【完結】番が見ているのでさようなら

堀 和三盆

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57 モテモテ猫、犬獣人騎士から無自覚ざまぁをされる(番視点)

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 犬の話によると……この、一見宝石にしか見えないネックレスの先についた石は、保管石という医療用に使われる魔石の一種らしい。

 命に危険をもたらすような病を抱える者は魔法医から即効性のある魔法薬を処方してもらうことが多いそうで、そんな魔法薬の薬効を失わせることなく保管出来るのがこの保管石――なのだそうだ。コレはさらにそれをネックレスに加工した魔道具らしい。


「医療用の……と、言うことは俺の番は……」

「獣人でコレが必要ということは、相当症状が重かったんだろうな。オレも親戚の嫁さんが人間だったからたまたま保管石を何度か見たことあったんだが、それでもここまで大きいものは見たことがない。どんな魔法を処方されたのかは知らんが、ここまでの大きさが必要ということは、あのお嬢さんは相当難しい病気だったんだろうな」

「そんな……」

「でも、良かったじゃないか。必要なくなったってことは、もう病気が治ったか……少なくとも良くなったってことだ。ウチの先生のお陰だな!」

「先生…?」

「――そ。うちの先生はかなり腕のいい魔法医師だからな」




 その後、俺は山のような書類にサインをさせられた。

 おせっかいな犬にその都度内容の説明を受けたが、要するに今後、番に近づかないこと、番の主治医に近づかないことを条件に釈放するということだ。

 俺に選択肢なんてない。

 絶望的な気分でのろのろとサインをする間、犬は俺を慰めているつもりか様々な情報で俺の心を抉り続けた。


「まあ、あれだ。あのお嬢さんも随分小さい頃からウチの先生の所に一人で通っていたらしいからな。それで病気が治ったんだから、もう、運命だよ。お嬢さんも随分ウチの先生には懐いていたし、それだけ恩義を感じているんだろ。まー、オレたち獣人は命を助けられたりすると、命の恩人に対して特別な感情を抱くことがあるっていうからな……それが、ポッと出の番との縁を越えちまっただけの話かもしれないな。大丈夫。うちの先生ちょっと変わり者だけど、浮気をするようなクズな男とは違うから!! きっとあのお嬢さんも幸せになれるって!! あのお嬢さんの番がどういうヤツかは知らないが……って、ああ、そうかお前さんか。うん、まー、なんだ。ウチの先生いい意味で貴族らしくないっつーか、とりあえず甲斐性だけはあるから心配すんな! 例え家が没落したって、同程度の暮らしにサクッと戻れるくらいの実力と人脈はあるからな! 何と言ったって、ウチの先生は国おぅ……っと、流石にこの辺はまずいか。守秘義務、守秘義務っと。とにかく、魔法医の職はどこの国に行ったって引っ張りだこだから婚姻相手としたら最高だろ。とはいっても、忙し過ぎて貴族のお嬢さんからは不人気みたいだが……ん? そういえばあのお嬢さんも貴族だな……となるとやっぱ運命か?? 先生にしたって、今までどんな良縁があったって気付かないっつーか無視してきたのに、あのお嬢さんには自分の研究時間を割いてまで特別扱いしていたからな。女神様しかご存じのない何か特別な縁でもあるのかもな。何にしても身分差もなく治まるところに治まったって感じか? ウチの先生の場合は嫁に来てくれる相手がいただけで周囲の人間も一安心だろうしな。そういう訳でお嬢さんのことは甲斐性もある真面目な先生に任せておけば大丈夫だから、お前さんは安心してそれまで通りの生活に戻ればいいさ! で、迎えに来てくれるような職場の上司は……あ、無職……そうか…………」

 俺のライフは0だった……。



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