◆青海くんを振り向かせたいっ〜水野泉の恋愛事情

青海

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青海くんと真実

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 ベッドで眠る青海くんを見つめる。

 「うっ……ごめ……さいっ……」

 うなされている青海くんの手にそっと触れる。

 「青海くん、大丈夫だよ」
 声を掛けるが青海くんに伝わっているのかはわからない。

 そのまま青海くんの手を握っていると落ち着いたのか青海くんは静かに眠り続ける。

  真実の手とはだいぶ違う。
 ゴツゴツとした真実の手とは違って、ほっそりとした手だった。
 
 着せられたパジャマの首筋には火傷の跡なのか色が変わってしまっている肌が少し見えた。

 ……痛々しいな……
 目を逸らそうとして思いとどまった。
 見ているのがツラいからといって目を逸らしてしまったら何も気づけなくなってしまうような気がする。

 そっと深呼吸して青海くんを見つめる。
 青海くんの事こんなにゆっくり見たのは初めてだった。

 

 「泉ちゃん、透についててくれたのね。ありがとう」
 青海くんのお義母さんが慌てた様子でやってきた。
 「青海くん……ずっと寝てて起きないんです……」
 そういうと青海くんのお義母さんは困ったように微笑む。

 「透、ちょっと疲れちゃったのね。私たちのところに来てからずっと頑張ってたから。しばらくこのまま休ませてあげるわ。透を……もっと早く見つけてあげれれば良かったんだけど……」
 お義母さんはそれ以上何も言わずに優しく青海くんの頭を撫でる。

 
 
 ★


 事件が明らかになり、私と真実は何度か状況説明をさせられた。

 破かれた制服と腫れた頬……その状況で私たちに不利な事は無いと父は言っていたので余り心配はしていなかった。
 
 私を脅迫しようとしていた男子生徒はひっそりと処分されたと聞く。

 周りにも公になっていなかったため、普通どうりに出席しても大丈夫だと担任に聞かされた。


 
 父も怒っていたが、厄介なことにこのことがおじいちゃんの耳に入ってしまったようだ。
 
 男子生徒には殴られた以上のことはされていなかったが、きちんと検査をしなさいと病院に連れて行かれ、過保護過ぎる扱いを受ける。

 「いずみ、本当に大丈夫かい?口の中とか切れてないかい?

 仕事が忙しいはずなのにおじいちゃんは私につきっきりで心配し始めてしまう。

 そんなおじいちゃんを母が宥めてくれた。
 
 本当にもう頬の腫れもひいたし、身体は何の問題もなかった。

 ただ、青海くんがずっと眠り続けていたのが気になり、一晩だけ一緒に入院させてもらうことになった。

 「泉がわがままを言うなんて久しぶりだねえ」
 おじいちゃんと眠っている青海くんを眺める。
 「ごめんなさい、青海くんのそばにいてあげたくて……」
 そう言うとおじいちゃんは嬉しそうに微笑んだ。
 「そんなことくらい別に構わないよ。それより泉は青海くんのことは平気なのかい?」
 私は眠り続ける青海くんの手に触れた。
 「青海くんの事……助けてあげたかったの。私……青海くんを1人にしたくない……」
 
「そうか」
 おじいちゃんは何も言わずに私の肩を優しく撫でて、帰って行った。

 
 

 ★


 その晩寝付けずに私は青海くんのそばにいた。
 月明かりが綺麗な満月の晩だった。
 青海くんの寝息を聞きながら月を眺める。

 突然ここが深夜の病院であることを思い出して少しだけ怖くなっていたところに青海くんが目を覚ました。
 「んっ……水野さん……大丈夫?」
 青海くん起き上がるなり私の頬に触れる。

 「うん、もう大丈夫。少し痛むだけだから」
 不思議と青海くんに触れられることは嫌ではなかった。

 月明かりに照らされる青海くんの顔はとてもきれいで、儚く見えた。
 「でも、怖かったでしょ」
 青海くんは何かを思い出したようで顔を歪める。

 ……青海くんはこういうこと……何度も経験してきたんだな。
 そう思ったら悲しくて仕方なくなる。



 気づいたら泣いてしまっていた。
 「水野さん、もう大丈夫だから。これから何があっても真実と、オレが側にいるから……」
 青海くんは優しく私の背中に手を伸ばして、撫でてくれる。

 私はそんな青海くんの肩に顔を押しつけて泣き続けた。
 ……青海くん……優しくって、いい人なんだな。
 ホッとしたら気が抜けたのか、私は眠ってしまっていた。

 




 私はいつも通り登校し始めた。
 身体は何ともないしあまり休むと変に思われるだろう。
 青海くんも翌日には退院したという話を聞いた。
 それなのに青海くんは学校に来なかった。
 かれこれ一週間になる。
 青海くんはまだ気分がすぐれずに家にいるんだろうか?


 ここ2、3日、真実も青海くんを心配しているようで、朝登校すると真っ先に青海くんの下駄箱を覗き込んでいた。

 「透今日も来ないな。アイツ何やってんだよ」
 真実はそういうなり靴を履き始める。
 「え、真実どうするのっ?学校は!?」
 「んっ?ああ俺風邪引いたみたいで頭痛いから休むわ、担任にそう言っておいてくれよ」
 真実はそう言うなり帰って行ってしまった。

 ……。
 
 私は1人取り残される。


 
 その日の夕方暗い顔で帰ってきた真実に話を聞こうとするが何も教えて貰えなかった。

 



 翌日も、その翌日も青海くんは学校にこなかったし真実も途中で帰っていた。

 4日目の朝、我慢しきれなくなり真実に声を掛ける。

 「真実、毎日どこに行ってるの?青海くんといるの?」


 そう聞くと真実は心底困ったように呟く。
 「今アイツを1人に出来ないんだ。今のアイツ何するかわからないから……」

 真実の言葉によって無性に心配になり、今日は無理にでもついて行こうと思った。
 「いいけど、下手に声かけるなよ?」

 
 

 私たちは学校に休むと連絡を入れて駅に来ていた。
 「真実、どこに行くの?」
 「ん?ああ、多分いつものところだと思うぜ?」

 程なくして私服姿の青海くんが向こうからやって来て、私たちに気づくことなく駅の改札口をくぐって行った。

 「よし、付けるぞっ」

 少し距離を空けて青海くんの後を追いかける。

 青海くんはどこに行くつもりなんだろう。

 青海くんの顔を遠くから眺めるが青海くんの表情は暗い。


 

 青海くんが来たのは家のそばの駅から離れた海の見える場所だった。

 青海くんは何かに引っ張られるように海岸へ向かって歩いていく。

 今日は風が強く波も荒れている。

 少し寒いくらいだ。

 海から吹く風は塩気を含んでいるようで身体がべとついていくようだった。

 砂浜に降りた青海くんはそのまま波打ち際まで歩いて行った。

 「シンジっ?!」

 慌てて真実を見上げるがただ黙っていろと言われた。

 青海くんは流れ着いた流木に腰掛けると海を眺め始める。

 「ここ3日、ずっとああしてるんだ。他に何をするわけでもないし夕方にはちゃんと家に帰ってるし、問題はないんだが……」

 真実はそのまま青海くんを見つめ続ける。

 「ただ目を離したらアイツは居なくなるような気がして、それが怖い」

 その言葉にゾッとする。

 青海くんがあのまま海に向かって歩いて行ってしまったら……。

 

 そのまま数時間私たちは何もせずにただ青海くんを眺めていた。

 ……いい加減寒くなってしまう。

 「ったくだから連れてきたくなかったんだよ。お前あっちに喫茶店あるから入って何か飲んでろよ。帰る時声かけるから」

 真実はそういってくれたが移動する気になれなかった。

 青海くんを見つめ続ける。

 青海くんも寒いのかくしゃみをしているようだ。

 「アイツ寒いんなら家に帰ればいいのに何やってるんだよ!」

 不意に真実はそう言いながら立ち上がる。

 そのまま青海くんのそばまで走って行ってしまった。

 慌てて私も立ち上がるが砂に足を取られて思うように走れなかった。


 遠くで真実が青海くんを蹴ったり、抱きしめたりしている。

 訳がわからないが青海くんは笑っていた。

 良かった。

 大丈夫そうだ。

 ホッとしながら2人のそばに行こうとして足を滑らせる。

 砂浜なので痛くはなかったが、なんだかとても悔しくなってしまった。

 転んだ私を見て慌てたように青海くんが走ってくる。

 「水野さん大丈夫?」

 やっぱり寒かったのか顔を赤らめ、息を切らせた青海くんが手を差し出してくれた。

 差し出された手に思わず身体が強張る。

 腕を掴まれた時の男の子の手は怖かったし、押し倒された時の力強さも怖かった。

 ふと青海くんの顔が視界に入る。

 少し泣いたのか目が赤い。

 それでも私を心配してくれた青海くん。
 
 ……青海くんの手はいやじゃない。

 いやじゃない青海くんの手を取ったら何かが変わるだろうか?


 私は青海くんの手に触れた。

 青海くんは私の手を握ると案外強い力で私を立たせてくれた。

 「ごめんね。待たせちゃって、風邪引いてない?」

 そう言いながら青海くんは笑ってくれた。

 立ち上がると青海くんは手を離す。

 なんだか少し寂しい気がした。

 その寂しい気持ちがなんなのかは分からなかった。

 「早く帰ろう?みんな心配するから……」

 そう言うと真実が思い出したかのようのボソリと呟いた。

 「そうだな。腹も減ったしな。どっかで何か食って帰ろうぜ?景気付けに何か奢ってやるよ。透、何がいい?」

 青海くんは悩み始める。

 「う~ん、何かあったかいものがいいな……」

 「それならラーメン食ってこうぜ?」

 真実は嬉しそうに笑った。

 私もなんだかホッとして、自然と笑顔になれた。

 

 
 
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