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第14話:新居契約
しおりを挟む翌日、土曜日。7時30分、長島はいつものように起きて朝食を準備する。トーストにインスタントのコーンポタージュ、ヨーグルト。長島の休日のいつもの朝食だ。この朝食を簡単に流し込んで、ササッと出かける準備をして車へと向かった。
車に到着して周囲を確認してから乗り込む、「今日もよろしく」と車に声をかけてエンジンを始動させる。
「ヨシッ、行くか。」
7時45分、いつもより早い時間に松江に向けて走り出した。週末ともあって、道によっては混んでいる所もあるが、思ったよりスムーズに車を進めることが出来た。
9時、予定よりだいぶ早く絵里の家付近に到着した。少し時間を潰そうと、近くのコーヒーチェーンのお店に入った。注文して商品を受け取り、喫煙スペースに入る。入るとそこには小宮山の姿があった。
小宮山が手を挙げ長島を呼ぶ。
「長島ー。こっち空いてるから来いよ。」
「小宮山?こんなとこで珍しいね。」
長島は小宮山に招かれるように同席した。
「珍しいって、俺も松江市民だぞ。一応。」
「そうだっけ?でも、出雲でアパートだよね?」
「まあね。会社から近いからってだけだよ。」
「そういうことか。今日は何でだ?」
「環境フォーラムの基調講演が10時からあるから始まる前の腹ごしらえってとこかな。お前は?」
「彼女を迎えに来たんだけどちょっと早く着いたからコーヒーでも飲もうかと。」
小宮山の口が少し緩んだ。
「そっか。アパート、決まったんだって。社長から聞いたよ。」
「そうそう。昨日はごめんよ。急に早退して。」
「大丈夫だよ。役所で揃えるやつは時間作んないと難しいもんな。」
「そうなんだよ。昨日も直ぐには貰えず順番待ちが結構あってさ、閉庁近くまで時間が掛かってしまって疲れちゃったよ。」
「あるよな。待つ時は待つもんな、役所事って。でも、契約の書類は揃ったんでしょ?」
「うん、無事に揃ったよ。ありがとう。」
「それなら良かった。」
小宮山は長島の話を聞いて胸を撫で下ろした。
長島は時計を見て席を立った。
「そろそろ、迎えに行く時間だから先に行くわ。」
「おう。気をつけてな。」
9時30分、絵里の家に着いた。
玄関のチャイムを押すと、絵里、幸絵。そして辰悟の姿があった。
「おとうさん、お久しぶりです。」
「長島くん、久しぶりだね。絵里から聞いたよ。いよいよ、新居決定だってね。」
「はい。今日が契約日になります。」
「そうか。じゃあ、今日からは新生活に向けての準備となるんだな。」
「はい。」
「入居日が決まったら教えてくれよ。」
「もちろんです。このあとの契約で入居日が決まり次第連絡しますね。」
「よろしく頼むよ。」
話が終わると絵里が割って出た。
「じゃあ、行ってきます。伸幸さん、行こうか。」
「そうだね。では、行ってきます。」
幸絵がニッコリと笑って言った。
「気をつけてね。行ってらっしゃい。」
辰悟は、見送ることなく家に入っていった。
絵里の家を出てしばらくして絵里が呟いた。
「結局、見送りはママだけだったね。」
「そうだね。」
「恥ずかしがらずに見送ってくれれば良いのに。」
「僕、認知されてくれているのかな?」
「それは、大丈夫だよ。お父さんも伸幸さんのこと、気に入ってくれてるよ。話もしてくれてるでしょ。」
「たしかに。」
「だから、気にしなくても大丈夫だよ。」
「うん。分かった。」
またしばらく車を走らせて来間先輩のいる店の駐車場に到着した。
「ヨシッ。着いたよ。」
絵里は「お疲れ様。」と言って、長島の頬にキスをした。長島は唇の触れた頬に手を当てて恥ずかしそうに硬直した。
「そんなに固まらないでよ。」
「だって、急だったからびっくりして。」
「運転してくれたお礼だよ。」
「、、、、ありがとう。じゃあ、行こうか。」
「うん。」
車を降りた二人は店に入っていった。
「いらっしゃいませ。」
店に入ると来間先輩が二人を迎えてくれた。
「予定より早いのに連絡してなくてすみません。」
「いえいえ。こちらこそお忙しい中、予定していただいてありがとうございます。こちらへどうぞ。」
来間先輩の案内で通されたブース席に移動した。
「よろしくお願いします。」
「お願いします。」
「今日は賃貸契約ということで、宅建士の資格を持っている者と変わりますので、お待ち下さい。」
「分かりました。」
来間先輩は席を離れて別の女性が出てきた。
「長島伸幸様と牧野絵里様でいらっしゃいますね。」
「はい、そうです。」
「私、今回の賃貸契約の説明をさせていただきます、宅建士·防災士の植田静香です。よろしくお願いします。」
「お願いします。」
植田さんという方が、賃貸契約に関する説明を資料に沿って分かりやすく説明してくれていた。
「一つ一つ、必要書類を確認していきながらサインをいただきますが、防災面についての説明もさせて頂きますのでご了承下さい。」
「もちろんです。よろしくお願いします。」
ふと絵里が疑問を投げかけた。
「部屋の賃貸契約で防災の説明もいるんだね。」
「うん。自然災害が多くなって、賃貸契約の見直しがされて建物の防災に関する説明が義務化されたんだよ。義務化されたから説明する人も防災士の資格持ってると契約する人がより安心するらしいよ。」
「そうなんだ。私、賃貸契約なんて初めてだから知らなかった。」
長島の受け答えに植田さんが言った。
「彼氏さん、お詳しいですね。」
「一応、私も防災士の資格を持ってますので。」
「そうなんですね、それは心強いですね。」
「私は、興味関心で取ったものなので、直接仕事に繋がることはないですが。」
「それでも、防災士の仲間が増えることは心強いことですよ。すみません、話が脱線しましたが、説明を続けますね。」
「お願いします。」
改めて植田さんからの説明を受けて、長島と絵里は納得して書類にサインをして植田さんに書類を提出した。植田さんは、書類のチェックをして漏れが無いことを確認した。
「これで、以上になります。よろしいですか。」
「大丈夫です。」
「私の出番は以上になりますので、来間と変わります。お待ち下さい。」
「ありがとうございます。」
植田さんが席を離れ、入れ替わりで来間先輩が戻ってきた。
「お疲れ様でした。」
「ありがとうございました。あのー、来間先輩は、宅建士の資格は取らないのですか。」
「今、勉強中。今年の10月が試験なんだ。」
「頑張ってください。」
「ありがとう。」
「今日はありがとうございました。」
「こちらこそ、お時間割いて頂きありがとうございました。」
話しながら店の入口まで移動する。
「それでは、新生活楽しんで下さい。」
「はい。ありがとうございます。失礼します。」
長島と絵里の二人は店を出た。
-続く-
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