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3 利害の一致
しおりを挟むまだ小さかったあのときの、お母様が私に向けた表情の抜けたような顔は、どうしても忘れることが出来ない。
それでも私はお母様のことが大好きなのだ。
お母様との暖かい思い出だってちゃんとある。16歳になった今でも思い出せるわ。
乳母に頼ることなく、毎日、私を寝かしつけてくれたお母様。
そして眠っているお父様を気遣って、小さな声で歌われる子守歌。
ささやきよりも小さな声だけど、私の獣の耳はしっかりとお母様の優しい歌声を拾うことが出来た。調子を取るようにお布団の上からトントンと優しくたたかれて、そのことで感じられる心地よい振動も音と共に覚えている。
お父様譲りのとっても感度の高い耳が嬉しかった。
ただ、時折。子守唄を歌いながら愛しそうに頭を撫でてくれるお母様の優しい手が、私の獣の耳で一瞬止まって。すすり泣きのような声が混じることがあった。
お母様の優しい歌声はすぐに私を眠りの世界へと連れて行ってくれたから、夢うつつの中のことではあったけれど。
多分……お母様は国に残してきた家族のことを思い出していたのだと思う。それもあって、私は誰かとお付き合いをしたいとは思えなかったのかもしれない。
そういった面では幼馴染の彼とはとてもよく気が合った。
当時、彼も貴族として色々な思惑から女性との付き合いを薦められて辟易していた。けれど、彼は明確に番との婚姻を望んでいた。
……だから。
だから、あのとき。私は幼馴染のファンゲンと――恋人のフリをする約束を交わしたのだ。
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