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5 番ではない女の話1(リュシー視点)
しおりを挟む私が彼女と出会ったのは魔術治療院だった。
魔術治療院では魔法を使った移植医療に力を入れていて、私は目に、彼女は心臓に問題を抱え、それぞれドナーが現れるのを待ちながら入院生活を送っていた。
同室の私と彼女はとても仲が良かった。私は目が悪いから病室内で過ごすことが多かったし、心臓の悪い彼女はベッドから動くことが出来なくて、やはり病室内で過ごすことが多かった。
だから、診察や検査がない時には二人でずっと話していた。
同種、同性、そして同年代。そうなると、話題はどうしてもまだ見ぬ番のことになる。
「ねえ、リュシー。……私の番はどんな人なのかしら」
ほう、と恋するようなため息をついて、ベッドの上の彼女がつぶやいた。動けない彼女は番を探しに行けない。その分、番への憧れが強いのだ。
名を呼ばれた私はそちらに意識を傾ける。大好きな親友の声。ままならない視界の中で、彼女に名を呼ばれるだけですごく嬉しい。
目の見えぬ私も番探しには行けないので、彼女の気持ちはよく分かる。生活のほとんどを病室に縛られている私たちには番と出会える機会はほとんどない。
「そうね、貴女は優しくて素敵な女の子だから、きっと貴女の番も優しくて素敵な男の子よ」
「やだわ、リュシーったら。そんなお世辞ばっかり。リュシーは私の顔を見たことないからそんなことが言えるのよ」
「あら、見えなくたって、貴女の声を聞けばわかるわ。優しくて、とても素敵な声だもの」
「ふふふ、ありがとう。私の大好きなリュシー。リュシーもとってもキレイで素敵よ。それに、笑顔が可愛いの。だから、きっとリュシーの番もキレイで思いやりのある、笑顔の素敵な男性ね」
「そうだといいなあ……。でも、今のままじゃ見えないのよね」
病室のベッドに腰かけて、ため息を吐く私。
「……ねえ、リュシー」
「なあに?」
「私ね、ドナーが見つかって健康になったら、自分の番を探しに行きたいの」
「私も、ドナーが見つかって目が見えるようになったら、番を探しに行きたいわ」
――そんな風に。『彼女』と私はいつも語り合っていた。
魔法を使った移植はすぐに終わるし成功率が高いけど、その分繊細で同じ型の魔力を持つ者同士でしか移植が出来ない。それなのに、『彼女』と私は奇跡的に魔力の型が一致していた。
私が必要なのは目で、彼女が必要なのは心臓。それぞれ別の臓器を必要としている。
つまりは、一人のドナーが現れれば二人が共に移植を受けられるのだ。
魔力を同じとする私と彼女。
そんな二人が偶然にも同じ部屋となり、共に移植を必要としていて、同じドナーを待っている。
『病める時』も。
『健やかになる時』も二人は一緒。
二人の間にある驚くほどたくさんの共通点。もはや運命的とすらいえる。
「ねえ、リュシー。もしかして私とリュシーが番なんじゃないかしら?」
彼女が大真面目にそんなことを言い出すぐらいだった。
私と彼女は同じ魔力の型を持っている――。
こんな偶然があるくらいだから同じ魔力を持つドナーもすぐに見つかるだろう――そう思っていたのに、ドナーはなかなか見つからなかった。
彼女と私が仲良くなる一方で、時間だけがどんどん過ぎていく。
そんなある日のこと。彼女が一つの提案をしてきた。
「ねえ、リュシー。こうなったら二人で賭けをしない?」
「賭け?」
「ええ。このままではいつドナーが見つかるか分からないでしょう? でも、私たちは同じ魔力の型を持っている。だから二人のうちで先に死んだ方が、残った方に必要な物を提供するの。私が先に死んだらリュシーには私の目をあげるわ」
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