14 / 20
14 消えた番(ヴァイス視点)
しおりを挟む俺は近所を必死になって探した。そこで、ハタと気づく。そうだ。彼女は再び働きだしていた。家に閉じこもっていると俺に会えないことで飼い主へ不満を抱きそうだからと――そう言われ、渋々ながら許可をしたんだ。
優しい王女様はそんな彼女と俺が少しでも会えるようにと、わざわざ恋人のフリをしてまで彼女の職場に連れて行ってくれた。
最初のうちはそれで会えていたけれど、タイミングが悪いのかまったく会えなくなってしまった。
王女様はその店を気に入ったようで、頻繁に連れて行ってくれたからその度に期待して周囲を見回していたけれど、一度も会えなかった。王女様が辺境伯様と出会ってからはそれすら無くなった。
今日は彼女――愛する番を驚かすために突然連絡もなしに帰ったから、行き違いに出勤をしてしまったに違いない。そう思い、俺はフルールの職場を訪ねたが会えなかった。それどころかフルールは店を辞めていた。
「そんな……転職したってことですか? 今はどこで働いているのでしょうか?」
「……番が知らないものを、ただの元雇い主が知る訳がないだろう。悪いが昼の仕込みがあるから帰ってくれ」
シッシと追い出されるように店を出た。心なしか、店主の口調や態度が冷たい気がする。
居心地が悪いまま、フルールに手渡すつもりで持ってきた花束を抱えて、再び家へと戻ると人影が見えた。
フルールではない。家を覗き込むようにして立っている。怪しい動きだ。もしかして、フルールは何らかの事件に巻き込まれてしまったのではないだろうか。
「おい!!!!」
「にゃうっ!?」
ビクビクしながら振り向いたのはまだ子供の、女の猫獣人だ。そのことに少しだけほっとしながらも、警戒を緩めない。まだ、俺は彼女の無事な姿を見ていないのだ。
「お前は誰だ。人の家を覗き込んで何をしている。フルールとはどういう関係だ」
「! よ…良かった。フルールさんのお宅ですよね。私は洗濯業者です。週に一回、洗濯物の回収を頼まれているのですが、いつもは玄関先にある荷物が今日は見当たらなくて困っていたんです」
「ああ……そういえば、王宮から毎週洗い物を配送業者に頼んで家に送ってたな。フルールも洗濯は業者に頼んでいたのか」
王宮の部屋を引き払うことが決まっていたので、今週は洗い物を荷物と一緒に送ったのだ。荷物が家に着くのは午後になるだろう。
「今週はいい。と、いうか勤務形態が変わったからもう頼まないかもしれない」
「えっ。あ、あの。フルールさんからはウチの店に二年契約で頼まれてて、前払いで預かっているんですが……それは……」
「あ? ああ、そうだったのか。じゃあ、契約が切れるまでは利用するよ。そうだな、しばらくは二人でゆっくり過ごしたいし。丁度いいかもしれない。とりあえず、今日はいいから」
「そうですか! ありがとうございます。まいどー」
洗濯業者が帰り、王宮からの荷物も届いたが、フルールは帰ってこない。とりあえず何か食べようとキッチンに行くが、食材が何一つ置いていなかった。そこで、ようやく異常に気が付いた。
家の中はキレイだが、人の住んでいる気配がない。嫌な予感がしてフルールの部屋へと行けば、キレイに片付けられていた。荷物も、匂いも何もない。
何かがおかしい。慌てて馬車へと飛び乗り実家へと帰った。
しかめっ面の両親に出迎えられ、怒鳴られた。そこでようやく事態に気が付いた。
――既に、婚約解消から一年以上が過ぎていた。
278
あなたにおすすめの小説
『完結』番に捧げる愛の詩
灰銀猫
恋愛
番至上主義の獣人ラヴィと、無残に終わった初恋を引きずる人族のルジェク。
ルジェクを番と認識し、日々愛を乞うラヴィに、ルジェクの答えは常に「否」だった。
そんなルジェクはある日、血を吐き倒れてしまう。
番を失えば狂死か衰弱死する運命の獣人の少女と、余命僅かな人族の、短い恋のお話。
以前書いた物で完結済み、3万文字未満の短編です。
ハッピーエンドではありませんので、苦手な方はお控えください。
これまでの作風とは違います。
他サイトでも掲載しています。
【完結】そう、番だったら別れなさい
堀 和三盆
恋愛
ラシーヌは狼獣人でライフェ侯爵家の一人娘。番である両親に憧れていて、番との婚姻を完全に諦めるまでは異性との交際は控えようと思っていた。
しかし、ある日を境に母親から異性との交際をしつこく勧められるようになり、仕方なく幼馴染で猫獣人のファンゲンに恋人のふりを頼むことに。彼の方にも事情があり、お互いの利害が一致したことから二人の嘘の交際が始まった。
そして二人が成長すると、なんと偽の恋人役を頼んだ幼馴染のファンゲンから番の気配を感じるようになり、幼馴染が大好きだったラシーヌは大喜び。早速母親に、
『お付き合いしている幼馴染のファンゲンが私の番かもしれない』――と報告するのだが。
「そう、番だったら別れなさい」
母親からの返答はラシーヌには受け入れ難いものだった。
お母様どうして!?
何で運命の番と別れなくてはいけないの!?
あなたの運命になりたかった
夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。
コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。
※一話あたりの文字数がとても少ないです。
※小説家になろう様にも投稿しています
【書籍化決定】憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜
降魔 鬼灯
恋愛
コミカライズ化決定しました。
ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。
幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。
月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。
お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。
しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。
よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう!
誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は?
全十話。一日2回更新
7月31日完結予定
憎しみあう番、その先は…
アズやっこ
恋愛
私は獣人が嫌いだ。好き嫌いの話じゃない、憎むべき相手…。
俺は人族が嫌いだ。嫌、憎んでる…。
そんな二人が番だった…。
憎しみか番の本能か、二人はどちらを選択するのか…。
* 残忍な表現があります。
『番』という存在
彗
恋愛
義母とその娘に虐げられているリアリーと狼獣人のカインが番として結ばれる物語。
*基本的に1日1話ずつの投稿です。
(カイン視点だけ2話投稿となります。)
書き終えているお話なのでブクマやしおりなどつけていただければ幸いです。
***2022.7.9 HOTランキング11位!!はじめての投稿でこんなにたくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです!ありがとうございます!
「君は運命の相手じゃない」と捨てられました。
音無砂月
恋愛
幼い頃から気心知れた中であり、婚約者でもあるディアモンにある日、「君は運命の相手じゃない」と言われて、一方的に婚約破棄される。
ディアモンは獣人で『運命の番』に出会ってしまったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる