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第12話:予期せぬ遭遇
しおりを挟む内見の翌週末、3連休を利用して絵里が長島の家にやって来るとのことで、長島は、土曜日の朝10時の迎えに合わせて8時30分に家を出た。
いつものように431号線を使って松江に向かった。
走り始めに降っていた雨も上がり、虹が顔を出す。
「綺麗に虹が出てるな。」
虹の出方に気持ちがスッと軽くなった。東林木バイパスの信号で長い信号待ちで出会った虹だけにきがスッと軽くなった分、穏やかに信号待ちをすることが出来た。その後の431号線の少し混んでいる道も苦ではなかった。
9時45分、予定の時間よりも前に絵里の家の付近に到着した長島は、最寄りのコンビニでコーヒーを買い、喫煙スペースで一服した。
「ヨシッ、行くか。」
一服終えた長島は、絵里の家へと車を走らす。
絵里の家に到着し、呼出チャイムを鳴らすと、絵里と母親の幸絵が出てきた。
「今日、おとうさんは、いらっしゃらないんですね。」
そう長島が呟くと、幸絵が答えた。
「送り出ししたくないからなのか、仕事入れちゃったみたいで、仕事行ってるの、ごめんね。」
絵里が続ける。
「送り出すのは、恥ずかしいんだって。」
「そうなんだね。分かった。」
「それより、早く行こ。ポップンの練習もあるんだし。」
「絵里、長島さんとポップンを練習始めてとても嬉しそうですよ。一人での練習も欠かさずやってるんですよ。」
「そりゃ、伸幸さんと一緒に練習してるっていうのが嬉しいからだよ。大会に出れるように頑張るよ。」
「うん。頑張ってね。長島さん、3日間よろしくお願いします。」
「こちらこそです。じゃあ、絵里ちゃん行こうか。」
「うん。」
絵里は、嬉しそうに長島の車に乗る。
長島は、幸絵に一礼して車の周りを確認してから車に乗って走り出した。幸絵は、長島の車が見えなくなるまで見送った。
「このまま、出雲のゲーセンまで行く?」
「私、その前に嫁島のゲーセンで腕慣らししておきたい。」
「分かった。じゃあ、嫁島のゲーセン寄るね。」
「うん。ありがとう。」
二人は嫁島のゲーセンに立ち寄った。
「ポップン、空いてる?」
「あ、空いてる。良かった。」
「本当だ。じゃあ、僕も待ち席に座っとくね。」
「うん。」
絵里は、「ヨシッ」とひと息入れるとコインを入れてプレイを始めた。
苦手な部分が少しずつ解消されているのを見ていて感じる。長島は「頑張ってるな」と感心してプレイを見ていた。
「どうだった?」
「打ち方を工夫して点数が安定してきているね。」
「やった!」
絵里は、長島に褒められて嬉しそうだ。
「じゃあ次は、僕の番だね。」
長島も「ヨシッ」とひと息入れてコインを入れてプレイを始めた。
「やっぱり伸幸さん、点数が伸びてBADが少なくて良いよね。」
「ありがとう。絵里ちゃんに褒められるの嬉しいな。」
長島のプレイ中に待ち席には、更に2~3人増えていたので、直ぐにポップンのエリアから二人は離れて休憩エリアに移動した。
「ねえ、ねぇ。伸幸さん、プレイログを確認しよ。」
「そうだね。」
二人はプレイログを開き、さっきの自分たちのプレイを振り返った。
「私ね。さっき、これが出来たんだよ。」
そう嬉しそうに話す絵里の姿が嬉しくてニヤけてしまう。
「そうだね。あとは、ここをもうちょっと工夫すると点数伸びるよ。そしたら、レベル上がるんじゃないかな。」
「だよね、だよね!私頑張る!伸幸さん、点数いつも安定してるけど、不規則と階段が続くと、やっぱり点数落ちちゃうんだね。」
「そうなんだよ。僕の一番苦手な組み合わせでさ、何度もやってるんだけど、突破出来る糸口見つからなくてね。」
「苦手な部分は難しいよね。それでも、BADが20未満で収まってるのは、やっぱり凄いよ。」
「ありがとう。」
長島がふとポップンの待ち席に目をやると、更に待ちが増えていたのに気付いた。
「ポップン人が増えてきたから、移動しようか。」
「うん。」
「その前に喫煙室寄ってもいい?」
「良いよ。私も一緒していい?」
「絵里ちゃんも吸うんだね。」
「うん。伸幸さんと一緒の時なら良いかなって。」
「そうなんだ。良いよ。ちょうど、誰もいないから一緒に入ろう。」
「うん。」
二人で喫煙室に入って長島は紙巻で、絵里は電子で一服してから車に乗った。
「出雲に戻ろうか。」
「うん。さくらでお昼食べてからが良いな。」
「良いよ。」
長島は車を発進させる。
「絵里ちゃんも、さくら行ったことあるの?」
「ないよ。でも、伸幸さんがいつも行ってる所に私も一緒に行きたいなって思ったんだ。」
「そうなんだ。じゃあ、一緒に行こうか。」
「うん。楽しみ。」
国道431号線で出雲に向かった。ドーム前の信号を右折したところから、出雲大社に向かう車の列に遭遇した。
「やっぱり少し混んでるね。」
「だね。やっぱりみんな、出雲大社に行くのかな。」
「だと思うよ。この道は土日混みやすいからね。」
「そうなんだね。でも、一人じゃないから苦にならないね。」
「だね。」
話をしているとさくらに到着した。
長島が扉を開けて店内に入る。
「いらっしゃいませ。」
絵里は「あっ、、、。」と口籠る。
恵子がカウンター席でコーヒーを飲んでいた。
恵子は絵里に気づいてない様子。
「どうしたの?」
絵里は店内を見渡す。
「あそこのソファ席に座ろう、ね。」
「良いよ。」
「ソファ席、良いですか。」
「良いですよ。奥のソファ席空いてますので。」
「ありがとうございます。」
二人はソファ席に移動する。
座ると絵里は長島に小声で話す。
「カウンターの奥に座ってるのが、伸幸さんに注意してほしいって言っていた恵子だよ。」
「そうだったんだね。」
「伸幸さん、恵子から何か言い寄られたりした?」
「どうだろう?」
長島は思い出すけど、思い浮かばなかった。
「思い浮かばないかも」
長島がそういうと絵里は「フフッ」と微笑んだ。
「伸幸さん、そういうの疎いんだったね。」
「多分。話かけられたかも知れないけど、何とも思わなかったのかも。」
「でも、伸幸さん話し方が優しいから心配で。」
「そうかな?でも、そうだとしても、仕事の一環で回ってるだけだから業務的なことしか話してないよ。」
「でも、恵子は全部を自分の良いように捉えて近寄ってくるからな。」
「だとしても、好意が一方的だったら一方の勘違いだから大丈夫じゃないかな。現に僕は何も感じてないし、何とも思ってないしね。」
「そっか。ちょっと安心した。言い寄られて気が向いたりしたらどうしようかと思ってたから。」
絵里はホッと胸を撫で下ろした。
暫くすると恵子がコーヒーを飲み終わりレジで会計をしていた。すると恵子がソファ席にいる長島に気づき近づいてくる。
「なっがっしまさ~ん♪長島さんもここに来てたんですね。、、、、って、絵里!?」
恵子は、絵里の姿に気づいてびっくりした様子だ。
「どうも。」
恵子は長島と絵里が一緒にいることに不満を口にした。
「長島さん。これ、どういうことですか!?」
「どういうことって?」
「私と付き合ってくれるんじゃなかったの?」
「何を言ってるんですか?」
長島は、「この人、何言ってるんだ?」と頭ポカーンな感じで受け答えする。
「だって、この間。お店に来られたとき、今後もよろしくお願いしますって言ってたじゃないですか?」
長島は、ますます「この人、何言ってるんだ?」状態になっていた。
「それは、先日お伺いしたときが、契約更新日だったので、今後ともよろしくお願いしますと言ったんですよ。あなたのこと知らないし、知ったところでプライベートは関係ないですから。」
「えっ?それって、、、、私じゃなくて、お店とのことだったの?」
「そうですよ。」
「じゃあ、私は?」
「だって、あなたは、あそこの書店員さんの一人に過ぎないじゃないですか。」
「だって、だって。私には、優しく声掛けてくれたじゃないですか。」
絵里は黙って聞いていたが、我慢ならなかった。
「長島さんは、普段から誰にも優しい声掛けと口調で話してるから、それが通常運転であって、そこに下心とか本心はないの。仕事の一環でお店来てくれてるんだから、全部建前なの。」
「え、、、、。」
「それに、長島さんの彼女は私。結婚前提なんだから、余計な邪魔をしないでくれる?」
「そんなぁ~。」
恵子は膝から崩れ落ちる。
そこに、店員がやって来て
「あの、会計を済まされたのならお帰り頂けますか。他のお客さんもいらっしゃるので。」
「、、、、はい。、、、、。」
意気消沈した恵子は、肩を落として店を出ていった。
絵里は、対応してくれた店員さんにお礼を言う。
「すみません。お騒がせしました。ありがとうございます。助かりました。」
「いえ。こちらこそ、対応が遅くなりすみませんでした。」
「とんでもないです。このまま居座られたらと思うと面倒だったので、助かりました。」
「カウンター席が空きましたので、良かったら移動されませんか。」
「良いですか。ありがとうございます。」
「今片付けてくるのでお待ち下さい。」
「はい。」
店員は恵子の席を片付けると、再びソファ席にやって来た。
「それでは、カウンター席へどうぞ。」
「ありがとうございます。」
二人はカウンター席に移動する。
店員が、新しくコーヒーを淹れ直して二人の席に置いた。
「折角、注文されたのに、ぬるくなっちゃったので、コーヒー淹れ直しましたので、どうぞ。これはサービスになります。」
二人は「ありがとうございます。」と揃えて言った。
改めてサクラブレンドのコーヒーを口に運ぶ。
適度なほろ苦さと芳醇なコーヒー豆独特の香りに二人は癒された。
「は~、美味しい。」
「うん。いつもだけど、美味しいわ。」
「ありがとうございます。」
店員は、改めて絵里に尋ねた。
「先ほどの方は、彼女さんのお知り合いの方、なんですか。」
「えぇ。職場の同僚になります。」
「先ほど、書店員と伺いましたが。」
「医大前の医学書専門の本屋になります。」
「そうなんですね。それにしても、先ほどの方、お二人を掻き乱して行かれたみたいですが、大丈夫ですか?」
「正直、私は、さっきの事があるまで不安でしたけど、スッキリしたので大丈夫です。ありがとうございます。」
「それなら良かったです。」
店員は、長島に視線を変えて話始める。
「長島さんの彼女さん、初めてお会いしましたが、可愛らしくてお綺麗な方ですね。」
「ありがとう。」
長島は、素直に礼を言った。
絵里は、嬉しそうに長島の肩を叩いた。
「可愛らしくてお綺麗だって。初めて言われたから、恥ずかしいよ。」
「事実だと思うから良いんじゃない?僕も同じように思ってるし。」
「そうなの!?」
絵里の頬は益々、紅潮した。
店員も続けて話す。
「長島さん、時々話してくれるんですよ。彼女さんのこと。可愛くて綺麗は良いんだけど、自分とは部不相応じゃないのかなって。でも、実際に会ってお二人ともお似合いですよ。優しそうな長島さんに、その優しさに心許して安心してる感じで、なんか、見ていて、ほっこりします。」
「部不相応!?伸幸さん、そんなこと思ってたの?気にしなくても大丈夫なのに。でも、可愛くて綺麗って思ってくれて、なんか嬉しいな。」
長島は照れながらコーヒーを飲んだ。
その姿に絵里は微笑ましく思いながら残りのコーヒーを飲んだ。
長島は、追加の注文をする。
「ごめんなさい。サンドイッチを2つお願いします。照り焼きサンドとオムレツサンドで。」
「分かりました。では、今あるコーヒーとセットにしますね。」
「お願いします。」
店員は調理のために厨房に入った。サンドイッチを待っている間も二人は恥ずかしさが止まらず、お互いに持っているスマホを触って気を紛らわしていた。
「サンドイッチ、お待たせしました。」
「ありがとうございます。」
恥ずかしさが収まらない長島は無心でサンドイッチを食べ進める。待っている間に冷静になれた絵里は無心でサンドイッチを食べる長島の様子を微笑ましく見ていた。
二人が食べ終わると長島は、恥ずかしくて居た堪れなくなり出ようとするけど、絵里が引き止める。
「未だ食べたばかりだから、もう少しいようよ。コーヒーも未だ少し残ってるよ。」
「そう、だね。」
長島は、座り直して残りのコーヒーを飲んだ。
「よしっ、じゃあ行こうか。」
「うん。」
「ごちそうさまでした。」
「ありがとうございます。」
長島がレジで会計を済ませて店を出た。
恵子は週明けになると懲りたのか、絵里をからかうことがなくなった。
-続く-
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