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17 飼い主に捨てられた俺(ヴァイス視点)
しおりを挟む「困るわよ。うちの人、過去の人間関係には口出ししないけど、嫉妬深い人だから、過去に色々言われていた貴方に来られるとまずいの。獣人の番に対する愛情は有名だから別段怪しんではいないけど、破局したなんて知られたら疑われるかもしれないから余計なことは言わないで。あっちでお仕事は用意してあげたでしょう? あげた家も返さないでいいから、大事になる前に帰って頂戴。もうっ。こうならないように住む家をあげたのに」
……王女様の反応は俺の想像とは違っていた。予想していた慰めの言葉はなく、ただただ困らせてしまったようだ。
俺の存在は王女様にとっては迷惑でしかないらしい。
大丈夫よ、話せばわかってもらえるわ。番は番で結婚するのが一番よ。運命の番なんでしょう。彼女の為にも辺境の地になんて来ていてはダメ。王都で待っていれば、そのうち戻って来てくれるわよ。だから……ね? 貴方の為にも番ちゃんの為にも用意してあげた家へと戻った方がいいわ。
――番の為と言いつつ、自分の生活を守ろうと必死になる王女様に、信じられないモノを感じるのと同時に既視感を抱いた。
それで思い出した。
前世、俺を助けてくれた飼い主だった彼女。何度も失恋し、行き遅れそうになっていたところ、少し年上のそれまでとはタイプの違う男性と恋に落ち、飼い主は幸せそうに旅立って行った。
――――俺を残して。
「ごめんね。彼、アレルギーがあるから貴方のことは連れて行けないの。でも、ちゃんと飼ってくれる人を探したわ。お友達が引き取ってくれるから大丈夫よ。シロも元気でね」
輝くような笑顔で。好きな男性の元へと旅立って行った彼女。
ああ、なんだ。前世も、ちゃんと彼女は幸せになっていたんだ。飼い主にとっては、俺の存在だけが邪魔だった。
――――今世も同じ。
おそらくは、ショックでそのことを忘れていたのだろう。まるきり前世をなぞっているような状況に笑えてくる。
飼い主からすれば、余計なことを言われるのは困るのだろう。俺が予定通り番と幸せな婚姻をし、王都で暮らしていくのが飼い主にとっては一番都合が良かった。
だから、親切にも家と仕事を世話してくれたのだ。俺をしっかりと、辺境とは離れた遠い場所へと繋いでおけるように。
その後、挨拶に来た辺境伯様には番と上手くいっていないことは言わなかった。新婚旅行のついでに立ち寄ったことにした。番に会いたいと言われたが、他の異性に見せたくないからと断ったのでバレてはいない。
挨拶をしたかっただけだからと早々に立ち去ると、王女様はあからさまにホッとしていた。
王都に戻った俺は飼い主が番と俺の為に与えてくれた家へ住み、番と俺の為に用意してくれた騎士団の仕事に就いた。小さいながらも平和な国だ。空っぽな心でも問題なく仕事はできた。
安定した、穏やかな日々。そこに、いるはずだった番だけがいない。無気力に時間だけが過ぎていく。
そして。
十年近くがたった頃。消えた俺の番――フルールの情報が手に入った。
どうやら、彼女は領主様のお屋敷で暮らしているらしい。既に子供がいるそうだ。そして――驚いたことに領主様は彼女の飼い主らしい。
俺と同じように、俺の番にも飼い主がいたようだ。そのことに、僅かばかりの期待が産まれる。
同じ飼い主持ち同士。今なら説明すれば俺の気持ちを理解してくれるのではないか――と。
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