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6 魅了持ち不審者令嬢の選択
しおりを挟む「……どうやって、ここに入ってきたのですか? もし、自由に気付かれずに部屋まで入ってこられるのだとしたら、前提条件が崩れます。貴方はこの一カ月私から距離を取ってくれていた。旧校舎の屋上から私の行動を見守るだけだった。だからこそ魅了の影響はないと判断しましたが、こっそり入ってきていたのであれば、その時に魅了されていた可能性が出てきます」
「ああ! そのことか! 安心して。僕が部屋に入ったのは今日が初めてだよ。あはは、好きな人の部屋って緊張するね。いつもはプロの王家の影に任せているから」
「プロ…の、王家の影……? ……いつも??」
「そう! 君のお父上は凄いね! 魅了持ちの家族がいると変なのに目を付けられやすいからって、かなり警備が手厚いらしいよ。僕の面倒を見てくれていた、影の父さんたちが感心していた。今日は君のご両親は王家の夜会に出席しているし、君のお兄様である次期伯爵は領地へと視察に行っていて、しかも他の兄弟姉妹がたまたま最近仲良くなった令嬢や令息から突然大人気の観劇に誘われたから警備が分散され手薄で入り込めたけど、普段は王家の影でも入るのにてこずるって言っていたから僕程度では入り込めなかったんだ。庭まで入り込んで双眼鏡で部屋をのぞくのが精いっぱいだった。だから、正真正銘、今が初めてだ。こっそり入り込んで魅了にかかったりなんかしていない。まあ、入り込んだところで既に君に恋をしているからね。今更魅了に惑わされたりなんてしないよ。君の魅了より僕の愛の方が強いから。だから、安心して?」
何一つ安心できない告白を悪気なく聞かされ判断した。王子の言っていることは本当だ。もし、入り込んでいたら彼は正直に言うだろう。
彼は暗部に育てられたというだけあって、やっていいことと悪いことの境界が人とはかなり違うようだ。でも、それゆえ彼の発言は正直で信用できる。
ずっと魅了の影響を受けるのが怖かった。
本心から私を好きになってくれる人なんていないと思っていた。
でも、目の前の彼はそれを私に与えてくれる。
あの日。見合いを断ることで私に希望を与えてくれた人。あの出来事だけが心の支えだった。
真相を聞けばなんか思っていたのとは違っていたし、正直、不審者と呼ばれていた私がドン引きするレベルでおかしな人だけど、彼とならば魅了スキルの影響を気にせずに生きていくことが出来るだろう。
でも、それは『彼』限定の話だ。王族である彼が表舞台に戻った今、それはそれで大きな問題がある。国の代表ともいえる王族の妻が、不審者なのはまずいのではないか。
「……私、この格好やめる気ないけどいいの? 貴方以外への効果は確かだし、ちゃんと自衛はしたいんだけど」
「勿論! 君は気付いていないかもしれないが、魅了などなくたって君は美しすぎるんだ。せっかくの防御を取り去って余計なライバルを増やしたくない。僕は素顔の君も素顔を隠した君も両方大好きだ。本当の美しさは僕だけが知っていればそれでいい。だからサングラスもマスクも好きなだけ続けていいよ。君を安全な座敷牢に閉じ込めたまま周囲に自慢できるのが嬉しいよ!」
さわやかに言ってはいるが言葉のチョイスがおかしい。長年、暗部に育てられてきたのが影響しているのだろうと思う。なんか、色々とおかしな人だけど。
その気持ちと覚悟だけはしっかりと確認できたから。
「……はい。これから、よろしくお願いします。婚約者様」
私は彼の手を取ることにした
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