竜騎士のヴァッシュとラミアの少女 ~幻獣ハンター記録譚~

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ハンティング2「炎剣の鉄槌・飛竜の爆炎」

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 白煙が吹き荒ぶ中で、ヴァッシュがフェイタル・ウィングの切っ先をリゼロ、ジレスティア、ヘラに向ける。

 ヴァッシュは、一触即発の状態にあった。

「一人の彼女に賞金首二人して強力な魔力で蹂躙しやがって……俺には、契約した竜の力が宿っている……てめーらには竜の鉄槌が必要だ……それに、ヘラさんも覚悟の用意しときな……あんたの異常な嫉妬にも我慢ならねぇ!!」

  ヴァッシュが眉間を更に動かした瞬間、突風のごとき魔力の気迫が放たれた。

 彼が放つ灼熱のごときオーラが、風圧のように三人を襲う。

「リゼロ、ジレスティア……てめーらには度重なる度の過ぎた蹂躙の罪で賞金もカカっている。今、仕留めさせてもらうぜ……!!」

「ひっ……くっ……あなた達!!ラミアの小娘と一緒にあのファングも葬ってよ!!」

 ヘラはヒステリックな声で罵倒するように叫んだ。
 
 リゼロは、やさぐれたかのような仕草のように前進し、不気味に笑い始めた。

「ふっふふふふ、はははははははは!!言われなくても殺るよぉ……竜の鉄槌だって?コンダクターか!!ふっふふふっ、何かさ……ムカついたよ、あんた!!」

 フェイタル・ウィングを振り構えたヴァッシュの言葉にリゼロは怒りを覚え、手をかざす。

 そして怒り任せに魔力の電撃弾・ライボルタを連射した。

 夜の街に響き渡る爆発音。

 リゼロが放つライボルタが、幾つもピッチングマシーンのごとくヴァッシュへと撃ち込まれていく。

 重なり続ける爆発。

 更にジレスティアもライボルタで、過剰に怒るリゼロに加勢する。

「僕達をなめるなよ……先手必勝で殺してあげるよ!!」

「魔力を上げるぞ!!奴は只者ではない!!」

「それもわかってるって!!!同時に撃ち込むっっ!!!」

 かざす二人の手にライボルタの魔力が収束されていく。

 そして、リゼロとジレスティアは、魔力を上げた重いライボルタの一撃を息を合わせ、二重で解き放つ。

 チャージされた強力な二つの電撃弾は、ヴァッシュへと真っ直ぐに向かい、直撃。

 更に激しい爆発を巻き起こした。

 爆風の突風が周囲に拡がり、激しい土煙が舞う。

「っくくく……あははははははは!!ラミア諸とも死んだかなー?!」

「さぁ……どうだ……何!?」

 爆風が徐々に収まると、そこには全くの無傷のヴァッシュが、フェイタル・ウィングの刀身をかざして立っていた。

 眼光も全く変わらず、闘志の視線をリゼロとジレスティアに突き刺す。

 ヴァッシュは、怒りに満ちながらもしっかりと横たわるラミアの少女を守り通していた。

「な……!?直撃させたはずが!?」

「はぁ!?ざけんなよ……!??何なんだこいつ!?何なんだよっっ!?」

 これまでに数知れない程の蹂躙を重ねてきたリゼロにとって、自らの力や予測を上回る相手は始めての遭遇だった。

 故に焦りや戸惑いが如実に浮かび始めるリゼロは、ライボルタの一発、一発を八つ当たりのように放つ。

 これに対し、ヴァッシュは一振り、一振りの斬撃で、ライボルタの電撃弾を叩き斬ってみせる。

 通常のソードであれば、刀身を破壊できる威力だが、炎の魔力を宿したフェイタル・ウィングはそうはいかなかった。

 ヴァッシュは睨みを効かせ、向かい来る電撃弾をフェイタル・ウィングで叩き斬りながら歩を進み始める。

 真っ向から来る魔力の弾を剣で叩き斬って進む……普通では考えられない曲芸だ。

 ジレスティアも確かな魔力で浴びせたはずのこの結果に驚愕する。

「こやつ……本当にドラゴンの力を宿した奴のようだな!!!くっ……!!!」

 ヴァッシュは電撃弾を斬っては刀身で相殺し、斬っては相殺してリゼロにゆっくりと近づいていく。

「こいつ……!!こいつ……!!こいつぅぅっ!!」

「どーした?こんなもんなのかよ?ゲスヤロー共……!?」

「僕達を……ゲスヤローだと!?っ……ぐっ……きぃぃっっ!!ききゃあああああっっ!!」

 ヒステリックを起こしたかのようにリゼロは奇声を上げながらライボルタを乱射しはじめた。

 無尽蔵に放たれる電撃撃弾が、周囲の家屋や木々に直撃し、爆発や炎上が巻き起る。

「ヒス野郎が……!!」

「あああああっっ!!」 

 リゼロは、発狂しながらラミアに浴びせたエレキサーの殺人レベルの魔導波を放った。

 無数の稲妻がヴァッシュに直撃し、持続する雷撃が襲った。

「今しかないな!!波ぁあああああっっ!!」

 ジレスティアもステッキをかざして、エレキサーを最大魔力でヴァッシュに浴びせる。

 並みの人間であれば感電死は免れない。

 周囲には凄まじき雷光と音が響き渡り、夜の闇を照らす。

 ヘラは離れた場所からこの光景を見て、狂喜の甲高い笑いをした。

 まさに高見の見物そのものだった。

「あは!!あははは!!そのままラミアの小娘も殺しちゃってよ!!あははは!!」

 ヴァッシュの背後で横たわるラミアは、エレキサーを食らうヴァッシュの背中を見ながら、もうろうとする意識の中で小さく呟いた。

「やめて……もう……やめて……あたしなんかの為に……もう……誰も……死んで欲しくない……」

 自分が不倫とは知らずにゼウサーに恋に落ちた事から、妻・ヘラの異常な嫉妬を受けた。

 その異常な嫉妬は、ゼウサーを殺し、彼女をラミアにさせた挙げ句、彼女の子を含めた未来ある赤ん坊達を多く殺害させた。

 そしてこれに偶然介入したヴァッシュまで巻き込んで殺されようとしていた。

 自分の恋により、多くの人命が奪われた。

 ラミアは涙を流しながらその罪意識に苦しむ。

 もう、これ以上誰も自分の為に死んで欲しくない。

 ラミアはヴァッシュの背中に手をかざして、その想いを懇願した。

「お願い……やめて……」

 その時だった。

 凄まじき爆発がヴァッシュに起こる。

 だが、その爆発はリゼロとジレスティアをも吹っ飛ばしていた。

「がぁあああああっっ!?」

 突然の爆発に、ラミアは絶句しながら目を瞑った。

「っ!?」

 地面に転がったジレスティアはステッキで上体を起こし、今起こった事に目を配り驚愕していた。

「な、何だこれは!?魔力の逆流なのか!?馬鹿な!!」

「ちっ……くしょう……一体何なんだ!?」

 巻き起こる白煙と土埃の中、ヴァッシュがゆっくりと歩む音が聞こえてきた。

 そして、ヴァッシュは全くの無傷であり、赤とオレンジのオーラを体全体に宿していた。

 瞳を開けたラミアは、雄々しく立つヴァッシュの背中を見て、驚きと安堵が混じった感情に満たされた。

「……す、すごい……!!」

 オーラ・フレイム。

 魔力の攻撃を竜の魔力で相殺させる鎧的な魔法だ。

 ラグナデッタから授かった能力の一つだった。

 魔力を収束させ一気に開放し、自身を中心に爆発を起こす事も可能であり、攻守一体の魔法でもある。

「う、嘘だろ!?あああああっっ!!」

 リゼロは掌にライボルタの魔力を収束させたまま狂いながら駆け出す。

 ジレスティアも空中浮遊で高速移動しながら魔力を帯びたステッキをかざしてヴァッシュに突っ込む。

 繰り出される掌に宿した電撃弾と、魔力を宿したステッキの打撃がヴァッシュに襲いかかる。

 これに対しヴァッシュは、双方の攻撃をフェイタル・ウィングで受け止め、弾き飛ばす。

「くぅううう!!」

 弾かれたリゼロが再び攻撃にかかるが、ヴァッシュはフェイタル・ウィングでリゼロの連続魔力打撃を巧みに受け止めては捌き続ける。

「このヤロぉおおおお!!」

 幾度も来る攻撃をヴァッシュは全てフェイタル・ウィングで捌き、 背後から来るジレスティアの打撃も見えていたかのようにフェイタル・ウィングでガード。

 そして向かい合うリゼロを真っ向から蹴り飛ばし、ジレスティアの打撃を弾き飛ばす。

「ぐふぅっ!!」

「ぬお!!」

 するとヴァッシュは、携帯していた小型リモコンのような魔導装置を左手にとり、リゼロとジレスティアに向けてそれを操作した。

「頭に血が昇って忘れていた……危うく証拠が無くなっちまうとこだったぜ」

 その魔導装置は、賞金首をハンティングした証拠を記録する、レポーダーという装置だった。

 賞金首対称を認識すれば、その時の場所、時間、戦闘状況、賞金首の生死等を記録する装置だ。

 正規なファングの者のみが携帯する、ハンティング記録の証拠の為の必需品であり、リゼロのような闇の非公式なファングは持ち合わせていない。

「っ……と、賞金首対称との戦闘状況認証。それじゃあ、本格的にハンティングさせてもらうぜ……ラミアのコが味わった苦痛の比じゃねー苦痛……味わってもらう。さっき言った竜の怒りをな……」

 更に一層攻撃的な雰囲気を纏ったヴァッシュはフェイタル・ウィングを本格的に振り構えた。

「……!!」

 リゼロとジレスティアは改めて戦慄し絶句する。

「アームズ・フレイム!!」

 ヴァッシュがそう唱えた瞬間、フェイタル・ウィングの刀身が紅くなり、宿していたオーラ状の炎から本格的な炎へと変貌する。

 フェイタル・ウィングを本格的な戦闘モードに移行させるための魔法、アームズ・フレイム。

 フェイタル・ウィング自体の攻撃力や炎の威力が上昇させるのは勿論の事、斬撃を食らわせた相手を炎上・爆発させる特性を宿す。

 余りの殺気に圧倒されるリゼロとジレスティア。

 彼らが息をのんだ刹那、ヴァッシュはフェイタル・ウィングの斬撃を放った。

「ちぃ……!!」

「っく!?」

 リゼロとジレスティアは、間一髪で斬撃をかわした。

 目にも止まらない速さのフェイタル・ウィングの斬撃は、地表を意図も簡単に破砕させ、破壊の衝撃と同時に爆発を巻き起こす。

  ヴァッシュは、バスターソードの剣士とは思わぬ立ち回りスピードで跳躍。

 その反動でヴァッシュが地に着いていた部分が砕ける。

「逃がすかよ……!!」

 ヴァッシュの眼光はを確実にリゼロを捉えていた。

 そしてフェイタル・ウィングを振りかぶり、叩き斬るように斬撃を食らわせる。

「ひぃっ!?」

 その瞬間にリゼロは魔導結界を張った。

「覇ぁあああああっっ!!」

 だが、轟と唸るヴァッシュの剣撃は、爆発と共に結界を張ったリゼロごとブッ飛ばす。

「ひぃぎぁっっっ!?」

 瞬間的な魔力同士の激突があったが、ヴァッシュのパワーと魔力が桁違いだった。

 リゼロは弾丸のような速度でブッ飛ばされ、住宅街の裏山の壁面に思いっきり突っ込んで食い込み、土砂を砕き散らしながら凄まじい轟音を響かせる。

 その衝撃により、リゼロは生き埋め状態になった。

 だが、契約者のジレスティアが絶命しない所を見ると、リゼロ自身はまだ生きている事を証明していた。

 「何というパワーだ!?ドラゴンの力とは、これ程のモノなのか!?ならば!!」

 ジレスティアは、ヴァッシュの更なる力量に押されるが、次の一手に踏み切り、地面にステッキをかざして、幾つもの魔方陣を発生させた。

「闇の魔力の力で、数で攻める!!出でよスケルターの兵士達!!」 

 ジレスティアの声と共に、放った魔方陣から骨の兵士達が沸き上がるように召喚された。

 夜間であるが為に、闇に出現していく様子は不気味な光景にもとれる。

 その数は、実に20体。

 言葉通り、数で攻めるジレスティアは手をかざし、ずらりと並ぶスケルターに攻撃命令を下した。

「スケルター達よ!!あの男を殺せぇ!!隙あらばラミアも仕留めろ!!」

 スケルター達は剣と盾を構えながら、一斉にヴァッシュへと攻め混む。

 状況は明らかに不利だ。

 だが、ヴァッシュは全く動揺すること無く背後のラミアに少し視線を配る。

「……隙あらばラミアもだと?はっ、ぜってーにそうはいかねぇよ……」

 そのヴァッシュ背後でラミアは、力を振り絞って上体を起こす。

 ラミアは切な気な表情を浮かべてヴァッシュを見つめた。

「……何故……あたしなんかの為に……ここまでするの?」

 ラミアはそう呟いたが、ヴァッシュには聞こえていない。

 フェイタル・ウィングを握り締め、スケルター達の攻撃に打って出ようと構えた。

 この光景を半ば高見の見物のようにジレスティアは見下してニヤついていた。

(スケルターは斃す事はできん!!潰しても再生するだけだ!!!その積み重ねは最終的に貴様の体力を奪い、絶命させるのだ!!!)
 
 スケルターはその名通り、俗にいう骨の兵士・スケルトンである。

 使役する魔導士、もしくは動かす魔力が消えない限り、潰しても直ぐに再生し、終わらない攻撃をし続けるのだ。

 通常の攻撃では斃す事はできない。

 スケルター達は無情に剣を振り上げ、ヴァッシュに斬り混もうと斬撃を浴びせる。

 だが次の瞬間、猛烈な勢いでフェイタル・ウィングの斬り払いが打ち放たれた。

 斬撃軌道上にいた周囲のスケルター達は、瞬時に爆発し、木端微塵となって燃え砕け散る。

 一振りで、5体のスケルターが仕留められた。

 そこからヴァッシュは、フェイタル・ウィングを素早い剣捌きの斬撃を食らわせていく。

 斬り上げ、薙ぎ、袈裟斬りの斬撃を巧みに組み合わせ、スケルター達を個々に圧倒・爆砕する。

「ふん……精々……カルシウムの……コゲクズにでも……なってくれや!!」

 ヴァッシュの轟々たる斬撃の元、スケルター達は次々と斬撃と爆発で吹き飛ばされていく。
 
 燃える骨の残骸や剣、盾も宙を舞う。

 ヴァッシュが放つ斬撃爆発は、夜の闇を鮮やかに照らした。

 その光景を見ていたジレスティアは、ある異変に気づく。

「!?何故だ!??一向にスケルター達が再生しないだと!?えぇいっっ!!数だ!!数で攻め混む!!」

 ジレスティアは再び魔方陣を造り、更なるスケルター達を召喚。

 新に召喚されたスケルター達は、わらわらとヴァッシュ目掛け駆け出していく。

 しかし、縦横無尽なまでのヴァッシュの斬撃は押し寄せるスケルター達の攻撃を許すこと無く、先手で破壊し続ける。

 放たれる様々な軌道の斬撃と爆発は、ある種の芸術的な光景にも見てとれた。

 まさに無双。

 その最中、4体のスケルター達が別行動するかのようにラミアを目刺し駆け出す。

「……あ……!!」

 ラミアは向かい来る恐怖にすくみかけた。

 だが、これまでの自身が招いたと思い込む数々悲劇を想い、いっそのことと、自ら迫る死を受け止めようとした。

「………っこのまま……殺して……」

 だが、次の瞬間にはその迫る死が消滅する。

 高速で立ち回ったヴァッシュが、スケルターを斬り上げていた。

 バラバラに燃え砕け散るスケルター達の残骸と共に、ヴァッシュは華麗に舞い上がりながら再び着地した。

 フェイタル・ウィングを幾度か回して構え直すと、ラミアを守る立ち位置で、ジレスティアに言い放った。

「……ジレスティアよぉ……無駄だぜ!!そいつらは機能しねぇ!!!俺の剣が宿す魔力で、再生無効だ!!」

 その言葉通り、本来再生するはずのスケルター達は只の焦げた骨の残骸と化していた。

 ヴァッシュは、ジレスティアに更なる追い討ちをかける言葉を吐き捨てた。

「てかよ……リゼロのゲスガキを既にブッ飛ばしてんだからよ、雑魚なんざ無駄に決まってんだろ!?頭の中身終了してんのか!?」

「ぐぅっ……コケにしてくれよってぇっっ!!ならばぁっ!!」

 ジレスティアはステッキをかざし、これまでに無い程の魔力を引き出して、最大級の電撃弾を形成させる。

「ふふふはははは!!我が最大級のギガボルタを食らわせてしんぜよう……!!覇ぁあああああっっ!!」

 ジレスティアが力をみなぎらせて形成させた巨大な電撃弾は、ヴァッシュに目掛け撃ち放たれた。

 無論、躱す事も可能だが、ラミアを巻き込む事となる。

「ちっ……面倒な玉っころ撃ちやがって……覇ぁぁぁあああああっっ!!」

 ヴァッシュも、自身の魔力を増大させて対抗。

 フェイタル・ウィングの刀身のアームズ・フレイムの燃え盛る炎が猛る。

「バーン・フレイアァアアアアアッッッ!!」

 ヴァッシュの技を叫ぶ声と共に、フェイタル・ウィングに猛る炎が、更に爆発するように纏(まと)われた。

 バーン・フレアはアームズ・フレイム時の魔力を爆発的に上昇させ、破壊力も更に格段的に上昇させる、言わばチャージアップ系の魔法だ。

 そして、ヴァッシュは、フェイタル・ウィングを抜刀するように両手で構え、向かい来るギガボルタの巨大な電撃弾に向かって跳躍。

 くわっと目を見開いたヴァッシュは、ギガボルタに強烈な斬り払いを食らわせた。

 ギガボルタの大型電撃弾は、爆発するように消滅する。

「うらぁああああああっっ!!」

 ヴァッシュはそのまま振り構え、魔力による瞬発的な跳躍で、ジレスティアの頭上に上昇した。 

「何と!?」

「フレイム・ミーティアッッッ!!」

 ドンッと急降下するヴァッシュ。

 空中からの斬撃技・フレイム・ミーティアが、ジレスティアに襲いかかる。
 
  最後と悟ったジレスティアは、苦し紛れにステッキをかざすと、放った最期の魔力で、巨大な魔方陣を形成させた。

「……特大のテロを起こしてやるぅぅぅぅっっ!!」

「覇ぁあああああっっ!!」

 フレイム・ミーティアの高速斬撃が、上空からジレスティアへと斬り込まれ、 不気味な笑いを浮かべたジレスティアは、地表諸とも豪快に爆砕される。

 凄まじき爆発が巻き起こり、爆風の突風がしばらく続いた。

 ジレスティアを駆逐したヴァッシュは、ゆっくりと体勢を起こし、フェイタル・ウィングを持ち上げた。

 そして、ジレスティアがいた場所を鋭い眼光で見下ろす。

「これが竜の怒りの鉄槌だ……てめぇがくたばれば、リゼロのキチガイヤローもくたばる……仕留めさせてもらったぜ……」

 ジレスティアが消滅した事により、命の契約が消滅。

 契約者のリゼロは、ようやく土砂の外に脱出した所でその定めを迎える。

「うっく……?!じ、ジレスティア……!!し、死んだって……いうの……かっ!?がぁはああっっ!!」

 突然にみまわれた身を破裂する程の苦痛が、リゼロを襲う。

 次第にリゼロの体は粒子のような光を発生させ、体が透き通って消えていく。

「あ、アアアアアあああああっっ……!!」

 叫びと共に、リゼロの体は光を放ちながら、蒸発するかのように消滅してしまった。

 契約した者のどちらかが死ねば、もう一方が消滅する……この瞬間こそが、契約が決裂した者の最期の姿だ。

 モンスターと契約し、力を得た代償に背負う運命。

 無論、ヴァッシュ達も例外ではない。

 そのリスクをかけてでも力を欲する覚悟が無ければ務まるものではないのだ。

 戦闘を終えたヴァッシュの背中を見つめていたラミアは、自分の為に闘ってくれたヴァッシュに近づこうと、彼に蛇の歩を進め始めた。

 だが、彼女に振り向いたヴァッシュは、フェイタル・ウィングを持つ腕を広げ制止させた。

「来るな!!いや、下がれ!!」

「え!??」

 突然怒鳴るように言ったヴァッシュに戸惑うラミア。

 その直後、ジレスティアが放った魔方陣が、唸るような波動を発生し始めた。

「きゃあっ!?」

 その波動は台風の突風のごとく、荒々しく吹きすさぶ。

 ヴァッシュは睨みを効かせながら魔方陣を直視する。

「ジレスティアのヤロー……街のド真ん中に面倒なモン残しやがって……!!」

 稲妻が魔方陣に集中するように断続的に発生し、やがてその魔方陣から巨大なモンスターが召喚された。

「何……これ……!?」

 ラミアは初めて見る巨人のようなモンスターに茫然と立ちすくみ、その巨大さに驚愕する。

 人と対比すれば、言うまでもなく勝ち目はない大きさだ。

 推定で20mは下らない巨大さはあった。

 正に巨人。

 その巨大なモンスターは食人種のモンスター・グールの亜種・デスレグア。

 異常に巨大な闇のモンスターであり、闇の召喚モンスターの中でもその性質上かなり質(たち)が悪い部類だ。

 大概は大いなる力に溺れた闇の魔導士が欲したがる召喚術の一つであり、使いこなせないのが関の山であった。

「ガァゴォアアアアアア!!」

 闇夜に向けて咆哮するデスレグア。

 街の誰もが家から飛び出し、その咆哮の方角を見た。

 またある者達は歩きを止めて、闇に立つデスレグアを茫然と見つめた。

 咆哮を止ませたデスレグアは、眼下に目を向けて獲物を探す。

「グルルルゥ……」

 真っ黒な眼を見開いて周囲を見回すデスレグア。

 すると、先程まで高見の見物を決め込んでいたヘラの姿を捉えた。

 デスレグアは真っ先に逃げるヘラを追いかけ、長い腕を伸ばす。

「え!?な、なんで私なのよ!??い、嫌!!いやぁあああああっっ……!!」

 手をのばしたデスレグアは、直ぐにヘラに追いつき、彼女を掴み取った。

「あああああっっ!!!!嫌ぁあああああっっ……!!」

 ヘラの悲鳴が響くが、およそ20m上空ではその声も薄れてしまう。

 何を思うのかデスレグアは、掴み取ったヘラを眺め続けていた。

 この間にヴァッシュは、一旦アームズ・フレイムを解除し、フェイタル・ウィングを鞘におさめた。

 その場から立ちすくむラミアに駆け寄り、咄嗟に彼女の両肩を持って状況を説明しようとする。

「気をしっかり!!こいつはヤバイ奴だ!!人と見れば見境無く食おうとするモンスターだ!!一旦ここから離れる!!」

 はっとなってもラミアは罪意識を主張する気持ちを表そうとする。

「でも……あたしは……あたしは多くの命を奪ってしまったモンスター……いっそ、ここであのモンスターに……!!」

「何言ってんだ!?君は本当は生きたいはずだ!!じゃなきゃ奴を見て立ちすくむはずがない!!真相心理に恐怖を抱いた証拠だ!!そいつは生きたい気持ちの表れでもある!!」

「……っ!!」

 その時だった。

「嫌!!嫌!!嫌ぁあああああっっ……ああぁぇぅっ……!!」

 遂にデスレグアはヘラを口に運ぶ。

 叫び声が潰れるように途絶えた。

「ちぃっ、見るな!!」

 ヴァッシュは、これ以上の恐怖とトラウマを与えないように、ラミアの視線を手で伏せた。

 グチャグチャという咀嚼音が聞こえてくる。

 デスレグアは、顎を幾度もなく動かし、口に含んだヘラを噛み砕いている。

 いき過ぎた嫉妬による非人道な行動の数々を犯した女の末路の結果であった。

 ヴァッシュは体勢を変え、半ば抱き締めるようにラミアの耳と顔をふさぐと、彼女の耳元で力強くささやいた。
 
「仮に君が本心から死を望んでいても……俺がそうはさせねぇ!!必ず救い出す!!」

「何故!?何故あたしの為なんかに……あっ!?」

 ヴァッシュは、一刻を争う状況から半ば強引にラミアをお姫様だっこし、魔力を使ってその場からドンッと跳躍する。

「説明してる時間はねぇ!!」

 ラミアは唐突過ぎるヴァッシュの大胆な行動の連続に、顔を赤くしていた。

 デスレグアは、ヘラの衣服を吐き捨てて、次の補食対象を追い求め始め、地響きを立てながら進撃し、家屋を蹴り潰しては踏み砕いていく。 

「ガァゴォアアッッッ!!ガァラガァウ!!」

 単発的な咆哮をしながらデスレグアが進撃する。

 その度に吹き飛ぶ瓦礫が街に降り注ぎ、更なる被害が拡大していく。

 ラサレニアの街中にサイレンが鳴り始め、パニック映画さながらのように人々が避難し始めていく。

 デスレグアはかっさらうように、人々を掴み上げ、次々に無慈悲なまでに貪る。

 かつてヴァッシュが味わったガーゴイルの襲撃のレベルを上回る事態であった。

 ジレスティアはテロどころか、ある意味の災害をラサレニアにもたらしてしまったのだ。

 たまたまラサレニアに宿泊していたファングの男達もこれと遭遇していた。

 既に前方よりデスレグアが進撃してきていた。

 彼らは各々に迫り来る状況に行動し、武器を手にする。

「おいおい……マジかよ!?笑えるな!!」

「こいつは……規格外だな……!!」

「狩る……!!」

 それぞれのファングの男達は、ボウガンや、アーチェリーガン、ランサーガンを手にし、デスレグアの死角へ回る。 

 決して逃げない姿勢を示し、ファングのプライドをかけて闘う。

 彼等がそれぞれに放つボウガン、アーチェリー、ランサーがデスレグアの表皮に突き刺さる。

 しかし、痛撃のダメージに唸るのみで、斃すにはとても至らない。

 デスレグアは、攻撃が向かってきた方向に向けて開口し、黒い痰のような塊を幾度も弾丸のごとく撃ち飛ばし始めた。

 それは街の建築物にめり込んで単発的な破壊を拡大させていく。

「がぁあああああっっ!?」

 これの巻き添えに遭い、アーチェリーガンのファングは瓦礫と共に吹き飛ばされた。

 更にデスレグアは、八つ当たりするかのように周囲の建造物を平手打ちで扇ぐかのように破壊し始めた。

「ガァルヴァアアア!!」 

 これにガンランサーのファングは装填中に巻き込まれ、瓦礫や他の市民と共に吹き飛ばされた。

 ボウガンのファングは、デスレグアの頭部を撃つが、やはり効果はない。

 召喚された闇のモンスターに対抗するには、その異界性質上、最低限魔力は必要であった。

 だが、ファングの誰しもが魔力を有している訳ではなく、通常の能力の人間も多くいた。

 彼らでは対抗できる種のモンスターではなかった。

 ボウガンのファングが引くことなく攻め続けるが、向かい来るデスレグアの進撃に呑まれ、瓦礫の中へと消えていった。

 この間にも、デスレグアの行動範囲から魔力跳躍して逃げるヴァッシュ。

 その背後に起こる悲鳴や破壊音、デスレグアの咆哮を上げながらうごめく光景が、ヴァッシュに抱えられたラミアの瞳に映る。

 それが彼女に更なる罪意識を植え付ける。

 ヴァッシュの肩にしがみつきながら、ラミアは涙を流しながら再び自己の罪意識に苦しみはじめた。
 
「……あたしが、あたしが彼らに携わってしまったばかりに……!!!あたしが恋をしなければこんなことにはならなかった!!!あたしが街の人々を殺す切っ掛けを作ってしまったのよ!!」

 確かに彼女の罪意識は一理あった。

 彼女の知らず知らずの不倫が、最終的にモンスター災害に繋がってしまった事は事実であった。

 ラミアは、これまでの一部始終をヴァッシュに話し続けた。

 ヴァッシュの知った事、知らなかった事実。

 ヴァッシュは、彼女をそこまで苦しめる哀しみの因果に対し、歯を食い縛る程の怒りを覚える。

「……っく……確かに事の流れはそうかもしれねぇ……!!」

「だから……あたしは……存在しててはいけない!!もういい!!あたしを殺して!!沢山のラサレニアの人々を死に追いやったあたしを!!」

 泣き叫ぶように言うラミアの言葉には、悲しみと哀しみが溢れていた。

 ヴァッシュは歯を食い縛り、ラミアを抱えて逃げ続ける。

「俺は……絶対に殺しはしない。例え巨額な賞金が賭けられてもな!!」

 頑なにヴァッシュは彼女が望む死を拒む。

 その姿勢にラミアは遂に疑問符を投げ掛けた。

「どうして!?どうしてあなたはあたしを助けるの!?あたしはもう蛇のモンスターなの!!人食いモンスターなの!!沢山の子供達を殺し、あたし自身、大勢の人々を殺している災いなの!!それに……もう居場所もない……何故なの!?」

「そいつはな……俺はかつて悲しみと絶望から救いたい人がいた。だが、まだガキで力がなかった俺はそれができなかった……ただ立ちすくむだけだった……」

 ラミアは理由を話始めたヴァッシュを見つめていた。

「だが、今は力がある!!そして今、でかい悲しみを抱えさせられた君がいる……俺がその哀しみぶっ壊してやりてーんだよ!!それに君がモンスターだろうがカンケーねーっ!!俺は君を助けたいんだっっ!!」

「っ……!!」

 ラミアはヴァッシュが熱いまでに言い放った情熱を感じ取り、絶句して泣きはじめる。

 ラミア自身も、深層心理ではここまで墜ちてしまった自分を肯定してくれる存在を求めていたのだ。

ヴァッシュは、比較的安全な丘のある場所に降り立つと、心身傷ついたラミアを下ろす。

「ここで待ってな!!絶望ぶっ壊す力ってのを見せてやる!!いいな!!くれぐれも死のうとするなよ!!」

 ラミアに念を押したヴァッシュはそう言い残して更に森がある方面へと跳躍していった。

「あっ……!!」

 ラミアは飛び去るヴァッシュに手を伸ばすが、ヴァッシュは既に遥か先へ跳躍していった。

 かざした手を収めたラミアは、振り返りながらラサレニアの街に視線を移す。

 星空と夜景が見える中に、おぞましい存在がうごめいている。

 客観的に見れば見る程、絶望の言葉にふさわしい光景が眼下にあった。

 ラミアは、先程のヴァッシュの言った言葉を呟いた。

「絶望を壊す力……」 

  そして、その力が森林地帯から大きく羽ばたく。

 唸る翼、鎧のごとし鱗、恐ろしくも雄々しい表情、強靭な両脚……その力こそ、ファイアードレイクの亜種たるドラゴン、ラグナデッタ。

 ヴァッシュは、ラグナデッタの背にあるバケットシートに着座し、素早くベルトを締めると、グリップハンドルを握りしめて不敵にニヤつく。

「ラグナデッタ!!さグールの亜種だ!!それも飛びっきりにデカイ!!どうだ?ディナータイムになるか!?」

 ヴァッシュは眼下に広がるラサレニアの夜景と、デスレグアの進撃を見下ろしながら、ラグナデッタに冗談混じりで振ってみせる。

 ラグナデッタもその冗談を踏まえながら反発の意見を吐く。

『はっ!!バカ言え!!あんな不味い飯なんざ、食えるか!!丸焼き処分だ!!』

「じゃあ、極めて強火処分で行くぜ!!」

『図体がデカイ分、燃やすのは時間かかるな……我慢しろ』

「なーに言ってんだ!!お前の言う火は、燃やすよか爆破に近いだろ!?」

『ふん!!違いねぇな!!一気に飛ばすぜ!!』

「あぁ!!」

『で……ラミアはどうなんだ!??今夜お持ち帰りか!??』

「あぁ!?ば、バカ言え!!俺はだな……!!」

『男なら一気にキメやがれ!!』

「おい!!ラグナデッタ!!そもそも、さっきと言ってる事が違うだろが!?」

『当初ラミア退治だった依頼が、こんだけの大スペクタクルなイベントになっちまってるんだ……そんだけ状況も変貌するだろ?エスケープぐらい眼を瞑ってやる』

「どーいう解釈だよ!?おい!!あー……まーいーわ!!こんまま滑空してブレス撃ち込むぞ!!」

『言われる間でもないっっ!!が、少し市民に気を使わせてもらう……』

「ご自由に!!」

 余裕の表れの会話をしながら戦闘状況へ投じるヴァッシュとラグナデッタ。

 デスレグアを目指して滑空する翼が夜風を切り裂いて唸る。

 この瞬間をラミアは丘の上から目撃する。

「ドラゴン!?まさか、あの人が言った力って……?!」

 真っ先にデスレグアへと向かっていくドラゴンの雄々しい姿が、ラサレニアの上空に降臨する。

 ラサレニアの街の人々も夜空に指を指しどよめく。

「ヴァルグゥ!!ガァガァグルゥッッ!!」

 デスレグアは向かい来るラグナデッタに咆哮し、威嚇する。

 無論、ラグナデッタに威嚇の効果は皆無だ。

 眼をクワッと見開いて開口したラグナデッタは、滑空の突撃と共にブレスを三発デスレグアへと撃ち込む。

 放たれた火球が、デスレグアの胸の表皮に着弾すると共に爆発し、デスレグアを怯ませる。

 ブレスを食らい、デスレグアはぎこちなく体勢を崩しかけた。

「ガァヴァアアア?!」

 更に接近する共に、デスレグアの顔面にブレスを撃ち込む。

 デスレグアの顔面を撃ち砕くかのような炎の爆発。

「ギャアアアアア!?」

 身体を反らせながらデスレグアは、顔をかきむしるように悶えながら踏み止まる。

『ほんの挨拶だ!!』

 ラグナデッタは瞬発的に強く羽ばたき、デスレグアから離脱。

 その直後にも、デスレグアの右斜め頭上からブレスを撃ち込み、幾度か翼をはためかせ、旋回飛行に移る。

 ヴァッシュはデスレグアに視線を集中させてラグナデッタに促す。

「奴は人が多い所にいやがる!!これ以上巻き込まねぇように人のいないエリアに誘導すっぞ!!」

『そんくらいは解っている!!だから気ぃ使って誘導する為に加減してやったんだろーが!!』

「おっと、そーかい!!」

 ラグナデッタは、旋回飛行を停止させてホバリングを始めた。

 そしてそこから再びブレスを吐く。

 夜の闇を切り裂いて唸る火球。

 狙いは的確にデスレグアの身体を直撃させる。

「グルゥルガッ!!ガガガァ!!」

 咆哮したデスレグアは思惑通り、はためいてホバリングするラグナデッタを目指して速歩きで進撃し始める。

 ラミアは時折吹く夜風に髪をなびかせながら丘より固唾を飲んでこの光景を見ていた。

 ラグナデッタの咆哮とジレスティアの咆哮が聞こえる。

「あれが……あのドラゴンがあの人が言っていた力なの?」 

 ラミアは初めて見るドラゴンのその姿に見入っていた。 

 恐怖を一切感じさせる事なく、むしろ安心や高揚といった救世主の降臨を感じさせる感覚を覚えていた。

 まさにかつてのヴァッシュが覚えた感覚だった。

 一方、デスレグアを思惑通りに誘い込んだラグナデッタは、ゆっくりと上昇しながらブレスを吐く体勢に入る。

 その背でグリップハンドルを握るヴァッシュは、見ているであろう、丘の上のラミアに言うつもりで言う。

「これが……絶望をもブッ飛ばす力だ……!!見てな!!」

 向かい来るデスレグアは、上昇するラグナデッタを見上げながら痰の塊を撃ち飛ばすが、ラグナデッタは難なく躱してみせる。

「汚ねぇ攻撃だぁ!!品がまるでねぇ!!」

『まったくだ……品のある攻撃とは、こうするモノだ!!』
 
 開口したラグナデッタの口内に炎が収束し、魔力が一定までチャージされる。

 斜め上から大型の火球ブレスが放たれた。

 デスレグアの右肩に直撃し、肉を破砕させる程の爆発を巻き起こす。

「ガガガァアアアアアア!!」

 デスレグアは苦しみの咆哮を上げながら圧倒され、爆発の衝撃で吹っ飛んだ。

 離れた場所にデスレグアの吹き飛んだ右腕が落下する。

 先程のブレスは、ギガバットとの戦闘時に吐いていた通常攻撃のブレス。

 今吐いたブレスは、炎の魔力をチャージしたワンランク上の魔弾ブレスだ。

 威力は巨大クラスのモンスターを圧倒する程の威力を誇る。

『ふん……脆いな』

「あぁ……うぉっと!?」

 腕を吹き飛ばされたデスレグアは、再び立ち上がり、執拗に痰を撃ち飛ばしはじめる。

 ラグナデッタは余裕の表れを示しながら躱し、
見下すように、ダメ出しした。

『無駄なことを……狙いがカスだ。品に続いて、狙いもなってねぇ……!!』

「ははっ!!もーいっちょ力量の差をぶっかまして、また旋回するぞ!!」

『この時点で止め刺した方が効率いいんだがな……何故また旋回する?!』

 ラグナデッタいわく、確かにこの時点で止めを刺せば戦闘効率的に正解であった。

 しかしヴァッシュは、敢えて戦闘を長引かせる方向に振るようにする。

 それにはヴァッシュなりの意図があった。

「今日はサービスだ!!もっと攻撃をかましてやらなきゃならねー!!!スペシャルゲストのお嬢さんが見ている!!」

『スペシャルゲスト……ラミアか!?』

「あぁ!!あのグールの化けモンは、いわば彼女を陥れた悲劇の集大成の塊だ……他に言い変えれば彼女の理不尽の塊……まー、ようはだ!!彼女や街の市民にそういった存在をブッ飛ばす力があるってのを存分に感じて欲しいのさ!!!」

 ヴァッシュはそう言った瞬間に、ガーゴイル事件の一件が過る。

 かつてヴァッシュが、ギルアルトとガルデアスに救われた時のように。

「この状況、誰しもが絶望しているだろう……かつての俺やフィリー姉ちゃんのようにな……」

 ヴァッシュの中にいるフィリーと、今現在巻き起こっている戦闘状況を見つめるラミアがだぶる。

 実際、街の中にもかつてのヴァッシュのように大切な人を失った者、救われた者達が大勢いた。
 
『そうか……そこまで想ってのことか……しかたねぇ……効率無視の情熱サービスでいってやる……!!』

 ヴァッシュの情熱を把握したラグナデッタは、想いを承諾し、開口する。

 そしてラグナデッタは連発で火球ブレスを撃ち飛ばし、デスレグアの身体を幾つもの火球で狙い撃つ。

「ガガガァゴゴォ!?」

 連発するブレスの着弾爆発が、デスレグアの肉片を抉るように吹き飛ばし、再びデスレグアをダウンさせた。

 「ガガァアアアアアア……!!」

 大きくはためいたラグナデッタは、ドンと加速。

 高速旋回飛行に移り、デスレグアを中心にコンパスのごとき軌道で飛ぶ。

 ヴァッシュはデスレグアに眼光を押し付けて不敵に笑った。

「さぁ……ブレス撃ち込むぜ!!!ラグナデッタ!!」

『狙いは外さん……!!』

 旋回しながらラグナデッタは火球ブレスを撃ち込み始める。

 上空の全周の範囲から、デスレグア目掛け火球ブレスが砲弾のごとく撃ち放たれていく。

 その一発、一発が確実に命中し、着弾爆発のダメージと衝撃を与え続け、デスレグアを追い詰める。

「ガガガァ!!グギガラァ!!ガガガァ……!!」

 デスレグアは、もがきながら確実にダメージを蓄積させていく。

 そしてやぶれかぶれに痰の塊を飛ばしまくる。

「相変わらす馬鹿の一つ覚えにキタネェ攻撃しやがって……!!撃ち込みながらまた突っ込む!!」

『今度は遠慮なくな!!』

 ラグナデッタは、はためきながら周回軌道で上昇し、滑空しながらブレスの連発を再び見舞う。

 放たれていく火球の威力は最初の攻撃時よりも威力が上がっており、今度は確実なダウンを狙う。

 真っ向から直撃される数々のブレスが、デスレグアの表皮の肉を爆発させ、更にダメージを蓄積させる。

 既に体の至る箇所が抉れ、所々にブレスの残り火が燻っていた。

蓄積されたダメージに耐えれず、よだれを出しながら倒れ込もうとするデスレグア。

 その瞬間に、滑空するラグナデッタが怒涛の勢いで突っ込む。

 そして滑空加速をつけた右翼の翼が、ラリアットのごとくデスレグアをブッ飛ばし、デスレグアを大地を震わせながら豪快に倒れ込ませた。

 圧倒的な力を見せつけたラグナデッタの戦闘をラミアは驚愕を感じながら見ていた。

「凄い……!!これが竜の力!!」

『キマッたな……止めだ。あんなヤローは魔弾ブレスで十分過ぎるが、お前の情熱に合わせ、敢えて特別なブレス見舞わせる』

「気がキクじゃねーか!!」

『敢えてと言った!!』

 ラグナデッタは再びデスレグアの面前へ移行し、翼をはためかせてホバリング体勢に入る。

 真っ直ぐにデスレグアへと狙いを定めたラグナデッタは、顎を開口させ静止した。

 その口内に魔力の炎が収束されていく。

 同時にラグナデッタの頭部の五本の角と鼻の角が鮮やかなオレンジに発光しはじめた。

 発光と共に、電気が連続でスパークするような音がジジジィと鳴り響く。

「これで悲劇は終いだ!!ラミア!!目ぇひんむいて見てな!!ブレス・ヒートウェーヴァー!!」

 ラグナデッタの口内に充填された炎が一気に解放され、 猛り唸る鮮やかな熱線渦流が一直線に撃ち出された。

 魔力の30%を消費して撃ち出されるラグナデッタの必殺技、ブレス・ヒートウェーヴァー。

 凄まじき威力を誇る、ラグナデッタの必殺熱線ブレスだ。

 しかし、強大な威力と魔力の代償に、三発が限度である。

 後は、魔力の自然回復か、魔法や魔導機器を用いた方法で魔力を回復させねばならない。

 だが、大半の戦闘はこれを撃つ間でもない。

 真っ直ぐにデスレグアに向かって突き進む紅蓮の熱線は、連続する燃焼音と共にデスレグアの胸部に直撃し、瞬く間に大爆砕を巻き起こす。

「ギャアウゴォオオッ……!?」

 撃ち込まれ続ける熱線により、幾度も爆炎爆発を巻き起し、デスレグアを完膚なきまでに焼き飛ばす。

 紅蓮の爆炎の柱と化したデスレグアが、ラサレニアの夜空に立ち昇った。

 鮮やかに燃え盛る圧倒的な炎に、ヴァッシュとラグナデッタの表情は、その勝利の炎に照らされる。

 一方の高台の丘のラミアは、その力量の凄さに茫然としながら見守っていた。

 その見つめる瞳からは涙が流れていた。

 災厄までに膨れ上がった自らの悲劇が、ドラゴンの力で終止符が打たれる……眼前のその光景に、涙を流さずにはいられなかった。

 その涙には、彼女の悲しみ、驚愕、感動等の様々な感情や感覚が浸透していた。

 燃え上がる炎を視線で追いながらヴァッシュは一連の事件の流れを踏まえながら呟く。

「悲劇は、とある少女の恋の灯火から始まり、具現化した災厄の爆炎に終わる……か……」

 すると、ラグナデッタはヴァッシュに突っ込むように言う。

『なに浸ってやがる……事は終った。とっととラサレニアから引き上げるぞ。他の依頼も引き受けてるんだろうが』

 帰還を煽るラグナデッタに、ヴァッシュは待ったをかける。

「だったらよ……さっきの丘へ行ってくれ。彼女を放置できん」

 すると、ラグナデッタはヴァッシュにちゃかしを入れるかのように、突っ込んだ。

『姉の面影があるからって、このシスコンヤロー……』

「あぁ!?ち、違うわ!!フツーに考えて放置できんわ!!重い悲しみを一人で背負い、完膚なきまでに傷心してんだ!!当たり前だ!!」

『ま、言った通りエスケープは目を瞑るさ』

 ラグナデッタは、翼を幾度か羽ばたかせると、再び丘を目指して飛び立った。
 






 ラミアの目の前にラグナデッタが降り立ち、背に乗っていたヴァッシュが、シートから飛び下りて着地する。

 ラミアは間近で見る巨大なドラゴンの体躯と存在感に、圧倒され茫然と立ち尽くしていた。

「ドラゴン……!!」

 首を下げたラグナデッタとラミアがしばらく視線を合わせ合う。

 ラミアは急に目の前に向き合うドラゴンに、体を緊張させていた。

 やはり間近で接すると、先程抱いた安心感は伏せてしまうようだ。

「おいおい!!ラグナデッタ!!イキナリそれじゃー、彼女がビビるだろが!!」

 いきなりのラグナデッタの行動に突っ込むヴァッシュだが、首を持ち上げながら言うラグナデッタの反撃を食らう。

『……彼女がラミアか……確かに漂う魔力の類いから、ラミア・ド・ヘルだな……しかし、ヴァッシュはこういうのが好みなんだな……髪が長いフェチか?あぁ!?』

 顔を赤くしたヴァッシュが、拳でラグナデッタの頬に突っ込みを入れる。

「はぁ!?な、何言ってやがる!!バカ、このヤロ!!あんましちゃちゃ入れんな!!俺はだなー……!!」

『ふん……言われずともわかるさ……』

 そんなヴァッシュとラグナデッタのやり取りを見たラミアは、ラグナデッタの性質を認識し、少しほっとした様子を見せた。

 ヴァッシュは、彼女に向かい自己紹介を兼ねてバンとラグナデッタに掌を当てる。

『んだ、このヤロ!!』

 ヴァッシュは地味な痛みに突っ込むラグナデッタを流し、そのまま自己紹介を続ける。

「こいつは、俺の相棒……ファイアードレイクのラグナデッタだ!!さっき言ってたドラゴンの力ってのはこいつのコトさ。で、俺はヴァッシュ・リグラント……こいつと契約している賞金稼ぎ……ファングさ!!」

 ヴァッシュからの自己紹介を受けたラミアは、自身も自己紹介をする。

「あ、あたしは……フィレナ。フィレナ・トレス……街の学生だったけど、見ての通り……この事件の流れでもう後戻りができなくなった……多くの命を奪ったし、この呪いだっていつまた食人に駈られるか……もう、あたしは殺人モンスター……居場所なんてない!!やっぱり狩られるべきモンスターなのっ…ぁあああっ……ぅっ!!」

 フィレナは自己紹介の過程で再び悲観的になってしまう。

 彼女はうつむき、背負わされ過ぎた現実に嘆きを隠さずにはいれなかった。

 不倫、呪い、殺害、災害……少女が背負うには余りにも過酷なものだった。

 だが、そんな事は関係ないと言わんばかりに、ヴァッシュはフィレナの涙を拭う。

 内心、姉・フィリーとイニシャルが同じなことに、ある意味の運命を感じずにはいられない。

「フィレナ……綺麗な名じゃねーか……」

 「っ!!」

 その思いがけないしぐさと言葉に、フィレナは仄かに赤面しながらヴァッシュに涙を拭われる。

 ヴァッシュはフィレナに瞳を合わせ、彼女の右肩に手を置いた。

 ヴァッシュの視点では、フィレナとフィリーがどうしてもダブって見えてしまう。

 だが、あくまで彼女はフィレナ。

 一時瞳を閉じて、ヴァッシュはもう一度目を見開いて言った。

「居場所なんざ、俺がいくらでも提供してやる。確かに俺はファングだが、こんなに可哀想なフィレナを狩れるわけがねーし、狩るつもりもない……不幸過ぎるフィレナの運命……俺達が覆してやんよ。言ったはずだ。守りたいってな……」

 そのヴァッシュの言葉に、フィレナは再び感情が溢れに溢れ、しがみつくようにヴァッシュの胸板に飛び込んだ。

「おわ!?」

「ぅわぁああああぁぁぁん……わあぁぁぁあぁぁぁん……っっ!!」

 ヴァッシュは、子供のように泣き叫ぶフィレナの頭を優しく繰り返し撫でる。

 ラグナデッタはしばし二人を見守ると、星空の下に燃え上がるデスレグアの炎の光景へ視線を移し、静かに呟いた。

『ラミアの悲劇が……災厄を燃やす竜の炎と共に消える……か……』



 続く

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