サクラブレンド

祝木田 吉可

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第7話:再会?

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絵里は、辰悟にある提案をした。

「お父さん、ちょっと聞いても良いかな。」

「ん?なんだ?」

「伸幸さんの次の更新で引っ越してそのタイミングで同棲スタートっていうのは有り難いと思ってる、だけど…」

「だけど…、なに?」

「更新までは、伸幸さんの今のアパートに土日祝だけでもいるっていうのは、だめ?」

辰悟の隣で聞いていた幸絵が先に反応した。

「あら、良いわね。週末婚みたいな感じで楽しそう。」

「でもな~。」

「良いじゃない。家離れる練習だと思えば。平日は家にいるんだし。」

「う~ん…」

中々返事を渋る辰悟に幸絵は続ける。

「そんなに渋るのは、やめなさい。女々しい。」

「お、俺は、め、女々しくない。」

「いや、充分に女々しいよ。子どものしたいことを応援するのが親の務めでしょ。絵里は今自立に向けての一歩を踏み出そうとしてるの。邪魔しないであげて。」

「…分かった。更新までの間の土日祝、一緒にいることを認めよう。」

「ありがとうございます。」

長島は頭を下げた。

「但し、条件を付けさせてくれ。」

「もちろん。」

「家まで送り迎えすること。迎えは朝10時、送りは19時。そして、前日に体調崩したらなし。連絡は母さんとする。良いね?」

「分かりました。ありがとうございます。」

長島は深く頭を下げた。

気づけば、時間は日付を回っていた。

話すこと話した辰悟は、我慢できなくなったのか、立ち上がった。

「ちょっと、外に飲みに行ってくる。伸幸くん、付き合ってくれないか。」

「はい。お供します。」

「よしっ、行こう。母さん、いつものスナック行ってくる。絵里、伸幸くん借りるぞ。」

「行ってらっしゃい。」

「あまり飲みすぎないでよ。伸幸さん、お父さんは飲みすぎちゃうとどこでも寝ちゃうから、飲みすぎないように気をつけてね。」

「分かった。ありがとう。」

「じゃあ、行ってきます。」

こうして辰悟と長島は、家を出た。

「お父さん、この時間やってるスナックあるんですか。今、0時半ですよ。」

「大丈夫。俺の行きつけは、3時までやってるから。」

「分かりました。」

歩いて15分の所に、辰悟の行きつけのスナックはあった。

(カランコロンカラン)

引き戸を開けると、鈴の音が鳴る。

「辰悟さん、いらっしゃい。珍しいねこんな時間に来るなんて。」

「ママ、久しぶり。今日は飲みたい人が出来たからね。」

「こっちの席、どうぞ。」

二人はカウンターの席を通され、座った。

「辰悟さん、いつものでいい?」

「うん。お願い。」

「お連れさんは?」

「同じものでお願いします。」

「ウイスキーのロックだけど、良い?」

「出来れば、ハイボールでお願いしたいです。」

「辰悟さん、大丈夫?」

「もちろん。」

「じゃあ、氷と一緒にセットで準備するね。」

ママは辰悟がボトルキープしているウイスキーの銘柄と氷とハイボールのセットをカウンターに置いた。

「お待たせ。」

「ママも乾杯しよ。ボトルも残り僅かだから、新しいの入れておいて。」

「では、お言葉に甘えさせてもらいます。」

ママは、自分の水割りを作ると、「乾杯!」と言った。

「改めまして、お連れさん。初めまして。ここのスナックのママしてます、柊です。お連れさんの名前は?」

「な、長島伸幸です。」

「伸幸さんね。伸幸さんは、近所に住んでるの?」

「いえ、私は出雲に住んでます。今日は辰悟さんのとこへお呼ばれしてもらって来ました。」

「伸幸くんはね、私の娘の彼氏なんだ。いつもは、送ってくれるだけだったんだけど、今日は娘が話したいことがあるっていうから、伸幸くんにも一緒に上がってもらって、一緒にご飯食べたんだ。」

辰悟は、そう言うと持っていたウイスキーのロックを一気に飲み干した。

「そうだったの。」

柊ママは、相槌を打ちながら、次の一杯を作る。作り終わると、次の一杯と見せかけてチェイサーの冷水を辰悟の前に置く。

「そしたら娘からお願いがあるって言われた。何だと思う?」

「何をお願いされたの?」

辰悟は、置かれたチェイサーの冷水をぐい呑みして続けた。

「結婚を前提に同棲させてほしい、だってさ。」

その言葉を聞いた柊ママは、先に作ったロックのウイスキーをハイボールに変えて長島に渡し、「ごめんね」と合図をした。

長島が一口飲んでみると思った以上に濃かった。

長島は思わずママに言った。

「こんなに濃いんですね。」

「そうなの。それは未だ割ってるから良いけど、ロックたから悪ものなくて、酔いが直ぐ回っちゃうの。」

「そうなんですね。」

辰悟は酔いつぶれて寝てしまっていた。

柊ママは、タイマーをセットして辰悟の耳元に置いた。

「あの、これは?」

「あー、これ。これは、辰悟さん用のタイマーだよ。酔いつぶれて突っ伏したら、タイマーかけてるの。辰悟さんが誰か連れてきた人の時だけだけどね。」

「なるほど。」

柊ママが長島に手招きをして耳打ちをした。

「奥さんになる人、大事にしてね。」

「もちろんです。」

柊ママは、何かに気づいた。

(長島伸幸、出雲、、、、。そうだよね。)

「伸幸さんは、きょうだい、いますか?」

「会ったことない、きょうだいは、いますよ。」

「どういうこと?」

「なんか、かなり年の差あって、僕が物心ついたときには、家を出て、それから家に帰ってきてないって聞いているので。」

「そういうことか。訳ありかと思った。」

「そんなんじゃないですよ。ただ、僕は覚えてないので、会ってみたいなって思っちゃってるんですよね。」

(のぶ、大きくなったな。)

セットしたタイマーが鳴る。

「辰悟さん、起きて。帰る時間よ。」

柊ママが辰悟の肩を軽く揺すると辰悟は「う~ん。」と言って、起き上がる。

「もう、そんな時間か。ママ、チェックで。」

「はい。これ。いつものね。」

柊ママが金額の書かれた伝票を渡す。

「あれ?新しいボトルが入ってる?」

「さっき、新しいボトル入れてって言ったじゃん。」

「そうだったか。じゃあ、俺と伸幸くんの名前で入れといて。伸幸くん、これは俺からのプレゼントだ。」

「ありがとうございます。」

辰悟は会計を済ませて立ち上がった。

ふらついた辰悟の体を長島がサポートしながら店を出る。

「タクシー呼んだから気をつけてね。」

「ありがとうございます。また来ますね。」

辰悟と長島を見送った柊ママは、しばらく思いにふけていった。

少しして柊ママは、「ヨシッ」と握った拳で軽く胸を叩くと、店に戻っていったのだった。

-続く-

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