◆青海くんを振り向かせたいっ〜水野泉の恋愛事情

青海

文字の大きさ
28 / 70

クリスマスの季節

しおりを挟む
 12月も後半に入り、もう後何日かでクリスマスである。

 学校も冬休みに入り、青海くんは毎日アルバイトに出かけていた。。

 クリスマスまでの三日間、青海くんは街のケーキ屋さんの店頭でケーキを販売するらしい。


 寒いから大変そうだが、みんながニコニコしながらケーキを買って行ってくれるのが嬉しいと青海くんが話してくれた。

 
 「じゃあ行ってくるね」

 コートに真実のお下がりのマフラーを身につけた青海くんはそれでもまだ寒そうだった。

 「気をつけて、頑張ってきてね」

 私は青海くんに袋を開けたばかりのカイロを渡す。

 「うん、ありがとう」

 青海くんが微笑んで元気に出かけて行った。






 
 今日は12月23日……雪こそ降ってはいないが日差しは弱く、寒い日だった。

 私は午前中の勉強を済ませて、午後は料理の本を眺めていた。

 ……今日の夕飯どうしようかな……

 おそらく冷たくなって帰ってくる青海くんを労ってあげたい。

 そうなるとお鍋かしら……?


 
 そんな事を考えていると部屋に真実が来た。

 「泉、ちょっと出掛けてくるぞ」

 どこか楽しそうな真実の様子。

 「帰るの遅くなる?夕飯どうするの?」

 そう聞くと真実は私の見ていた料理雑誌に目を落とす。

 「夕飯までには帰るよ。今晩何にするんだ?買い物大丈夫か?透が気にかけてたけど……」

 「今晩はお鍋にしようと思うんだけど……青海くん身体冷やして帰ってくるだろうし……もう少ししたら買い物に行くけど、一人で大丈夫だよ」

 真実がそんな事を言ってくるのは珍しい。

 どうしたんだろうかと思い真実を見つめると、どことなくそわそわとした様子の真実がわたしから視線を逸らした。

 「それとさ、今年はクリスマスの日……俺にも夕飯作り手伝わさせてくれないか?……ほら透バイトだろ?あいつが帰ってきたら3人でパーティしようぜ?」

 照れたようにそう言い出した真実。

 真実……青海くんとクリスマス楽しみたいんだなあ、

 ……そういうことかと思わず微笑む。

 「うん、チキンとかはおじいちゃんが用意してくれるって言ってたから……あとはちょっとしたものとか2人で作ろうか。ケーキは青海くんが用意してくれるって言ってたよ」

 真実も青海くんの為に何かしてあげたいと思っていたんだ。

 そう思うと嬉しくなる。

 ホッとしたような顔の真実とクリスマス前日に買い物に行く約束をした。

 私の部屋を出て行く真実が去り際に気になる事を言っていた。

 「透は三日間サンタの格好してるみたいだぜ。揶揄いにでも行ってやるかな……」

 ……!!??

 なにそれ!?

 そんなの見てみたい!!


 1人になった部屋で私は1人悶々とする。

 ……青海くんのバイト先は一つ隣の駅の大きな商業施設だ。

 遠いわけではないので行こうと思えばすぐである。

 ……こっそり見に行くくらいならいいかな?

 私は素早く出かける準備をする。

 






 冬休みに入っていたのでこの施設も人で溢れていた。

 ドキドキしながらお目当てのケーキ屋さんを発見し、遠くから青海くんを探す。

 サンタさんの格好してるなら目立つだろう。

 そう思っていたのだが……この時期はサンタ姿の人が割といることに驚いた。

 オモチャ屋さんに家電屋、なぜか本屋さんまでサンタの格好をした人がいる。

 青海くんは……?

 周りを見渡すがそれらしい人影は……


 『ケーキいかがですか~』

 聞き慣れた声が聞こえたので振り返る。

 ちょうど大きなクリスマスツリーのそばで、サンタ姿の青海くんを発見した。

 ……かわいいっ!!

 思わず持っていた携帯電話で青海くんの姿を写真に撮る。

 屋外だし、サンタの格好と言っても薄着のようだし、青海くんは寒いのだろう。

 余り顔色が優れないようだが懸命に通る人に声を掛け続けていた。

 思わず声を掛けてしまいそうになった瞬間背後から更に聞き慣れた声がした。

 「泉……やっぱりお前も来たのか」

 振り返ると真実がいた。

 「真実……真実も青海くんが気になったの?」

 そう聞くと真実は苦笑する。

 「浅川と勉強するついでに……な。アイツはいまトイレに行ってるけど」

 真実はそう言いながら持っていた紙袋を見せてくれた。

 「それとついでに透のクリスマスプレゼントも選んで貰ったんだ。今年は腹巻きにしたよ。アイツいつも薄着だしな」

 



 ★



 浅川さんと真実の邪魔をしたくなかったのでその場で真実と別れた。

 できることなら私も青海くんへのプレゼントをここで買っておきたかった。

 青海くんに見つからないようにフロアを移動してあちこち見て回る。

 色々見て回って、結局青海くんのプレゼントは黒い毛糸で編まれた手袋にした。

 ワンポイントで小さく猫の顔が刺繍されているのが可愛らしかった。

 色違いで自分のものと、真実の物も購入した。

 青海くんと色違いなら真実も喜んでくれるだろう。

 これで安心してクリスマスを迎えることができる。

 そう思いながらもう一度青海くんの姿を見ようと移動した。


 
 しかし残念なことに青海くんは休憩時間に入ったのか姿は見られなかった。

 それでも携帯に残した青海くんのサンタ姿の写真を見ると嬉しくなる。

 
 気が済んだ私はショッピングモールを後にした。

 

 きっと青海くんは体を冷やして帰ってくるだろう。

 温かいものを作って迎えてあげたい。

 帰りにスーパーに寄ってお鍋の具材を買い揃えた。



 

 朝元気に出て行った青海くんが帰ってくる頃にはぐったりとしている。

 「ただいま、ごめんね、ご飯の用意任せちゃって……」

 そんなことを言い出した青海くんの手を引き家に入れる。

 「青海くんいいから、お風呂すぐに入れるから身体温めてきてっ!そしたらご飯にしようっ!」

 触れた青海くんの手は冷たくなっていた。

 ……早く手袋渡してあげたいな……

 そう思いながら青海くんをお風呂に向かわせ、用意していた鍋に火を入れる。

 お鍋がぐつぐつと煮立っていい感じになった頃に青海くんはお風呂から出てきたし、真実も家に帰ってきた。

 

 3人揃って夕飯を食べる。

 「はあっ、あったかくておいしいねえ……」

 ため息混じりの青海くんの一言に思わず笑みがこぼれる。

 「うん、冬はやっぱり温かいものが一番だね。青海くんは嫌いな食べ物とかあるの?」

 そう聞くと青海くんは困ったような顔で笑った。

 「何でも食べれるよ。嫌いなものは特にないよ」

 真実はそれを聞くと悪戯っ子のような顔をする。

 「ほんとかよ?それじゃあ今度試してみようぜ?世の中にはクセがある食いもんとかあるんだぞ」

 「ええっ、わざわざ試すの?」

 驚く青海くんを揶揄う真実。

 賑やかで明るい食卓をみんなで囲む。

 些細なことだったが幸せだなあと思った。


 

 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

翡翠の歌姫-皇帝が封じた声【中華サスペンス×切ない恋】

雪城 冴 (ゆきしろ さえ)
キャラ文芸
宮廷歌姫の“声”は、かつて皇帝が封じた禁断の力? 翠蓮は孤児と蔑まれるが、才能で皇子や皇后の目を引き、後宮の争いや命の危機に巻き込まれる―― その声の力に怯えながらも、歌うことをやめられない翠蓮(スイレン)に近づくのは、真逆のタイプの二人の皇子。 優しく寄り添う“学”の皇子・蒼瑛(ソウエイ)と、危険な香りをまとう“武”の皇子・炎辰(エンシン)。 誰が味方で、誰が“声”を利用しようとしているの――?声に導かれ、三人は王家が隠し続けた運命へと引き寄せられていく。 【中華サスペンス×切ない恋】 ミステリー要素あり、ドロドロな重い話あり、身分違いの恋あり 旧題:翡翠の歌姫と2人の王子

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

鬼隊長は元お隣女子には敵わない~猪はひよこを愛でる~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「ひなちゃん。 俺と結婚、しよ?」 兄の結婚式で昔、お隣に住んでいた憧れのお兄ちゃん・猪狩に再会した雛乃。 昔話をしているうちに結婚を迫られ、冗談だと思ったものの。 それから猪狩の猛追撃が!? 相変わらず格好いい猪狩に次第に惹かれていく雛乃。 でも、彼のとある事情で結婚には踏み切れない。 そんな折り、雛乃の勤めている銀行で事件が……。 愛川雛乃 あいかわひなの 26 ごく普通の地方銀行員 某着せ替え人形のような見た目で可愛い おかげで女性からは恨みを買いがちなのが悩み 真面目で努力家なのに、 なぜかよくない噂を立てられる苦労人 × 岡藤猪狩 おかふじいかり 36 警察官でSIT所属のエリート 泣く子も黙る突入部隊の鬼隊長 でも、雛乃には……?

処理中です...