廃された王家の生き残り元王女ですが、敵国の王と偽装結婚して復讐することにしました。

春野こもも

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渡したいもの

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 ヴィラージュ王国に入国してから、途中の休憩を挟みつつ、馬車は約7時間の旅路を進んだ。
 王宮に着いた頃には、ミリアムもマリーも疲労で精根尽き果てていた。ヴィラージュ王国の街並みを見るのを楽しみにしていたのに、ほとんど見れていない。

「着いたぞ」
「お尻が割れちゃいそう……」
「ミリアム様……お尻はもう割れているかと……」
「……遊んでいないで早く降りろ」

 リュカは容赦なく二人に降車を急かし、ミリアムは追い立てられるように馬車から降りた。
 そして、目の前に広がっている光景にはっと息を飲んだ。

 ここ、ヴィラージュ王国の王宮だ……!

 どうやらリュカが本物のリュカ・サヴォイアであるのは間違いないらしい。

「……なんだ?」
「いや、本物の王子様だったんだって……」
「ずっとそう言っているだろう」

 呆れた様子のリュカについていく。リュカを迎える使用人達の列の真ん中を通り抜けながら、昔のことを思い出した。
 ミリアムも数年前まで、実家に帰るとこうやってたくさんの使用人たちに迎えられたものだ。みんな、今どうしてるんだろう……。
 
 王宮に入るとすぐに、ミリアムはマリーと別れお風呂に連れて行かれた。
 スラムで汚れた体をくまなく洗われ、数年伸ばしっぱなしの髪を整えられ、久しぶりに上等な布をふんだんに使った綺麗なドレスを着せられた。

 コルセットを装着するのも久しぶりで、こんなに窮屈だったっけ? と地獄を見たので、その点においてはスラムで着ていたゆるっとしたボロ布の服が恋しかった。

 そしてようやく準備が整うと、同じく身ぎれいにされたマリーと客室で再会することができた。

「ミリアム様……! お美しいです……!」
「マリー! ありがとう……マリーも素敵ね、綺麗だわ」

 マリーもこちらで用意されただろう綺麗なワンピースを着ていて、見違えるような顔色をしていた。
 
「マリー……こうしてると、なんだか昔に戻ったみたいだね」

 そう言うと、マリーはくっと眉を寄せて泣きそうな顔をした。それを見て、ミリアムも少し涙が出てしまいそうだった。

 *

 その後客室には豪華な料理が運び込まれ、2人には食事が与えられた。
 場所は綺麗で暖かい王宮の一室だけれど、マリーとスラムに住んでいた頃のように楽しく話をしながら食事をすることができた。
 
 ヴィラージュ王国の料理は美味しくて、空腹が満たされたおかげで旅の疲れも吹き飛んでいく気がする。

 リュカはもしかして、慣れない出来事でいっぱいいっぱいになっているミリアムたちのために、客室に食事を運んでマリーと二人で食べられるようにしてくれたのかもしれないと思った。

 ちょうど食事を終え、一息ついていた頃、客室の扉がノックされリュカが中に入ってきた。

「あっ……お風呂から服から食事まで……何から何までありがとう……ございます」
「口にはあったか?」
「えぇ、全部美味しくいただいたわ」
「そりゃあよかった。……それで、君を探していた理由について話をしてきた。二人で話したいのだが、平気だろうか?」

 それはつまり、使用人やマリーを退席させて、リュカと二人きりになることにミリアムが不快感や恐怖を感じないだろうかという確認だろう。
 リュカは思っていた以上に誠実な男なんだろうな、とミリアムは感心した。

「平気よ」
「では、君のメイドは別室に案内しよう」
 
 マリーはこの王宮のメイドに連れて行かれて、ミリアムはついにリュカと二人になった。

「まず、君を探していた理由のひとつめだ。これを」

 言いながらリュカが、抱えていた封筒の中身を取り出してテーブルの上に置いた。
 それを目に入れた途端、ミリアムは思わず息を呑んだ。

「……お祖父様……?」

 テーブルの上に広げられたのは古い写真だった。写っていたのはビシッと背筋を伸ばしている、ミリアムの祖父だ。

 いまいち確信が持てないのは、そこに写っているのがミリアムに馴染みのある老いた祖父の姿ではなく、祖父がおそらく20代前半であろう時期に撮られた写真だったからだった。

 でもきっとこれは祖父だ。馴染みのない姿だけれど、きっとそうだ。

「そうだ、これは君の祖父のモアメド王だ」
「どうしてお祖父様が……それにこのお祖父様の隣の男性って……」
「僕の祖父だ」

 ミリアムは顔を上げた。目の前のリュカと、写真の中にいる男性とを見比べる。……たしかに似ている。

「どういうことなの? どうしてお祖父様があなたのお祖父様と……」
「僕の祖父は大昔、グリマルディに留学していたんだ。これはその時に撮った写真だろう。年も近い2人はその後も交流を持っていた。ここにある手紙や写真がそのときのものだ」

 ミリアムはテーブルの上に広げられた写真や手紙を次々に手に取って見た。写真には祖父の姿だけでなく、祖母や生まれたばかりの父の姿や、あげくには父と母の成婚時の時の写真まで。

「……知らなかった…………」

 グリマルディとヴィラージュの王族に交流があったなんて、ミリアムは今この時まで全く知らなかった。

「これらは君に差し上げよう」
「えっ……」
「王宮には帰れていないだろう。まともに形見という形見も持っていないのでは?」
「……いいの…………?」
「あぁ、君が持つのが一番ふさわしいからな」

 思っても見なかったことに手や口が思わず震えてしまう。

 リュカの言う通り、革命が起こった後ミリアムは王宮に帰れておらず、家族の持ち物や写真など、王宮の中のものがどうなっているのか全くわからないでいた。自身が持っているのも写真数枚とわずかなものだ。
 
 まさかヴィラージュに家族の写真や、祖父の直筆の手紙まであるなんて……。

「ありがとう…………」

 細い声はリュカに届いただろうか。リュカは小さく頷いてくれたから、きっと届いたと思いたい。

「今読むか?」
「いえ……今はいいわ。後でゆっくり読む……。あなたは私にこれを渡したくて、探してたの?」
「あぁ、これを渡したいのと……あと、もう一つ理由が」
「何かしら?」
「俺と結婚しないか」
「……ん?」

 今、リュカはなんと言ったんだろうか。
 間違いでなければ、結婚しないかと言われた気がする。
 しかし、そんなことはありえるはずがない。

 よし、もう一度聞き直してみよう。

「今何と?」
「俺と結婚して、この国の王妃になってほしい」

 …………ん?
 

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