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23 ナイショの話(ふわふわ耳視点)
しおりを挟むあの子が泣きながら怒っている。
私があの子に
『番を見てきてほしい』
――なんて頼んだから。
「女好きの、遊び人……。…自分の番が見ていると誤解しているのに、こちらへ見せつけるようにあんなことや、こんなこと。……ひっく…、あんな男は貴方に相応しくないわ。うう……っ、酷い、ひとこと言ってやりたい……!」
声を震わせて。しゃくりあげながら、私との約束通り一生懸命に報告をしてくれるリュシー。
相変わらず素直で優しい子。私の為にそんなに怒ってくれるのね。
貴女は自分は歪んでいるとよく言っていたけれど、それは違うわ。
孤児院で育って。目が見えないことで更に周囲から傷つけられて。大変な人生を歩んできた貴女だけれど、貴女はその歪み方まで真っすぐなの。
まだ、自分の病気がそこまで酷いと気が付かなかった頃。両親についていった慈善活動で、領地の孤児院に居た貴女を覚えている。
配られた飴玉をポケットいっぱいに詰め込んで喜ぶ子供達。貴女はその輪から外れ、ぺしゃんこになった自分のポケットに動じることなく、たった一つの飴玉を大事そうに握り締めていた。
そうしないと全ての飴玉を奪われてしまうから。
だから私は貴女に声をかけて。自分が食べるために持っていた飴玉を貴女の口に入れてあげたの。だって、そうすれば他の子に奪われたりはしないでしょう?
目をまん丸にして驚いた顔。
そして、その後に浮かんだ満面の笑みを私は忘れない。
目が見えない貴女は気が付いていないかもしれないけれど、いつだって貴女の表情は真っすぐで嘘がなかった。
――それは見えるようになった今も変わらない。
誰に聞いても美しいと言われるであろう奇麗な顔を涙と鼻水でグシャグシャにして。
顔を真っ赤にしながら。
何かを取り繕うことも無く。
心のままに、怒ったり泣いたりする親友の姿に目を細める私。
人生のほとんどをベッドの上で暮らしながらも。
貴族ならではの歪みと陰湿さの中に身を置いてきた私にとって――それはとても眩しい物だった。
問題だらけの家族から逃げるように魔法医の先生の病院へと入院して。
その後、年齢や体格や種族が同じ貴女が偶然にも同室になって。
魔力までもが奇跡的に一致していた私とリュシー。
「ねえ、リュシー。もしかして私とリュシーが番なんじゃないかしら?」
思わずそう呟いた私の言葉を馬鹿正直に否定しながらも、嬉しい、と顔に書いてあった可愛いリュシー。
あんなにも出来過ぎた偶然を、貴女は素直に信じていた。
そもそも同じ魔力を持った人なんて、世の中には早々居ない。出会うのは奇跡と言われる運命の番だって魔力は別だ。だからそんな相手に出会えば、それを身近な人に話したくなる。
……恐らくはそれを覚えていたのでしょうね。家族の歪さには十分気が付いていた筈なのに、油断して貴女を巻き込んでしまった自分が許せない。
作られた偶然に内心恐怖しながらも表面上は笑顔を崩さなかった私。信用して心を許している貴女の前ですらそんな風に表情を取り繕ってしまうのよ。ほらね、私の方が歪んでいるでしょう?
貴方は私を優しいと言ってくれるけど、作られた偶然と同じように作られた優しさに価値はあるのかしら。
あの日、貴女が困るのを分かっていてとった私の意地悪な行動を、貴女は許してくれるかしら。
毎日たくさんの事を話していた私達。それは嘘じゃないわ。友人がいなかった私にとって、リュシーは初めてできた、大切なお友達。家族よりも信用しているの。…そのあたりまでは話したわね。
番に興味がある。探しに行きたい。幸せになりたい。失敗したくない。――それも、嘘じゃない。
だけど――あえて話さなかったことがあるの。
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