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前篇
交わる(2)*
しおりを挟む「な、んで、……こんなこと、するの」
「……好きにしろと言ったのはおまえだろう」
「それ、は、言ったけど……でも、なんで」
「いいから……おまえは黙って、喘いでろ」
「いや、黙りながらは喘げねーだろ」
どっちだよ、と至極全うな突っ込みを入れたリョウヤに、アレクシスはぐっと眉間にしわを寄せて。
「うるさいな」
と、一言。
今の「うるさい」の言い方もいつもと違う。冷たく跳ね除けられたわけでもない。
ほんの少し尖った唇が、どことなく拗ねているような、いじけているような。
しかも、だ。つい先ほどまでこの世の全てを排除したがっていた鋭いアレクシスの眼差しは、だいぶ緩やかになっていた。
凪いでいる、というか、なんというか。
突然の変化に、ただただ戸惑う。
「くっ、ぁ……ぁ」
何の前触れもなく、突き入れられていた昂ぶりをずるりと引き抜かれた。
ゆっくりとした動きだったので痛みは少なかったが、排泄させられているような感覚に身震いする。
じゅぷん、と一番太い先っぽが引き抜かれ、ぽっかり空いた大きな穴に空気が入り込んでスースーした。
「なん、で、抜くの……?」
返答は、ない。流石にキツすぎて腰が振りにくかったのだろうか、ならば次に突き入れられるのは指だ。挿入しやすいように適当に解される。あれも、ズキズキしてかなり痛い。アレクシスとの性交渉は、いつも痛みとの戦いだった。再び目をつぶり、与えられるであろう痛苦を待つ。
しかし、待てども待てども指は入ってこない。
「……?」
震える目を、開ける。アレクシスは、リョウヤの下肢を見つめたまま静止していた。その目線の先は、押し広げられたリョウヤの剥き出しの下半身。
「あ、の」
目が、丸くなる。
「ね、ぇ……な、んで、みん、の……?」
こんな風に、汚らしいと嘲笑するでも、穴の具合を確かめるでも、入れやすいように体勢を変えるでもなく、ただただ、じいっ……と視線を注がれるなんて今までなかった。
今のアレクシスの視線は妙に気恥ずかしい。
リョウヤの方が目のやり場に困ってしまう。
10秒ほど置いて、「ちが」とアレクシスが呟いた。その目は、やはりリョウヤの股に注がれたままで。
「ちが、って……?」
「……血が、出ているな」
ああ、血のことか。血が汚いと思っていたのか。
「なぜだ」
「……」
何言ってんだこいつと、ちょっと呆れた。
前戯も何もなく強引に突っ込まれれば切れるのは当たり前だろうが。むしろ血が出ない日があったか? と強く言ってやりたい。
「そ、りゃあ……切れたし」
アレクシスの瞳がゆらりと、揺らいだ。
そこに含まれている感情はなんだろう。わからない。わからないが、やけに、見ていたくない。
じわじわじわじわと、膨れ上がってくる痒さ。不愉快とまでは言い難いが、居心地はよくない。
もういっその事、一思いに終わらせて欲しかった。
腰をくねらせて訴える。
「ねえ、や、やだよ、見ないで……やんなら、さ、さっさと突っ込んでよ」
痛いのなんて慣れてるから、と続ければ、アレクシスはさらに唇を一文字に引き結んで。
「……うるさい」
また、あの「うるさい」だ。しかも、やけにバツの悪そうな顔。むず痒さがピークに達して、リョウヤは悲鳴のような声を上げた。
「い、いから! は、早く入れ──ひゃ、ぁ!」
それは、胸を舐められた時とは比べ物にならないほどの衝撃だった。まさに驚愕、唖然だ。
天と地がひっくり返るかと思った。
「……ッ……ぅ」
腿をぐっと押され、萎れたリョウヤの男芯の下にある双丘に、顔を近づけられた。男の陰嚢よりも膨らみもたるみもなく、しかし女のそこよりもふっくりと丸みを帯びている、割れた盛り上がりへと。
「やっ……な、なにっ、なんだよ!」
「動くな、歯があたる」
「歯、って──ァ……、っ」
うそだろと騒ぐ前に、やんわりと、しかし強く両足を押さえつけられ。
そのまま深く、頭を埋められてしまった。
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