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第5話:二人の練習
しおりを挟む9月のとある土曜日。この日の長島は、絵里と二人でのポップンの練習が無くなったので、一人、練習前に行きつけのカフェ「さくら」に来ていた。
「いらっしゃいませ。カウンター、どうぞ。」
長島は席に着くと同時に注文した。
「コーヒー、下さい。」
「かしこまりました。」
コーヒーを待っている間、長島は、プレイログを見て、今日の練習メニューを考えていた。
「お待たせしました。サクラブレンドです。」
「ありがとうございます。」
長島は、カウンター越しにコーヒーを受け取るとその香りを堪能しながら深呼吸した。
一口、コーヒーを口に入れると「美味いな。」と呟いた。それを聞いた店員さんが続けて言った。
「ありがとうございます。」
「やっぱり、コーヒー飲むと落ち着くね。」
「長島さん、いつもブラックですよね。」
「うん。コーヒーのときはね。紅茶は砂糖やミルク入れるんだけどね。」
「コーヒーと紅茶で違うんですか。」
「コーヒーは苦味が舌に残らないから、ブラックで飲めるんだけど、紅茶は苦味が舌に残る感じがするからストレートでは飲めないんだよね。僕はね。」
「そうなんですね。」
話をしていると奥からマスターがやって来た。
「長島さん、いらっしゃい。」
「マスター、どうも。」
「どうですか、ポップン。やってますか。」
「えぇ。大会も決まってエントリーに向けて練習中ですね。今日もこの後、行ってきます。」
「先日、一緒に来ていた人は?」
「か、彼女、です。私の3つ下になります。」
「そうなんですね。どこで知り合われたんですか。」
「同じ大学の後輩だったんです。といっても、私が4年の時に1年だったので、1年しか被って無かったんですが。」
「大学って、愛知県でしたよね。じゃあ、彼女さんは愛知県の人ですか?」
「いえ、彼女も島根県出身ですよ。松江でして。私の大学に島根県出身の学生って4年合わさっても10人いるかどうかって感じなので、学部は違ってもお互いの事を必要以上に気にかけてしまうんですよね。」
「全体で10人程度って、少ないですよね。」
「1200人学生いる内の10人程度ですからね。全体の半分が愛知、岐阜、三重、静岡、長野で占めてるんだから、相当レアだったと思いますよ。」
「1200人いて10人程度!それは貴重でしたね。」
「えぇ。かなりマイナーだったので、部屋の提供が認められなかったんですよ。チラシとかでPRも出来ないし。人づてでないと知ること出来なかったんですよね。」
「それで、よく彼女さんは、県人会に入れましたね。」
「私が所属していたボランティアサークルに入ったのがきっかけで知り合って、同郷って分かったから、私から県人会に誘ったんです。」
「なるほど。そういうことだったんですね。」
長島は、残ったコーヒーを飲み干すと席を立った。
「ごちそうさまです。」
「あっ、行かれますか。ありがとうございます。」
会計を済ませると、マスターは、扉を開けて見送ってくれた。
「行ってらっしゃいませ。」
「行ってきます。」
長島は、車に乗り込むと、ゲーセンへ車を走らせた。
ゲーセンに到着するといつものように、一服済ませてポップンの台に向かった。
顔をパンパンと軽く叩いて切り替えるとコインを入れた。今日は、最初からノーマルモードにして練習していくことにしたのだ。
1プレイ目が終わると待機席に移動し、プレイログを開いて、忘れないうちに記録していった。連続プレイは一人2回までというのが、ここのゲーセンのルールになっている。本当なら貸し切り状態で連続で練習することが出来るなら良いのだが、そういうことではない。2プレイ毎にポップンから離れないといけないということで、長島は、2プレイ毎に、一服したり水分補給したりと小休憩を挟むことにした。
4プレイが終わり、喫煙室で一服していると、絵里から連絡があった。
「今、仕事終わったけど会えないですか?」
長島は直ぐに返信をした。
「ゲーセンでポップンの練習をしているから、おいで。」
絵里からの返信は早かった。
「今から行きます。」
長島は絵里の連絡を確認すると、一服を終え、プレイを再開した。
それから2プレイ終える頃、絵里がやって来た。
「伸幸さん、お待たせしました。」
「絵里ちゃん、お疲れ様。」
「練習、どんな感じですか。」
「ぼちぼち、かな。レベル39があと20曲までクリアを増やすこと出来たよ。」
「すごいな。私は、今、未だ40のままだけど、伸幸さんのおかげでBAD数減らすこと出来たよ。40もあと15曲かな。」
「絵里ちゃんも凄いね。」
「伸幸さんのプレイログのおかげだよ。」
「いやいや、絵里ちゃんの日頃の努力が大きいんだよ。」
絵里は筐体の前に立って、プレイを始めた。
長島は絵里のプレイを観ながらプレイログを記録していた。
プレイを終えた絵里が言った。
「どうだったかな。」
「絵里ちゃんも上手くなったよね。表打ちだけでやるのも良いけど、スコアが伸びにくくなるから、裏打ちも入れたらGOODよりもGREATが多くなってスコアが伸びやすくなると思うよ。」
絵里は頭の中でハテナが浮かんだ。
「表打ちと裏打ち?」
「ごめんね。表打ちは、普通に打つ感じで、裏打ちは、スナップを入れて裏拍で打つ感じかな。」
長島は、記録したプレイログを見せながら説明を始める。
「絵里ちゃんは、シングルとリズム打ちと螺旋階段は得意だから、そこは、今まで通りの表打ちで点数取れるからそのままで良いけど、シングルとダブルの階段が苦手だから、そこは、裏打ち入れると点数伸びると思うよ。」
絵里は、プレイログを見ながら長島のアドバイスを聞いていた。長島のプレイログは、イラスト入りだったから、理解しやすい説明だった。
「なるほど!」
「試しに1プレイしてみたら。」
「うん。」
絵里は、再び筐体に向かい、改めてプレイしてみた。
プレイしながら長島のアドバイスを実践してみると、確かに、慣れないうちはBADが増えていてもGOODよりGREATが多くなって、自分がやっていたものよりもスコアが伸びていくことを実感した。
「す、凄い…。」
後ろの待機席から長島が声かけた。
「どうだった?」
「本当にスコア伸びたよ。ありがとう。これで、また一つレベルが上がりそうだよ。」
「良かった。もう少しやる?」
「ううん。今日はもう終わるよ。ご飯、行こうよ。」
「うん。良いよ。」
二人は、夕飯を食べるためにゲーセンを出た。
-続く-
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