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プロポーズ?
しおりを挟むいや、いやいや。いやいや――――。
「……何言ってるの?」
まさに青天の霹靂だ。まさか、王族の地位を失った自分が他国の王族に求婚されるだなんて。
王族にとって結婚とは政治の大事な切り札だ。外国との結びつきを深めたり、国内勢力の安定を図ったりと、使い道はいくらでもある。
そんな大事な結婚を、敵国の廃された王家の生き残り王女に申し込むなんて、一体どういうつもりなんだろう。
冗談かと思った方が自然だったが、リュカの顔は恐ろしく真剣で、冗談を言っているようには見えなかった。
「まぁ、まずは話を聞いてくれ。俺は今年で27になるが、この年になるとさすがに身を固めろと周囲がうるさい」
この人27だったんだ。とまずミリアムは思った。ミリアムの3つ上だ。
王族なんて、10代のうちに結婚する者も多い。王位継承権一位の王子が30近くになっても結婚をしていないとなると、たしかに周りからはせっつかれて仕方ないだろう。ミリアムも今頃まだ王族にいたら、もしかしたらとっくに結婚していたかもしれない。
「俺は事業をやっていて、正直そちらの仕事が忙しく結婚にはあまり乗り気ではないんだ。しかしもうすぐ王位を継承するとなると、タイミング的にその前に結婚してしまった方がいい」
「ちょっと待って……今王位を継承すると聞こえた気がするんだけど?」
「あぁ、そうだ」
ミリアムは頭を抱えそうになった。 つまり、もしリュカと結婚するとなると、自動的に王妃になるということだ。
「聞いていいのか分からないけれど……お父上のお加減があまりよくない、とか……?」
「いや? 父は元気だ。ピンピンしている」
「つまり存命中に退位なさるの?」
「そういうことになる」
「そう……進んでるのね……」
ミリアムの母国、グリマルディでは王が存命中に王位が継承されたことは過去一度もなかった。グリマルディは歴史と伝統を重視する老大国だったからだ。
「どうして私? 私を武器に、グリマルディに内政干渉でもするとか? 植民地でも欲しいの?」
自分と結婚したときのメリットなんか、それしか浮かばない。あとはデメリットだらけだ。
例えば、表向きには死んだとされているミリアムの生存が判明して、そのミリアムを娶ったとなると、革命派が政権を握っているグリマルディとの関係が悪くなるだろう。……まぁ元々国同士の仲は悪かったわけだから、今更かもしれないけど。でももしかしたらミリアムを殺そうとグリマルディから刺客が来るかもしれない。
あとは、ミリアムを担ぎ上げたい王党派が隆起し、グリマルディで内乱が起きて、それに巻き込まれるかも。
それに、リュカの国内での支持はどうなるのだろうか。敵国の元王族の姫と結婚なんかして、国民に受け入れられるんだろうか? これから王になるのなら、尚更国民の支持は大事になるんじゃないのだろうか? 諸外国の反応は?
ダメだ、考えれば考えるほど、デメリットしか出てこない。
反対に、ミリアムがリュカと結婚した際のメリットはなんだろう。それこそ数えきれないほどある。
まず第一に、身の安全が保障される。もうスラム街でこそこそ身を潜める日々に戻らなくてもいい。さらに、王妃という立場までついてくる。
王妃という立場を利用すれば、“あの男”に復讐するのも容易になるだろう。ミリアムの家族が殺された原因、革命が起こってしまった原因のあの男に……。
記憶の中の“あの男”の姿を辿ろうとすると、胸の中で砂嵐が起こるようだ。風がビュンビュン吹き付けて、攫ってきた荒い砂が心臓にぶち当たって細かい傷をたくさん作る。
「おい、聞いているのか?」
「えっ……ごめんなさいぼうっとしてた」
自身の最大のトラウマとも言える男の存在を思い出したせいで、意識が飛んでしまっていた。リュカは何を言っていたのだろう。
「ならもう一度言うが、俺はグリマルディの内政に干渉するつもりは一切ない。植民地だなんて時代遅れなものはもってのほかだ」
はっきり言い切ったリュカの姿を見て、ミリアムはほっと安堵の息を吐いた。母国が植民地にされてしまうのは嫌だったからだ。
しかし、それならば本当にリュカがミリアムと結婚するメリットは何にもなくなってしまう。
「ちなみに、どうして私なの?」
リュカは第一王子で、事業もやっていてお金もあるみたいだし、さらに言えば妖精王のような美丈夫だ。国内外問わず相手には困らないだろう。そんな中、ミリアムに結婚を申し込む理由が気になった。
リュカとはスラム街で会ったのが初めてだったから、元からミリアムを好いていたようには思えないし、まさかスラム街で汚らしいぼろ布を纏っている女に一目惚れしたわけでもないだろう。
「立場的に俺の結婚は大きな影響を及ぼしてしまう。他国の姫を娶ればその国との関係は良好になるだろうが、他方で選ばなかった国とは関係が悪くなるかもしれない。国内も同じだ。どの家の娘を選ぶか、それで国内の情勢や政治に変化が生じる」
「たしかに私なら、そういった影響は最小限に抑えられそうね」
「あぁ、家柄や血筋的にも問題ない。なにかとうるさい家臣や貴族たちもその点においては文句は言えないだろう」
もうその家ないけどね。と思ったミリアムであったが、もう家がないからこそ、血筋だけがあってなんの力もないミリアムだからこそ、リュカはミリアムに結婚を申し込んだのだろう。そう考えると、リュカにとってミリアムはうってつけなのかもしれない。
リュカがこの歳になるまで結婚を拒んでいた理由が分かった気がした。それと同時に、リュカはミリアムが知っている王族という人種の常識からは少し外れている人間なんだと思った。
普通自国の利益や自分の立場を固めるために手段として使うはずの結婚を、リュカは使いたくなかったのだ。
リュカはもしかしたら、今までミリアムが出会ったことのないような人間なのかもしれない。けして悪い印象は抱かなかった。むしろ、好印象だった。
しかし、ミリアムは戸惑っていた。
どうしよう。行く場所のない自分にとって、リュカの提案はこの上ないほどの僥倖だ。この申し込みを受け入れたら、ミリアムは不自由のない生活と安全を手に入れられて、さらにはあの男への復讐も叶うかもしれない。
だけど、ミリアムにはどうしてもこの結婚を受け入れられない理由があった。
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