月に泣く

宝楓カチカ🌹

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前篇

41.交わる(1)*

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「ぁ……ッ、ぅ……ん」
 
 唇全体でにゅるんと覆われ、乳輪の周囲をじっくりと嬲られる。
 目を疑う信じられない光景に思考が急停止した。
 なんだこれは。一体、何が起こってるんだ? いや……起こっていることは見ればわかる。簡単なことだ。アレクシスが、リョウヤの胸に、むしやぶりついているのだ。
 それはわかるのだが、何故こんなことをされているのかがわからない。
 そんなところを舐めても、何にもならないはずなのに。
 
「あ、れ……く? ひ、ぁ」

 嘘だろうと思うのに、敏感な胸を舐めつくす舌のぬるぬるとした感触は、やはり本物で。
 伏せられたまつ毛の先のカーブまで、見えてしまう距離。糸のように細い一本一本に艶があり、こんなにも繊細な形をしているとは知らなかった。
 そして、てろりと唾液に濡れ光るひとつぶの尖りも。

「な、に、なに、して……っ、ぁ」

 じゅっと吸われて、咄嗟に両腕で顔を隠したのだが、これは明らかに失敗だった。
 視界が暗くなったことでより一層、ねっとりと与えられる刺激に敏感になってしまったのだ。

「んっ、は……ぁ……はぁん」

 ぬらついた舌が、乳首の真ん中のくぼみを掠めて、腰がゆるやかに上下した。
 ふいに愛撫が止まる。
 アレクシスの震える吐息が、濡れて冷えた胸にくすぐったい。ごくりと生唾を飲み下す音まで聞こえてくる。
 自分のではない、アレクシスだ。
 ひしひしと、腕の向こう側から注がれているであろう視線。意図が読めない。

「……なんで、舐めん、の……ぉ?」

 女性のように膨らんでもいないぺったんこなリョウヤの胸なんて、舐めても何の面白みもないはずだ。蜜液が溢れるのは膣癖だけで、いくら吸い付いたところで胸からは何も出やしない。
 性的興奮だって、得られないはずなのに。
 どうして中に埋められた異物が、ごり、と反り返るほど大きくなっているのか。

「そ、そこ、触る必要ない、じゃ──……ひぅ」

 続く言葉を遮るように、先ほどよりももっと激しく吸い付かれた。

「ん……んぅ……」

 唾液をたっぷりと染み込まされるように。くちゅくちゅと舌で転がされ、時折やんわりと甘噛みされては歯で引っ張られる。
 痛みはなく、だいぶ緩い刺激だ。
 つまりそれは、アレクシスがリョウヤに苦痛を与えようとしているわけではない、というわけで。

「ん、ぁ、は……ぅ、っ、ん、」

 繰り返されるうちに、激痛に苛まれていたはずの腰の奥が、ずくんと甘怠くなってきた。
 臀部のくぼみから首裏にかけてがむずむずするし、深く押し入れられている肉欲からさらなる快感を得るために、無意識のうちに腰が揺れてしまう。
 元よりリョウヤのような人種は、与えられる快感を貪欲に欲しがる体だ。唇全体で捕食されるようにねっとりと、右と左を交互に弄られればもうたまらなかった。
 浅ましさが嫌で懸命に下唇を噛みしめても、あ、ぁ、あぁ……とねだるような声が溢れてしまう。
 我慢、できない。気持ちが、いい。

「……噛むな、傷が付く」

 ようやくアレクシスが喋ったと思ったら、顔を覆っていた腕をどかされ、噛み締めていた唇に親指をねじ込まれてこじ開けられた。

「ぁ……ふは、ぁ」

 革独特の匂いが鼻孔の奥に充満する。
 奥へは突っ込まれなかった。浅く、舌の側面をざらついた指でくちゅりと撫でられ、引き抜かれる。
 尾を引くように、ぁ……と甘い声が溢れてしまった。アレクシスの指先に付着した唾液が伸び、ふつりと切れ、玉となって落ち、顎を濡らす。
 行き場を無くしていた腕で頭上のシーツを握りしめ、ほう、と息をつく。

 ごくりと上下するアレクシスの喉仏が、ここからだとよく見える。
 やけに熱っぽい視線と、目があった。


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