7 / 16
第7話:再会?
しおりを挟む絵里は、辰悟にある提案をした。
「お父さん、ちょっと聞いても良いかな。」
「ん?なんだ?」
「伸幸さんの次の更新で引っ越してそのタイミングで同棲スタートっていうのは有り難いと思ってる、だけど…」
「だけど…、なに?」
「更新までは、伸幸さんの今のアパートに土日祝だけでもいるっていうのは、だめ?」
辰悟の隣で聞いていた幸絵が先に反応した。
「あら、良いわね。週末婚みたいな感じで楽しそう。」
「でもな~。」
「良いじゃない。家離れる練習だと思えば。平日は家にいるんだし。」
「う~ん…」
中々返事を渋る辰悟に幸絵は続ける。
「そんなに渋るのは、やめなさい。女々しい。」
「お、俺は、め、女々しくない。」
「いや、充分に女々しいよ。子どものしたいことを応援するのが親の務めでしょ。絵里は今自立に向けての一歩を踏み出そうとしてるの。邪魔しないであげて。」
「…分かった。更新までの間の土日祝、一緒にいることを認めよう。」
「ありがとうございます。」
長島は頭を下げた。
「但し、条件を付けさせてくれ。」
「もちろん。」
「家まで送り迎えすること。迎えは朝10時、送りは19時。そして、前日に体調崩したらなし。連絡は母さんとする。良いね?」
「分かりました。ありがとうございます。」
長島は深く頭を下げた。
気づけば、時間は日付を回っていた。
話すこと話した辰悟は、我慢できなくなったのか、立ち上がった。
「ちょっと、外に飲みに行ってくる。伸幸くん、付き合ってくれないか。」
「はい。お供します。」
「よしっ、行こう。母さん、いつものスナック行ってくる。絵里、伸幸くん借りるぞ。」
「行ってらっしゃい。」
「あまり飲みすぎないでよ。伸幸さん、お父さんは飲みすぎちゃうとどこでも寝ちゃうから、飲みすぎないように気をつけてね。」
「分かった。ありがとう。」
「じゃあ、行ってきます。」
こうして辰悟と長島は、家を出た。
「お父さん、この時間やってるスナックあるんですか。今、0時半ですよ。」
「大丈夫。俺の行きつけは、3時までやってるから。」
「分かりました。」
歩いて15分の所に、辰悟の行きつけのスナックはあった。
(カランコロンカラン)
引き戸を開けると、鈴の音が鳴る。
「辰悟さん、いらっしゃい。珍しいねこんな時間に来るなんて。」
「ママ、久しぶり。今日は飲みたい人が出来たからね。」
「こっちの席、どうぞ。」
二人はカウンターの席を通され、座った。
「辰悟さん、いつものでいい?」
「うん。お願い。」
「お連れさんは?」
「同じものでお願いします。」
「ウイスキーのロックだけど、良い?」
「出来れば、ハイボールでお願いしたいです。」
「辰悟さん、大丈夫?」
「もちろん。」
「じゃあ、氷と一緒にセットで準備するね。」
ママは辰悟がボトルキープしているウイスキーの銘柄と氷とハイボールのセットをカウンターに置いた。
「お待たせ。」
「ママも乾杯しよ。ボトルも残り僅かだから、新しいの入れておいて。」
「では、お言葉に甘えさせてもらいます。」
ママは、自分の水割りを作ると、「乾杯!」と言った。
「改めまして、お連れさん。初めまして。ここのスナックのママしてます、柊です。お連れさんの名前は?」
「な、長島伸幸です。」
「伸幸さんね。伸幸さんは、近所に住んでるの?」
「いえ、私は出雲に住んでます。今日は辰悟さんのとこへお呼ばれしてもらって来ました。」
「伸幸くんはね、私の娘の彼氏なんだ。いつもは、送ってくれるだけだったんだけど、今日は娘が話したいことがあるっていうから、伸幸くんにも一緒に上がってもらって、一緒にご飯食べたんだ。」
辰悟は、そう言うと持っていたウイスキーのロックを一気に飲み干した。
「そうだったの。」
柊ママは、相槌を打ちながら、次の一杯を作る。作り終わると、次の一杯と見せかけてチェイサーの冷水を辰悟の前に置く。
「そしたら娘からお願いがあるって言われた。何だと思う?」
「何をお願いされたの?」
辰悟は、置かれたチェイサーの冷水をぐい呑みして続けた。
「結婚を前提に同棲させてほしい、だってさ。」
その言葉を聞いた柊ママは、先に作ったロックのウイスキーをハイボールに変えて長島に渡し、「ごめんね」と合図をした。
長島が一口飲んでみると思った以上に濃かった。
長島は思わずママに言った。
「こんなに濃いんですね。」
「そうなの。それは未だ割ってるから良いけど、ロックたから悪ものなくて、酔いが直ぐ回っちゃうの。」
「そうなんですね。」
辰悟は酔いつぶれて寝てしまっていた。
柊ママは、タイマーをセットして辰悟の耳元に置いた。
「あの、これは?」
「あー、これ。これは、辰悟さん用のタイマーだよ。酔いつぶれて突っ伏したら、タイマーかけてるの。辰悟さんが誰か連れてきた人の時だけだけどね。」
「なるほど。」
柊ママが長島に手招きをして耳打ちをした。
「奥さんになる人、大事にしてね。」
「もちろんです。」
柊ママは、何かに気づいた。
(長島伸幸、出雲、、、、。そうだよね。)
「伸幸さんは、きょうだい、いますか?」
「会ったことない、きょうだいは、いますよ。」
「どういうこと?」
「なんか、かなり年の差あって、僕が物心ついたときには、家を出て、それから家に帰ってきてないって聞いているので。」
「そういうことか。訳ありかと思った。」
「そんなんじゃないですよ。ただ、僕は覚えてないので、会ってみたいなって思っちゃってるんですよね。」
(のぶ、大きくなったな。)
セットしたタイマーが鳴る。
「辰悟さん、起きて。帰る時間よ。」
柊ママが辰悟の肩を軽く揺すると辰悟は「う~ん。」と言って、起き上がる。
「もう、そんな時間か。ママ、チェックで。」
「はい。これ。いつものね。」
柊ママが金額の書かれた伝票を渡す。
「あれ?新しいボトルが入ってる?」
「さっき、新しいボトル入れてって言ったじゃん。」
「そうだったか。じゃあ、俺と伸幸くんの名前で入れといて。伸幸くん、これは俺からのプレゼントだ。」
「ありがとうございます。」
辰悟は会計を済ませて立ち上がった。
ふらついた辰悟の体を長島がサポートしながら店を出る。
「タクシー呼んだから気をつけてね。」
「ありがとうございます。また来ますね。」
辰悟と長島を見送った柊ママは、しばらく思いにふけていった。
少しして柊ママは、「ヨシッ」と握った拳で軽く胸を叩くと、店に戻っていったのだった。
-続く-
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる