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20 『ずるい』『すごい』こわい……
しおりを挟む高位の魔法使いはその素性を隠すために、お母様の実家の侯爵家を介しての留学生ということになっている。それがこの伯爵領を気に入り住み着いた……という形だ。
侯爵家では主力となっている物流業に魔法使いの魔力を使用している為、その説明でおかしくはない。彼も、生活するために侯爵家に魔力の提供は行っていたから嘘ではない。
だからこそ、私もその伝手で彼の連絡先を教えてもらえたのだ。
高位の魔法使いが珍しく自信なさそうにこちらを見ている。一見無表情なのはいつものことだ。目にだけ表情が出るのは、義妹の『ずるい』からお気に入りのアレコレを守る長い戦いの中で学んだこと。
恐らく彼はこの先の私の出方を不安に思っているのだろう。
しがらみの多い母国から離れ、我が伯爵領へと引っ越してきた高位の魔法使い。せっかく手に入れた彼の平穏な生活を奪う訳にはいかない。だから魔法のことは絶対に話せない。
「…………くそっ、一足遅かったか。伯母上……王妃陛下から話を聞いて、嫌な予感がして急いで来たのだが……義妹さんの本を渡すんじゃなかった。社交の場で取り上げてもらえて、売れ行き好調なのは狙い通りだったが、まさか王太子殿下まで食いついてしまうとは……」
公爵令息様も難しい顔をして何やらブツブツ言っている。義妹だけでなく私にまで気を遣って好物のクッキーを差し入れてくれるくらいお優しい方だから――心配をしてくれているのだろう。
穏やかに、のんびりと。高くなくていいからお気に入りの物に囲まれて。忙しい当主の仕事を全力で行えるように休憩時間を目いっぱい楽しみたい。
私はそんな思いで義妹の『ずるい』を封印したのだ。
今でさえ、『すごい』のせいで余計な仕事が増えて、理想の生活からかけ離れているというのに。この上、王太子殿下まで関わってくるとか冗談じゃない。
それにしても……。
『ずるい』が『すごい』に変わったところで、面倒なことに変わりないとは……。
確実に私を追い込んでくる義妹の才能が怖すぎる。
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