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第8話:3人の関係性
しおりを挟むタクシーが辰悟の家の前に到着する。
「お代は?」
「今回は、柊ママから既に頂いているので大丈夫ですよ。」
「あっ、ありがとうございます…。」
そう言って、長島と辰悟の二人はタクシーを降りると、タクシーの運転手は「ありがとうございました。良い一日を。」と言って再びタクシーを走らせていった。
長島は、辰悟の腕を肩に掛けながら、タクシーがいなくなるのを見送ると、開いている勝手口から家の中に入った。
時刻は夜中の3時。とりあえずリビングのソファに辰悟を座らせた長島は、冷蔵庫にあるペットボトルの水を辰悟に飲ませて、近くにあった辰悟のパジャマに着替させて、ソファに横にならせて、毛布を被せた。脱いだものを洗濯カゴに入れ、そのまま自分も脱いで、シャワーを借り、シャワーを終えると、洗濯機の空きを確認して、辰悟の物と一緒に洗濯機を回した。
自分の家には洗濯機がない、長島は、普段ランドリーに通っては洗濯物が回る映像を見ると不思議とセピアな映像に映し出されてしまって、何だろう、焚き火感覚で見ていて飽きないのだ。
絵里の実家の洗濯機がまた、ドラム式で斜めドラムと来たものだから、ランドリー感が自然と結びついてしまってきている。
3時30分、長島が歯磨きをしながから無意識にランドリーを見ているところに、「おかえり」と声がした。
振り返ると絵里がいた。
「ごめん、絵里ちゃん。ただいま。起こしちゃったね。」
「ううん。私ね、勉強してたらお腹空いちゃって降りてきちゃった。仕事に影響はないからちょっと夜更かし出来ると思ってね。」
「えらいね。でも、遅いから寝なよ。」
「うん。」
絵里は奥のリビングのソファでパジャマに着替えて寝ている父·辰悟の姿を確認した。
「はあ…。お父さん、酔ったんでしょ。それに、至れり尽くせりで、着替させてもらって、洗濯までしてくれて、ありがとうね、伸幸さん。」
「いやいや。絵里ちゃんのお父さんがどれだけ絵里ちゃんのこと愛してるのか酔いながらだけど、僕に伝えてくれていたこと、何より、絵里ちゃんのお父さんとサシで盃を交わせたということが僕は嬉しかったよ。絵里ちゃんのお父さんに新しいボトルを入れてもらえたのは、認めてくれようとしているのかなって思うと身が引き締まるよ。」
「…珍しい。いつも自分の名前でしかボトル入れないのに…。」
絵里は、そうポツリと呟いた。
「そっか。普段は一人で飲んでるんだね、あそこで。」
「そう。お父さん、元々友達多い方だったみたいだけど、自分の大切な人を晒そうとする人が嫌いで、ママと柊ママがお酒で絡まられて、ママが飲もうとしたところをパパが奪い取ってお酒の対戦して勝ったら、絡んだ相手が逆上して、パパに迫ってきて、警察沙汰になって。そしたら、酒癖悪いレッテル貼られて友達減っちゃったから、今は一人で飲むばかりなんだって。」
「絵里ちゃんのお父さんお母さんと柊ママは知り合いなの?」
「うん。3人とも大学時代の友達だよ。ママと柊ママが元々最初に仲良くなって、後からママとパパが同じゼミになって、仲良くなって、柊ママとも一緒になって一つの友達グループになったみたいだよ。」
「へぇ~。」
「あんまりここで話すとパパ起きちゃうから、部屋行こ。」
「そうだね。」
長島と絵里の二人は、ゆっくりと絵里の部屋に移動して、続きは気になるも、明日に備えて一先ず休憩することにした。
朝9時。絵里のセットしてあった目覚まし時計が鳴って先に目を覚ましたのは、絵里だった。
「伸幸さん、おはよう。起きて。」
「…おは…おはよう…。絵里ちゃん…。」
「まだ、眠い?」
「うん…ごめんね…絵里ちゃん。あとちょっと…。」
「じゃあ、私先に準備してくるね。」
「うん…。分かった…。」
再び、絵里の声がした。
「伸幸さん、そろそろ起きて。」
長島は、ようやく体を起こして絵里に「おはよう」と言うと、辺りを確かめた。
「どうしたの?」
「いや、確認だけど、僕あの後何もしてないよね?」
「うん。疲れたんだもん。仕方ないよ。あの後、秒で爆睡だったよ。布団もかけずに。だから、私が、隣に入って布団掛けてあげたの。昨夜は、お父さんの相手をしてくれて本当にありがとう。」
絵里は、そう言うと、長島の頬にキスをした。
「ママが、朝ごはん出来たって。行こう。」
「うん。寝癖だけ直すからちょっと待ってて。」
長島は、持っていた寝癖直しの霧吹きと櫛を使って慣れたように寝癖を手早く直した。
「お待たせ。」
「大丈夫だよ。じゃあ、行こう。」
二人は、一階のリビングに移動した。
「ママ、おはよう。」
「おはようございます。お母さん、昨夜は勝手口を開けておいてくださりありがとうございました。」
「2人とも、おはよう。伸幸さんも、あの人の相手してくれてありがとね。柊ママには会えた?」
「はい。柊ママのこと、知ってるんですね。」
「ええ。柊ママは源氏名。本名は、冬華。長島冬華。知ってる?」
「冬華?…その名前、聞いたことあるような。………。」
長島は、聞き覚えのある名前を思い出すも出し切れずにいた。
「ごめんなさい、思い出せないです。」
「良いの良いの、ゆっくり思い出せば良いから。」
「ありがとうございます。」
「さあ、2人とも。朝ごはん、冷めないうちに食べてね。あの人も、そのうち起きると思うわよ。」
ソファで夢の中にいる辰悟を背にして長島と絵里の二人は遅めの朝食を食べ始めた。
-続く-
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