月に泣く

宝楓カチカ🌹

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前篇

  交わる(4)*

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 傾けられた濡れた唇が、僅かに開く。
 ふるりと、湿った吐息が唇にふりかかった。らしくないほどの熱さに驚いて、ぐっと首が竦む。無意識だった。

「──ひ」

 触れるか触れまいかのところで、アレクシスの動きが止まった。静かに離れていく唇。
 結局、重ねられることはなかった。気まぐれ、だったのだろうか。
 ちょうど窓から差し込む午後の光が逆光となって、アレクシスの表情は見えない。なんとかこの男の考えていることをわかりたいとは思ったけれども、考える前にまたもや、目を疑う光景に頭の中が真っ白になった。
 アレクシスの、手が。あろうことか、ふるふると揺れるリョウヤの半起ちの陰茎を、わしりと握ってきたのだ。

「ぇ──うひゃぁあっ」
「……色気のない声を出すな」
「だ、だって……!」

 そんなことを言われても、こんな状況でうひゃあ以外の悲鳴なんか出てこない。
 アレクシスの手はなんの躊躇もなかった。輪にした指でやんわりと握られ、ゆるゆると根本から上まで押し上げられるように扱かれる。甘やかな刺激に先割れ目からはぷくりと雫が盛り上がり、くちゅくちゅと弄られるたびにたらたらと零れていった。

「……ッ、」

 信じられないと、目を剥くのはこれで何度目か。
 抵抗してはいけないけれども、自然と腰が浮いて臀部がずり上がってしまう。

「やっ、やだ、ぁ……っん、ぅう」
「逃げるな。そのまま脚を開いてろ」
「ね、え、ねぇっ! な、なんで、なんで触……、ひ、んっ」

 裏筋のぷくりと盛り上がったいいところを指がぬぢゅりと掠めて、たまらずがばっと手で口を押さえる。ぶるぶると、噛み締めた唇すらも震えた。

「手を外せ。唇は噛むな。声も抑えるな」

 なんだその、わけのわからない命令は。
 痛くて苦しくて悲鳴を上げれば、汚い声を出すな耳障りだと、侮蔑の一瞥と共に口を閉じるよう命じられるのが、この男との情事においての常識だったはずなのに。
 顔を見ると萎える、とかいう最低極まりない理由で、枕を顔に押し付けられたことだってあった。
 ましてやリョウヤの男の象徴なんて、汚らしいとばかりにいつも避けていたじゃないか。それを素手で触り、なおかつ扱いてくるだなんて。
 ただただ硬直していると、「いい加減にしろ」と、再度同じことを命令される。
 そろそろと、口から手を外した。

「で……でも、だって、こんな、の、なんで……」

 もう、「なんで」しか言ってない。言えない。
 だというのにアレクシスは、耳朶に唇を寄せてきて。

「いいから、好きによがれ」

 ──空いた口が塞がらないとは、まさにこのことだった。
 本当に、目の前にいるのはあのアレクシスなのだろうか。大きな手によってじゅくじゅくと膨らみ、育っていくそこから目が離せない。眼前の光景への驚きと困惑と、与えられる直接的な快感とで、もうわけがわからなかった。
 大混乱に陥り目まぐるしく変わるリョウヤの表情を、アレクシスはじっと見つめながら、手を動かすだけだった。
 完全に芯を持ち天井を向いたところで、ようやく解放してくれた。やっと苦行から解放されたと安堵していたのも束の間、アレクシスが芯を持った根本をくいと持ち上げ、突然身を屈めた。
 その、半開きの唇が咥えようとしているものは……まさか。

「……ッ、ま、待って、うそ、う……ひ、あぁ……!」

 濡れた先を吸われ、ぬるんと一気に包みこまれた。

「は……は、ァ、や、め……汚っ、ぁ あぁ、あ、ひ……んん……、ぁ」

 たまらず、もごもごと動く銀色の頭を掴んでしまった。すると一瞬だけ、アレクシスが顔を上げて。

「抵抗するな、根本から引き千切るぞ」
「ひ……」

 そんなとんでもない脅しをかけてから、さらに深く咥え込み、絞り出すように吸いつかれた。

「ぁ……ん、ぁあ」

 引きはがしてしまいたかったけれども、引き千切られるのは嫌だ。それに、そもそも髪を握る指には全く力が入らず、アレクシスの汗で湿った頭皮を無意味にひっかくだけだった。
 アレクシスは蜂蜜を垂らした棒でも頬張っているみたいに、リョウヤのそれを一心不乱に舐めている。根本を奥まで咥えられ、筋に舌の裏を這わせられ、上顎でふくりと膨らんだ先っぽを刺激され……ぺちゃぺちゃと、粘着質な音だけが響く。
 直接的な刺激の他に、視覚や聴覚までもが犯されてしまいそうだ。

「あ……ぁ、あぅ……は、ぁ」

 少しの逃避も許さないとばかりにねちっこく絡みついてくるそれに、吐く息すらも震える。ぬめった舌からはじっくりと炙るような熱が伝わってきて、腰の奥の神経が擽られ、ぐずぐずと溶かされていくような感覚に陥った。
 ふらりと頭が、視界が揺れる。体中が熱い。
 とめどなく零れてしまう透明な体液に、じゅぷ、じゅぷ、といやらしい音も激しさを増していく。
 もう腰から下はビクビクと震えっぱなしだ。ただ成すがまま、赤い舌に翻弄され続ける。

「ぁ……あ、あれ、くぅ……ま、……って、やっ……なん、で、やめて、やめっ……も、」

 限界が近い。駄目だ、このままでは吐き出してしまう。

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