◆青海くんを振り向かせたいっ〜水野泉の恋愛事情

青海

文字の大きさ
55 / 70

バイトバイトバイトで…

しおりを挟む
 「泉、さっき透風呂上がってたから今なら空いてるぞ」

 そろそろお風呂に入ろうとしていたら真実にそう言われた。

 「透もう帰って来てたの?」

 嬉しくなってそう聞き返すと真実が笑う。

 「嬉しそうだな。透疲れてるみたいだったから早く風呂入って部屋に行けば少しは構ってもらえるんじゃないか?」

 そう言いながら真実はペットボトルに入った水を飲み干した。

 透がこの時間に帰ってくるのは久しぶりだ。

 今日は絶対一緒にこの前貰ったゼリーを食べたい。

 それから少しでもいいから一緒にいられたらいいな……

 密かにそう思う。



 ……透疲れてるんなら寝ちゃうかな?
 お風呂に入る前に部屋に行った方がいいだろうか?

 迷っていると更に真実が話しかけてくる。

 「どうせ透の部屋に行くなら風呂入って行った方がいいぞ。お前今日汗かいただろ。透に臭いって思われるぞ?それに風呂済んでたらそのまま一緒に寝てたっていいんだし」

 そんな事を言われ、迷わずお風呂に直行した。

 

 急いで着替えを持って脱衣所に入る。
 ……あれ?
 洗濯機の上に透の部屋着が置かれているのに気づく。

 真実は透はお風呂もう出たって言ってたし……透疲れちゃって忘れて行ったのかな?
 
 お風呂から出たら持っていってあげよう。
 これで透の部屋に遊びに行く理由ができた。
 そう思いながら服を脱ぐ。


 下着を脱いで、髪を纏めていると不意に浴室から水音が響いた。

 ……えっ?!

 「んっ、ヤバイ寝ちゃってた!海くんごめんすぐ出るから!」

 曇りガラス越しに人影が現れ、ガラス戸が空いた。

 中から慌てたように出て来たのは……

 「いずみっ!?」

 透だった。

 
 驚いて透を見つめる。
 透は入浴中だったので当然全裸だった。
 私も入浴しようとしていたので当然全裸だ。



 透は驚いたように私を見つめて固まっていた。

 透と見つめ合いながら、なにも考えられずに固まってしまう。

 真っ赤になった透は私を見つめて……




 ……ぼんやりと真実の楽しそうな声を思い出す。

 ……いつになく私の入浴を勧めてきた真実。

 ……真実に嵌められたようだ……


 「……あのっ、真実がっ……今ならお風呂空いてるって……着替えがあったけど……忘れていったのかと思って……」

 パニクりながらそう言い、透から視線を外らせようとして……気づいてしまった。

 細身の透の肩からお腹周りについている傷痕や火傷の痕……お腹から下半身にかけての手術痕……の透の……

 ……大人の男の人の身体だ……

 気づいてしまって全身の血が沸くように熱くなって行くのに気がつく。

 そして透のそこから目が離せなくなっていた。

 ……私この前……触っちゃったんだ……

 今更ながらものすごく恥ずかしくなる。

 ……すごく熱くって……

 勝手に思い出してしまい心臓がドキドキと脈打ち始める。

 その間にも透の視線を感じていた。

 ……今の自分の状況を思い出す。

 髪を纏めようとしていたため両手を耳元にやって、胸を突き出すような格好になっている。

 ……全裸である。

 ……!!


 
 

 「ゴメンっ!!」

 いち早く動いたのは透だった。
 透が思い出したようにボクサータイプのパンツを素早く履いたと思ったら、着替えを掴んで脱衣所を走り出ていった。

 ……透身体拭いてない……

 そう思いながらも透の身体が変化して行く過程を見てしまった衝撃に心を奪われていた。

 ……透もやっぱり男の人なんだなあ……

 脳裏に焼き付いてしまったようで透の身体の事をつい考えてしまう。

 ……あんな風になるんだ……

 知識としては知っていた。
 
 しかし実際に見ると……しかも好きな人のを……

 ドキドキが収まらずにそのまま脱衣所でしばらくじっとしていた。

 やがてふっと透の使っているシャンプーの匂いに気づき、ゆっくり深呼吸する。

 

 ……真実ったら……
 
 真実に騙されたのは悔しいが、でもなんだか嫌な気分ではなかった。

 
 ……あんなの……私の中に入るのかな……

 透の身体を思い出してしまってお腹の奥の方が疼く。

 目を閉じると透の身体を思い出してしまい、同時に恥ずかしくなる。


 
 ……透となら……早くそうなりたいな……


 そう思いながら透の入っていた浴室に入る。

 

 

 ★




 眠ろうと目を閉じると透の事を思い出してしまう。

 結局一晩中悶々としてしまい、明け方眠るのを諦めた私はキッチンに立つ。

 まあ今日は学校もお休みだし、眠くなっても困らない。

 透は今日も一日バイトだと言っていたのでせめて……

 甘い卵焼きにミートボール、ウインナーをタコさんにして……

 透のお弁当と朝食を作ってしまうことにした。

 冷ましたご飯に梅干しと焼きシャケを入れてそっと握る。

 ……透が今日1日怪我なくバイトを終えられますように。

 おにぎりを作り終えた頃に何処かの部屋のドアが閉まる音がした。

 程なくして階段を降りてくる足音。

 まだ6時前……真実だろうか?

 真実だったら昨日の文句を一つくらい言いたかった。

 

 キッチンのドアを見つめる。

 入ってきたのは……透だった。

 「いずみっ……おはよう」

 少し赤くなった透が困ったように微笑む。

 「透、昨日はごめんなさいっ」

 そう謝ると透は首を振る。

 「いや、あれ真実に騙されたんでしょ、泉は悪くないよ。……それにすごく……綺麗だったし……」

 ぼそっとそう言いながら照れたように透は笑う。

 透の笑顔を見れてホッとしながら作ったばかりのお弁当を透に渡す。

 「これ……昨日のお詫びに……今日もバイトでしょ?……良かったら……食べて?」

 透は驚いたような顔をしたがすぐに嬉しそうに笑ってくれた。

 「ありがとう、いいの??オレ……なんか得しちゃってるな……」

 お弁当を鞄にしまった透が私を見つめる。

 「泉……本当にありがとう。オレ泉が好きだよっ」

 そう言われてとても嬉しくなる。
 
 ……なんかいろいろ順番が逆になってしまったが、でも誰がなんと言おうと私は透が好きだ。

 ……透を見上げると透も私を見つめていた。

 ……透に……もっと近づきたいなあ。

 そう思っていたら透にそっと肩を触られ、抱き寄せられた。

 「……透……好きっ」

 「うん……オレもだよ……」

 透の顔が近づいてきたので目を閉じる。

 ドキドキしながら目を閉じているとそっと透の唇が私の唇に触れた。

 ……大好きっ!!

 それがどのくらいの時間だったのかはわからない。

 ゆっくりと離れていく透の顔……離れてしまう寂しさを感じながら私は透の背に腕を回して抱きしめる。

 透もそっと私を抱きしめてくれた。

 ……すごく……幸せだ

 透の胸に顔を押しつけて思い切り深呼吸する。

 透の匂いと胸の温もり……

 
 「……離したくないな……」

 少し笑いの混じった、困ったような透の声。

 「……一緒にいようね」

 私はもう一度透に抱きつく。

 
  
 何処かの部屋のドアが開く音がして、透はそっと私を離した。

 「じゃあ、行ってくるね」

 優しく微笑んでくれた透の背を見送る。

 軽快に階段を降りてくるのは真実だった。

 「真実、行ってくるね」

 透の声を聞きながら真実に最初に言う一言を思いつけずにいた。

 「ああ、気をつけて行ってこいよ」

 真実は玄関まで透を見送ったようで、そのあとキッチンにくる。

 「おはよう泉、今朝は早いな」

 何も無かったかのように話しかけてくる真実。

 ……まあ正直文句は……無いかなあ……

 ……透のことは全然嫌じゃなかった。

 ……かと言ってラッキーだとも思えなかったが……

 ……うーん……

 色々考えていると真実は思い出したように悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
 
 「昨日はどうだった?透の……見たんだろう?」

 「……!!」

 真実の言葉を理解した瞬間顔がかあっと赤くなってしまう。

 何も言えずに真実の顔を睨む。

 「まあ泉も今後のことを考えると事前準備ぐらいは必要だろ?突然透に迫られて、拒否なんてしたら透トラウマになっちまうかもしれないしな」

 悪びれもせずに真実はそんな事を言い出した。

 「っ!!」

 そのままいいように揶揄われるのかと思ったのだが……


 「透の身体見ただろう?アイツ……身体だけじゃなく、心のほうにまだダメージ残ってる。タバコを押し付けられた痕は陰部の方にもあったし……」

 真実はいつの間にかに真剣な眼差しで私を見ていた。

 「お前に言うのは今も迷ってるんだが、透……去年まで自慰行為したことがなかったみたいだ。普通の男だったら中学頃にはもうやってるのに……」

 ……そんな事を言い始めた真実に驚きながら話を聞く。

 「去年……お前の胸見て興奮した透に……俺が教えた。一応男としての機能は多分生きてる筈だ。だから後はお前が……」

 真実はそっと私の肩に触れた。

 「出来る事ならお前が透を幸せにしてやってくれ…………の代わりに……」

 最後の方は聞き取れなかったがおそらく透の亡くなった本当のご両親や義理のご両親の代わりにと言ったんだと思う。

 真実は日課のランニングに行くようだ。

 ペットボトルを冷蔵庫から取り出すとそのまま出て行ってしまった。


 私はぼんやりと今きいた話をゆっくり反芻していた。
 

 
 
 




 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...