化はなかった。そのこともあってか、長島は油断をしていた。
ある金曜日。長島は、いつものようにボトルカーに乗り込み配達をしていた。この日は、ちょうど、絵里のいる本屋を回るルートだった。
「こんにちは、ダイオードリンコです。今回の納品の確認をお願いします。」
「はーい。」
奥のスタッフルームから出てきたのは、店長の槇村秀次だった。
バックヤードにいた恵子は、長島の声を聞いて、慌ててバックヤードから出てきた。
「店長~、私が対応しますよ~。」
「あなたは、バックヤードの在庫管理があるでしょ。」
「は、はい。」
店長の槇村の眼力と威圧で狼狽えた。
恵子は、肩を落としてスゴスゴとバックヤードに向かっていった。
そんなことを知らない長島は、淡々と納品書に書いてある通りに補充した。
「補充終わりました。」
「はーい。」
「牧野さん、お疲れ様です。無事に納品完了しました。確認お願いします。」
「長島さん、お疲れ様です。ありがとうございました。また、よろしくお願いします。」
「ありがとうございます。失礼します。」
長島は、そういうとボトルカーに乗り込みルートに戻っていった。
その日の夜7時頃、長島の姿は、いつものようにゲーセンに向かった。
「お疲れ様。ごめんね、遅くなった。」
「大丈夫。私もさっき着いて、軽く1プレイ終わったところだから。」
「そっか。じゃあ、僕も早速プレイしよ。」
長島は、軽く水分補給して、両替機でいつものように500円両替すると、筐体に向き合った。
軽く深呼吸をする。「ヨシッ。」と切り替えをして100円投入口にコインを入れた。
とりあえず、バトルモードを選ぶと絵里が言った。
「バトル?私もやろうか?」
「ごめん、一人でやりたいんだ。同時押しから今日の癖を見たいから。」
「なるほど。それも練習になるんだね。」
「うん。バトルは、3ボタン制だから、同時押しや階段の練習に丁度良いんだよね。僕はね。」
絵里は、感心したように、携帯にメモしていた。
バトルモードのプレイが終わると、長島は、プレイログをノートに記した。
その様子も絵里には新鮮だった。
「伸幸さん、それ、プレイログ?」
「うん。練習の時、いつも使ってるんだ。これ、4冊目だよ。」
「ちょっと、見せてもらっていい?」
「うん。いいよ。」
絵里は、興味本位で長島のプレイログを見させてもらった。
長島のプレイログは、どこのゲーセンでやったのか、ボタンの感度はどうか、その感度に合った押し方はどんな感じにしたらいいのか、自分の苦手な傾向と対策、得意な部分の活かし方など綺麗に纏められていた。
「す、凄い。めっちゃ分かりやすい。」
「そうかな。自分が分かれば良いというメモ的なものだよ。」
長島は申し訳なさそうに答えていたが、絵里は、これがあれば、自分の苦手とか整理できるかも、そう思った。
「私も、こんなプレイログあれば、自分のこともっと分かるのかな。」
「分かると思うよ。」
「でも、こんなにも上手に出来ないよ。」
そう絵里が言うと、長島が続けて言った。
「だったら、二人のプレイログ作る?折角、一緒に練習やり始めたんだから。」
「え?良いの?」
「もちろん。」
長島の「もちろん。」という答えに絵里はガッツポーズしたが、そのあとの、「同じチームだしね。」という言葉にガクッと肩透かしを受けた。
「チームとしてなの。好きな人としてかと思った。」
「もちろん、好きな友人として一緒に練習するってのが楽しいじゃん。」
「好きな友人」というのが絵里は気になった。
「好きな友人って、私たち付き合ってるんだよね?」
「うん。そうだよ。彼女として守るよ。だけど、それまでが、大学の先輩後輩だったから、友人としての絵里ちゃんが未だ分からないんだ。」
「じゃあ、私が伸幸さんに好きになってもらえるようにこれからも一杯、会っても良い?」
「もちろん、僕からもお願いします。」
絵里は、一先ず長島の気持ちが分かってホッとした反面、少しばかりの不安が募った。
(本当に私のこと好きになってくれるかな。伸幸さん、関わると対応が誰にも優しいからな。自分から来ないけど。距離間近い人とか寄ってこないよね。)
不安に思うことが絵里の頭を次々に過っていく。
絵里は何とも言えない感情になっていった。
-続く-
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