【完結】私の番には飼い主がいる

堀 和三盆

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12 私の家族には飼い主がいる

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 領主様のお屋敷に、飼い主二人の元気な赤ん坊の声が響くころ――辺境伯様の元へ嫁いだ王女様に子供が生まれたという話を聞いた。2人目だという。

 意外だった。番よりも飼い主の幸せを優先していたヴァイス。王女様とヴァイスはあのまま上手くいったのだとばかり思っていたけれど――どうやら違っていたようだ。

 あの後、王女様は辺境伯様と恋に落ち、嫁いで行ったのだという。王女様の話はその後も時折入ってくるけれど、ヴァイスの話は聞かない。元気にしているだろうか。
 幼馴染として心配だ。

 まあ、あれだけ飼い主への忠誠心が強かったのだから、ともに辺境へと旅立ったのかもしれない。王女様を守るために身に着けた彼の強さは本物なので、辺境の地でも十分やっていけるだろう。

 それよりも――。


 本邸から赤ん坊の泣き声が聞こえた。どうやら、坊ちゃまがお昼寝から目覚めたようだ。元気な泣き声は本邸から近い別邸まで聞こえてくる。

 領主様が再婚されてすぐ。跡継ぎが出来た時、手狭になるだろうからと家を出ようとしたら二人から引き止められた。

 無理強いはしないけど、初めての子育てで不安だからできれば傍に居て欲しい――そう言われ、敷地内に家族で住めるような別邸を建ててくれた。

 赤ん坊のことが心配ではあったので、家族で話し合った結果、別邸住まいとなった。私としては飼い主に家族が出来て、前世の心残りは消えたからどちらでもよかったのだけれど、家族の方がすっかり次期領主さまに夢中になっていたのだ。


 私たちの耳を見て、キャッキャと手を伸ばしてくる次期領主さま――。どんなにぐずっていても、私たちが近くに行くだけで途端にご機嫌になってくれる。その笑顔が愛おしくて堪らない。


 洗濯の手を止め、つい声の方へと足を踏み出せば、馬車の手入れをしていたグレイと、オモチャの剣で稽古をしていた子供達、それを見学していた下の子たちも同じような行動を取っていた。

 もしかしたら。家族みんな、潜在的に次期領主さまを『飼い主』に認定しているのかもしれない。今の幸せは、彼を中心に広がっているものだから。

 いずれにしても。この子たちが大きくなるころには今以上に人間と獣人が仲良く過ごしやすくなっているに違いない――そう思う。


 ひと際大きく響く声に皆の顔が笑顔になる。家族みんなで手を繋ぎながら本邸へと続く道を急いだ。




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